「検索」(4)
ミコの腕時計が着信音を放ったのは、ちょうど買い物を終えて薬局を出たときだった。
「はい、黒野です」
〈ミコ……〉
時計から響いたのは、マタドールシステム・タイプP……パーテの野太い声だった。
だがその語調には、いつもの奔放さはない。パーテは続けた。
〈いま話せるか?〉
「はい、大丈夫です」
〈ミコ、落ち着いて聞いてくれ〉
買い物袋をぶら下げたまま、ミコは首をかしげた。
「私は取り乱したりはしません。機械ですから。なにか重大な用件ですね?」
通信機の向こうから、すこしの間が返ってきた。機械のパーテも、彼なりに覚悟を決める時間が必要だったらしい。
〈市内の自動車処分場で、ヒデトが見つかった〉
「え?」
〈刃物らしきもので刺され、ヒデトは意識不明の重体だ〉
「そんな、またご冗談を」
否定するミコだが、ヒデトのもとへ戻る足取りは我知らず早くなっていた。なにか嫌な予感がする。機械に人間の直感があるかといえば疑問だが、このときたしかにミコはわずかな不安を覚えていた。
「ヒデトなら、いま私といっしょに……」
曲がり角をまがったミコの足は、凍りついたように止まった。
さっきまでいたはずの場所に、ヒデトがいない。
カバンのひとつ、靴のひとつも落ちておらず、なんの痕跡も残っていないではないか。
あわてて機体内の回線からヒデトの通信機を鳴らすミコだが、着信音はどこか別のところで響いた。つまり、通話中のパーテがいる遠い場所から。
重苦しい声音で、パーテはミコへ告げた。
〈上糸総合病院だ。すぐに来れるか?〉




