「検索」(16)
「私たちは、なんだ?」
聞き慣れた声に、ミコは目をあけた。
夕焼けの帰り道。
見れば、通学路に立つのはひとりの若者だ。さっき子猫に引っかかれた指を、ミコに渡されたハンカチでおさえている。
薬局の袋をさげたまま、ミコはあの曲がり角に立っていた。
ミコの機体はおろか、制服にも傷ひとつない。
困惑げに、ヒデトはつぶやいた。
「行ってきたんだろ、薬局。なにマネキンみたいに突っ立ってるんだ?」
「あ、いえ、すいません」
「おまえがたそがれる、なんてことはねえよな。おおかた、また組織と意地の悪い極秘通話でもしてたんだろ? そんなお忙しいミコさんにゃ悪いんだが……」
小さく顔をしかめながら、ヒデトはじぶんの手をしめした。
「だんだん痛くなってきた。消毒するならさっさとしてくれ。壊死して末端から腐り、腕が落ちちまったらどうしてくれる?」
「はい、すみやかに」
「!?」
いきなりのことに、ヒデトは目を白黒させることになった。
通学カバンも薬局の袋も捨て、ミコがじぶんに抱きついたではないか。胸の中のミコからは、かすかな嗚咽さえ聞こえる。道に点々と落ちるのは、機械の擬似的な涙の粒だ。
「おいミコ、なにがあったんだ? よせ、人に見られる。やばいって」
なにがどうなっているかはわからない。時間と現象をふくめて、なにもかもが巻き戻った? だがたしかに、ミコのセンサーはすべて証明済みだ。
ヒデトとじぶんはここにいる。これは現実だ、と。
「やばくはありません。だって、忘れてないでしょう? 組織が私たちに与えた〝設定〟は……」
ヒデトにくっついたまま、ミコはつぶやいた。
「〝恋人同士〟」




