「検索」(6)
場所は変わって、赤務警察本署。
取調室の奥では、ミコがぴんと背筋を伸ばしたまま立ち尽くしている。格子で封じられた窓の外を見つめ、微動だにしない。こちら側からしか見えない一方通行のミラーガラスでミコを示しながら、取調室の外、となりの上司に噛みついたのはパーテだ。
「おいおい砂目さんよ。どういうこったい、こりゃ?」
「タイプP、詳細はきちんと共有しているだろう。褪奈の刺し傷の検査は長時間かけて行われた。処分場に残されていた凶器……〝闇の彷徨者〟の鑑定結果も、黒野美湖が容疑者であることを証明している」
「ミコがヒデトを刺したと!? 組織トップクラスの捜査官、タイプSが!? 冗談もほどほどにしやがれ!」
「仮にも機械であるきみが、たしかな物的証拠を疑うのか? 感情論で仲間をかばい立てするとは、えらく人間臭いな、タイプP。とても疑似人格とは思えん」
「よく言われる。はっきりさせとくぞ。事件の解決にあたって、俺らマタドールは、過去の刑事や探偵、捜査官や退魔師たちの経験をマネして、ときには新たな工夫をして仕事する。人間も、一定のゴール地点を決め、過去の出来事や新しいアイディアをもとに、いま起こってる課題に向き合う。その点だけについちゃ、道具も人間も同じだ。そのマタドールの意見からすると、ミコが監禁されるのはどう考えてもおかしい」
「機械と人間が同じだというのかね? では機械もまた、人間と同じように仲間を裏切るということになるな」
いまにも怒りでスーツが弾け飛びそうになるのを、パーテは歯ぎしりとともに必死にこらえている。冷静に砂目はなだめた。
「正直なところ、私もいまなにが起こっているのか皆目見当もつかない。そして私は、きみたちマタドールをはじめとした部下に全幅の信頼をおいている。とくに、人生が台無しになった褪奈のことは気が気ではない。組織の指示とはいえ、こんなことをするのはとても辛いんだよ、私も」
「じゃあすぐにでも解放しろよ、ミコを」
「そうしたい。だがそれは〝彼女〟がタイプSの話を聞いてからだ」
蠱惑的な靴音は、パーテたちの背後に立ち止まった。
美須賀大付属の制服、それに不釣り合いなほど端正な西洋人形めいた容貌は。
地鳴りのごとき重々しさで、パーテはうなった。
「タイプF……フィア・ドール。なんの用だ?」
「ご挨拶なことね、ニセマッチョ?」
マタドールシステム・タイプF……フィアは、同僚と上司へ慇懃無礼な挨拶をひとつよこした。きらめく前髪をかきあげながら、パーテを細目で見据える。
「図体ばかりが無駄に空間を占領して、暑苦しいったらありゃしないわ。あいかわらず思考回路と人工筋肉の設計配分は改善されないままかしら?」
さっそくのフィアの挑発を、パーテは鼻であざ笑った。
「どうしたんだい、そっちこそ。体じゅうに火器反応が満載だぞ。ちょっと火であぶったら、街ごと警察署がぶっ飛ぶな。いま何キロ、いや何トンあるのかな、お嬢さん?」
「出会い頭に体重の話する!? このか弱い乙女に!?」
「上等だ、おもてにでろ」
「おもてで待つのはきみのほうだ、タイプP。取調室のおもてでな」
にらみあう二機を仲裁したのは、砂目だった。
「フィアには、ふたつの目的で特別に来署してもらった。ひとつは、タイプSの取り調べ」
砂目の説明に、フィアも続いた。
「ふたつめは、砂目課長の身辺警護。褪奈くんを殺しかけた危険人物よ。いつ暴れだすかわからないからね」
いよいよ眉間に縦じわを増やし、パーテはうめいた。
「いつでもミコを処分できるように、そのフル装備か」
「そ。あたしはいつでもタイプSを灰にできる。なんなら、あんた自身の手でかわいい妹を解体してあげてもいいのよ。ね、〝妖術師の牙〟?」
取調室の扉に手をかけたフィアへ、パーテは念押しした。
「許さねえからな、ミコにおかしなことをしたら」
「ええ、わかったわ。心待ちにしてるわよ、あっちが先におかしなことをするのを」




