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■第一話 地獄界にて並ぶ者なし


■はじめに

 


 深く深い、地の底のお話。


 


 空は真っ黒な墨で塗りつぶしたかの様に、果てない暗黒が見る者全て飲み込むかの如く続いている。どんなに目を凝らして見ても、輝く星々の光など一切なく、ここがこの世非ざる場所である事を、私の心と身体に理解させる。


 


 ふと振り返ってみれば、青白い顔に虚ろな瞳をギョロつかせた男が力なくユラユラと歩いている。辺りを見渡せば、そんな様子の人々が無数に……数多に列をなし、遥か彼方にそびえ立つ朱塗りの楼閣へと向けノロノロとその歩みを進める。


 


 心寒い風が一吹きすれば、カラカラに乾いた砂ぼこりが舞い上がり、不快な感覚を肌に打ち付ける。


 


 私は地獄に落ちたのだ。


 


 心のどこかで地獄へ落ちると感じていたハズなのに、多少の善行で、多少の良心で、多少の幸福で、どうしてそんな気持ちを忘れ去ってしまったのだろうか。


 


 私だけじゃない。


 


 私だけが悪い訳じゃない。


 


 私は大丈夫。


 


 それは単なる勘違いだ。


 


 誰もが平等に地獄に落ちる。


 


 誰もが平等に裁かれる。


 


 そんな当たり前の事を、どうして私は忘れ去ってしまったのだろうか。


 


 この青ざめた顔の男は、私自身だ。


 


 目の前に映されるモノは、私の人生そのものではないか。


 


 隠していた罪も、小さな嘘も、些細な悪戯も、何もかも全て暴かれてゆく。知られたくない過去も、私のおぞましい心も、後悔の気持ちも、何もかも全て、すべて。


 


「後悔など、もう遅い」



 ズシンと重く響く野太い男の声が、私の心臓を鋭く貫いた。聞く者全てに、畏れをまき散らす声の主は続ける。


 


「尊い教えを忘れ、父と母を顧みず、友を蔑ろにし、愛した者を偽り、死にゆく者から学ばなかった汝に救いの余地は一切無い」



 怒りで燃え上がる炎の様な、赤銅色の肌の大男は手にした杓を黒檀で作られた堅牢な机に叩きつける。


 


「自らの命を軽んじた罪、獄卒共に揉まれ清算して来るが良い。その後、改めて断罪処分とする。牛頭鬼、馬頭鬼、この者を連れてゆけ」



 二匹の屈強な鬼に引きずられ、大男の前を後にする私に、彼は大きくタメ息を付いた。


 


 私は地獄に落ちたのだ。


 


 


 


---------------------------------------------





「この者の二次受けは、どう処理しましょうか?」



 黒い袴を身に着けた細身の青年が、手元の書類に走り書きをしながら大男に声をかける。


 


 彼の名は「司録」


 


 地獄の裁判官の秘書官であり、彼が声を掛けた人物こそ、十王にして地獄の裁判を取り仕切る「閻魔大王」その人である。


 


 閻魔は立派な黒い口ひげに手を掛けると、モシャモシャと手遊びを始める。少し「うーん」と間を置いて嘆息を吐きながら、司録の問いに答える。


 


「こういうパターンって、采配に悩まされちゃうんだよねぇ」



 先ほどのまでの、恐怖の具現とも言える、雄々しい姿とは打って変わって閻魔の口調は軽く、親しみやすいものに変わっていた。


 


「心中察します」



 司録は書類を書く手を止めると、掛けていたメガネを外し「ウーン」と背伸びをする。


 


「この者の処理で本日のお勤めは終了ですので、もうひと頑張りですよ」



「あぁ、何だか私まで病んじゃう様な気がするよ」



「しっかりしてくださいよ。一々感情移入していたら、この仕事務まりませんよ?」



「分かってるんだけどねぇ。何かこう、やり切れないと言うか何と言うか」



 閻魔はその頭上に戴く黄金の冠を手に取ると、もの悲しい表情で視線を落としポツリと呟いた。


 


「もう、仏の教えは古いと言うのかな」



 そんな閻魔の様子に、司録はその端正な顔を少しばかり曇らせた。


 


(本当、閻魔様って裁判官向いてないなぁ)



(こんな時に限って、「司命」は二日酔いで寝込んでるし)



(……ハァ、僕も休み貰おうかなぁ)



 静まり返っていた地獄の法廷には、二つのタメ息が響き渡った。





■第一話 地獄界にて並ぶ者なし





 むせかえる様な熱気と、真っ赤に焼けた溶鉄を噴出す山で囲まれる第二の地獄「黒縄」は、殺生や盗みを働いた者が落とされ、獄卒衆に火炎の縄と焔の斧で責め苦を受ける聞くも恐ろしい場所である。


