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スウィートカース(Ⅳ):戦地直送・黒野美湖の異界斬断  作者: 湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
第二話「検索」
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「検索」(5)

 一時間後……


 上糸総合病院。


 エレベーターを降りたミコを最初に出迎えたのは、筋肉質の巨体をスーツで包んだパーテだった。


「ミコ」


「移動中にじゅうぶんな説明は受けました」


 ミコの反応は無機質だった。人間でいう〝あせって〟いる様子だ。早足に病室へ向かうミコのとなりに並び、パーテは問いかけた。


「ヒデトはひとり、なんであんな場所に?」


「ですから説明したとおり、ヒデトは私といっしょにいました」


「疑ってるわけじゃない。おまえの視界に残された記録と、ヒデトの腕時計のGPS反応等では、たしかにおまえの説明どおりになってる……()()()()()


「発見された人物の容態は?」


「手術はなんとか間に合った。一命はとりとめて、いまは集中治療室へ移ってる」


「回復の見込みは?」


 矢継ぎ早のミコの質問に、パーテは一瞬口ごもった。血でも吐くように答える。


「しばらく仕事は無理だ。たぶん」


「たぶん? 我々マタドールにごまかしや遠慮はいりません。彼のダメージの詳細を」


 無慈悲な説明は、パーテではない別の人物がはなった。


「喉仏を突き破った凶器は、声帯等を破壊し、脛骨を切断してうしろへ貫通している」


 そう言ってのけたのは、ミコが目指す病室の前、腕組みして壁にもたれる砂目課長だった。ミコたち捜査官のリーダーだ。砂目は淡々と続けた。


「人工声帯をつける、つけないのレベルではない。二度としゃべることはできないし、第一、意識が戻るかどうかすら不明だ。そして意識が戻ったところで、褪奈はもう一生身動きひとつ……」


 首を横に振って、ミコは砂目の残酷な言葉をさえぎった。


「もう結構です、砂目課長。ありえません。ヒデトのはずがありません」


「……入りたまえ」


 砂目に招かれ、ミコたちは病室へ入った。


 最初にミコの聴覚がとらえたのは、人工呼吸器の音だ。


 かたわらのモニターで、浅く山と谷を描き続ける心電図。


 ベッドに寝かされたまま、その若者は静かに目をつむっていた。全身にあらゆる管をつながれ、とくに傷の深い喉笛には太い生命維持装置が取り付けられている。


 これはだれだ?


 マタドールのセンサーを総動員して、ミコはベッドの人物を解析した。納得いかない結果ばかりが出るので、なんどもなんども解析する。


 知らずしらずのうちに、ミコの視界には奇妙な()()()が生じていた。じぶんの機体にこんな余計な機能があったのかと、いまさらながらに驚く。擬似的な〝涙〟をうかべた目元を両手で覆い、ミコは枯れた声でつぶやいた。


「まちがいありません……たしかにヒデトです」


 うなだれたミコの背をさすり、ささやいたのはパーテだった。


「いつの間にか、おまえの性格を選んでたんだな、あの褪奈が」


「いいえ。私は、さいしょに彼と出会ったころの私のままです」


「じゅうぶんに察するよ、おまえの気持ち」


「気持ちなんて……ただのプログラムにしか過ぎません」


「強がらなくたっていいんだ。手でも握って、声でもかけてやれよ」


「できません。医師の許可がおりていません」


 制服のそでで目頭をぬぐったミコの顔は、やや憔悴しているように見えた。人間社会に自然に溶け込むため、マタドールには組織から、およそ考えられるすべての人間的な生理機能が与えられている。それらがすべて偽物だということは別にして。


 瞳に冷たいものを宿し、ミコは砂目にたずねた。


「犯人は?」


「組織総動員で捜索中だ。逮捕も時間の問題だろう」


「私も捜査に加えてください。この件には、より多くのマタドールの手がいります。犯人は高い戦闘能力を有しており、異世界のものである可能性が高い確率で考えられます」


「ほう、その根拠は?」


「ヒデトが負けたからです。ヒデトは対現たいげん対異たいい護身術の有資格者、また呪力の行使者でもあり、戦いのプロです」


 続けてミコは聞いた。


「ヒデトを傷つけた凶器から容疑者をわりだします。鑑識班の見解は?」


「いや、そのことなんだが……凶器は」


 ためらいがちに一拍おいて、砂目は答えた。


「刀だ」


「刀?」

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