「検索」(12)
場所は戻り、ふたたびあの召喚士の暗い部屋……
仮面の召喚士の前で、フィアはあっけらかんと肩をすくめた。
「バレてるわね。あんなことやこんなことまで、ぜ~んぶ」
「そうか」
「冷たいわ。もうすぐ組織に強制停止をくらうのよ、あたし?」
「それは裏から手を回して、先延ばしにしてある」
「あら、なんのため? あたしなんかただの実験動物扱いじゃないの? ご主人様?」
「処分場での戦いの最中、ぼくはきみに命じたはずだ。戻れ、と」
「それがね、おかしいのよ。ふだんからご主人様に従順なあたしだけど、あのときは違った。こう、あたしは生きてるんだ、っていう熱い……感情みたいなもの?」
召喚士には、毛ほども動揺した様子はない。ただ声のみが流れるだけだ。
「自分でまいた種、ということわざがある」
「自分で刈り取れ、ってアレね? なにかチャンスをくれるの?」
「きみが有利に戦えるように、いくつか細工をした」
召喚士は言い放った。
「黒野美湖を破壊しろ。いや、破壊だけならたやすい。条件として、その絶対領域……つまり首から上だけは持ち帰れ」
「おおせのままに。必要なのはみっつ。ご主人様の十分な召喚術のバックアップと、Dカスタムのフル装備。そういえば、褪奈くんのほうはどうしましょ?」
「いまのアレはまったくいらん。跡形も残さず始末せよ」
「さあ、暴れるわよォ」
元気に肩を回しながら退室しようとしたフィアを、召喚士がとめた。
「さっき、きみの必要物はみっつと言ったな。まだふたつしか聞いていないようだが、いいのかね?」
「ああ、簡単なことよ。それは、ご主人様のあたしへの……言おうと思ったけど、やっぱりやめた。恥ずかしいから♪」
「まて。ひとつたずねるが……先の戦いできみ、あちら側の世界の電子ウィルスに攻撃された形跡があったな。あの影響はどうなっている?」
出口のドアノブに手をかけ、フィアはふと自嘲げにほほえんだ。
「影響はゼロよ。あったらとっくに死んでるわ。じゃ、またね」
一瞬外の光りが差し込み、扉は閉じて部屋はまた暗闇に戻った。
たったひとりの室内で、召喚士は珍しく感慨のようなものにふけっている。上向けた仮面の裏側、虚空を見つめる視線には不思議な感情がこもっていた。
「あれは、ぼくのフィア……いや、まさか、な」