 


 そもそも「八大地獄」というものは、どれも聞くに堪えない責め苦を受けるものだが、それはまた別のお話。


 


 黒縄地獄の果てには、多少くたびれている……年季の入った地獄職員の女子社宅が存在する。


 


 それほど広いものでも無く、数える程しか入居者もおらず、活気があると言うわけでもない。


 


 そんな寂しさを感じさせる社宅の一室の暗がりで、モゾモゾと蠢く姿がある。



「あっ……うぅ」



「……」



「あぁ、寝すぎた」



「……ヤベェ時間になっとるわ」



 掠れた声の主が部屋に明かりを灯すと、そこには下着姿の若い女性が畳みに敷かれた布団から上半身を起こし、だらしなく虚ろな瞳を擦っている姿を露わにした。


 


 彼女の名は「司命」


 


 閻魔大王の側近にして、書記官であり、司録の同期である。


 


 グチャグチャに崩れた化粧のお陰で見るに耐えない姿であるが、彼女の顔面偏差値は、ある獄卒の話によるところ地獄の中でも三本の指に入るらしい。


 


「取り合えず、シャワー浴びるか」



 下着を乱雑に脱ぎ捨てると、彼女は大して広くもないユニットバスへ入って行った。


 


 キュッっと蛇口をひねる音と共に「あっつっ!!」と声を荒げ、ガタンと激しく物音を立てる。


 


「うあああぁぁぁ! 足攣ったあああああ!!」


 


 ……こんな彼女でも「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。いずれ菖蒲か杜若」と言われる程、容姿も立ち振る舞いも教養もズバ抜けていたと、三途の川の「奪衣婆」は「アタシほどじゃあないけどね」と語る。


  


 実際、閻魔大王の側近にまで上り詰めているそのキャリアは、正しく周囲の期待に応えており誰もが認める存在であった。


 


 が、司命は地獄の男共に、尊敬と畏怖の念をもって丁重に丁重に……出来れば関わりたくないとまで思われて接されている。


 


 彼女こそ「地獄界にて並ぶもの無し」と謳われる、酒豪にして酒乱なのである。


 


 まだ司命が書記官に就任したばかりの、ある獄卒たちの休日……いわゆる「地獄の窯開き」の話。久々の休みということもあり、浮かれ気分の鬼どもは宴を始めた。


 


 鬼たちの宴なのだから当然、酒が飛び交うもので飲めや歌えやとそれはもう賑やかなものである。この日ばかりは普段は酒を飲まぬ閻魔も盃に口をあてる。


 


 普段は口をつけないとはいえ、閻魔もそう酒に弱いわけではない。そんな彼もほろ酔い気分になるくらいには時間が経ったころ、司命がホトホト疲れ果てた様子で閻魔の隣にふらりと座り込んだ。


 


「やぁ、司命君。どうだい? 少しは楽しめてるかい?」



「えぇ、大変賑やかで心が晴れやかになりますわ」



 嘘である。


 


 笑顔を見せはするものも、それが取り繕われたものであることくらい、地獄の閻魔大王が見抜けぬ訳がない。


 


「ハハッ、獄卒衆は派手に飲むだろう? 酔っ払いの相手は疲れちゃうよね」



「いえ、決してそのような……」



 あぁ、気を使わせちゃってるなぁ。閻魔は少し気を病んだ。彼女の仕事は言うなれば事務作業。現場のガテン系や親方連中との付き合いはそうはないものだから、珍しがってあちらこちらへ引っ張りまわされたのだろう。


 


 加えて美女ときている。男共が鼻の下を伸ばすのは必然。折角、就任してくれたというのに、嫌気が刺して辞めてしまうなんてことは……。


 


 すっかりマイナス思考に陥った閻魔は、苦笑いを浮かべながら労いの言葉をかける。司命もいえいえと答えるばかりで雰囲気もなんだか重々しい。この状況を何か打開せねば。そんな折、ふと目の前の酒に目が行った。


 


「司命君、お酒は飲めるクチかい?」



 今思えば、この一言が伝説の始まりだったのかもしれない。


 


「えぇ、嗜む程度ではございますが」



「君、今日はまだ口付けてないんじゃない? 良かったら一献どうだい?」



 閻魔が徳利を差し出すと、司命は手のひらを振りながら慌てたように答える。


 


「そんな、ワタクシのような若輩者が、大王様から手酌など恐れおおございます」



「そんなに畏まられると困っちゃうな。これから苦楽を共にする仲間なんだから、もう少し気軽に接してくれた方が私は嬉しいな」



「左様でございますか、それでは僭越ながら一献いただきとうございます」



 司命が盃を手にすると、閻魔はトクリトクリと酒を注ぐ。酒で満たされた盃をクッと一口煽ると、彼女は「ふぅ」っと小さく呼吸を整えた。つがれた酒をスルリと飲み干した司命は、お次は大王様と閻魔の盃に手酌をする。


