表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スウィートカース(Ⅳ):戦地直送・黒野美湖の異界斬断  作者: 湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
第二話「検索」
27/54

「検索」(15)

 機械は人を裏切らない。


 ひとつ、人間を傷つけない。ひとつ、人間の命令に従う。ひとつ、自分の機体を守る。


 その原則を、組織への申請と許可をもとに、ひとつずつ順番に裏切って行動するのがマタドールシステムだ。


 裏切りと正義をはかり続けるアンバランスな天秤。


 だがそこに、マタドールにもしも、人間らしい感情が入り込んだとしたら?


 遠くから、多くの緊急車両のサイレンが近づいてくる。


 病院の中に人気がないのは、組織がすでに患者とスタッフの避難を完了させたためだ。


 いや、すべてではない。この集中治療室のヒデトの保護だけは、ミコが受け持っていた。


 電光と白煙をこぼす腕をおさえ、脚を引きずりながら、満身創痍のミコはなんとかヒデトの横に到着した。崩れ落ちるようにイスに座る。


 薬がよく効いているのか、ヒデトは目を閉じたままだった。


「こんどはちゃんと、待っていてくれましたね」


 ベッドのヒデトの頭を軽くさすり、ミコはその額に口づけした。


 静寂の中に、酸素吸入器の音だけが反すうしている。


 生命維持装置の操作盤に、ためらいがちに触れるミコの手。


 長い時間をかけて所定のパスワードを打ち込むと、電源オン・オフの選択肢が現れた。


「もう、ひとりぼっちにはしません。二度と。私もすぐに、そちらへいきます」


 震えるミコの指は、生命維持装置の電源をオフにした。


 酸素吸入器の響きは、ゆっくり消えていく。


 ヒデトの手を握ると、物言わぬその胸に、ミコはそっと頭をおいた。


 窓の外には、無数の赤色灯が回っている。


 閉じたミコの瞳から、たしかにひとすじ、輝くものが頬をつたった。


「そう、だって、私たちは……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