 


「あぁ、これはどうも」



「いえ、ワタクシの手酌でよろしければ」



「普段飲まないものだから、こういうのって慣れてなくてね。あぁでも、私の事は気にせず自分のペースで楽しんでね」



「お心遣い、痛み入ります」



「うーん、もっと肩の力抜いて貰いたいものなんだけどねぇ」



 お酒の力でもう少し……なんというか、新人特有の力みと言うものが抜けてくれればと考えた閻魔の目論見は、どうやら当てが外れた様に感じた。


 


 実際この時の二人の会話はココに書き記すにしても、なんの面白味もなく、無難で、他人行儀で、隣で聞いていたとしても記憶に残らないくらい、味気のないものだった。


 


 そんなやり取りが幾度か繰り返され続け数時間後。


 


 すっかり酒に酔った閻魔はフワフワとした心地で、隣に座る司録にあれやこれやと上機嫌に世間話をしていた。


 


「それでね、司録君。その時のお釈迦様の驚いた顔と言ったら……」



 そんな閻魔の話を遮る様に、司録は少し青ざめた様子で彼に言葉を返す。


 


「だ、大王様……マズいです」



「うん? マズいって? あぁ、さては君……苦手な食べ物があるんだね? 食べられないと言うのは仕方のない事だけどね、ほら、意外と口にしてみると……」



「そうではありません、司命が……そこ、お隣が」



 彼の言葉に、うん? っと隣に顔を向けると、つい先ほどまで上品に座り、口元を隠しながら食事を嗜んでいたはずの司命の様子が随分と様変わりしていた。



 男勝りに片膝を立て、片手に酒瓶を握りしめ、隣に座る獄卒の首に腕を回しなにやらグズグズと文句を垂らしていた。


 


「おうおう、アタシの酒が飲めねぇってどういう事よ」



 大きくパッチリとしていた彼女の眼は、今や鋭く座り込んでおり、上品な言葉使いとは裏腹に、随分と乱暴に、重く箔のついた声で獄卒を煽っている。


 


「司命ちゃん、オレぁもうこれ以上は飲めねぇよ」



「アタシには飲ませといて、自分は飲まねぇって言うのは道理が通らないんじゃね? 酒を煽って良い奴ってのはさ、自分が煽られて死んでも良いって覚悟がある奴だけなんだよ」



 獄卒の首に回した腕を、グイグイ締め上げながら司命は続ける。


 


「煽ったお兄さんは当然、酒で死ねる覚悟が出来てるんだよな? ほら、サクッと飲んで死ねコラ」



「ゴメンって、ゴメンなさいって!」



「うるせぇ! 謝る暇があるなら酒を飲めコラ!」



 この目を疑う様な光景に、閻魔の酔いは一気に醒め上がり、彼の思考と言葉は完全に奪い去られてしまった。


 


「なんだこの根性無しが! テメェはもう良い、興ざめだ。誰かアタシと飲める奴はいねぇのか?」



 完全に出来上がてしまった彼女の雄々しい呼びかけに、鬼の中でも随一と言われる酒豪が名乗りを上げる。


 


「おう、嬢ちゃん。随分と仕上がってるじゃねぇか」



 宴会場の奥から大きな巨体が、ズイっと前へその身をせり出した。 


 


 彼の名は「酒呑童子」


 


 かつて京の都を荒らしまわり、その悪名を天下に轟かせた大鬼である。


 


 彼は地獄に落ちた後ですらも、獄卒共を相手どりその剛腕で暴れまわっていた。


 


 誰もがお手上げ状態の荒くれものに、手を差し伸べたのは他でもない閻魔であった。閻魔は荒れ狂う彼を咎める事もせず、諭す事も言わず、ただ、酒呑童子の言葉に耳を傾けた。


 


 始めはただ、罵声をおらび、憎しみを叫び、怒りを吠えた。しかし、その声は次第に悲しみに咽び、苦しみをこぼし、後悔に嘆くものへと変わった。


 


 地獄の裁判の時ですら見せなかった懺悔の姿に、閻魔は酒呑童子にある提案をした。


 


 それは地獄の獄卒衆の一員となって、その生をやり直してはどうかと言うものであった。


 


 この事に大変心を動かされた酒呑童子は、閻魔の提案を飲み、今や獄卒衆随一の働き者と称される程になった。


 


 さて、そんな彼なのだが、その名に「酒」を関している位なものだから当然、酒が好物だし、とにかく強い。その強さたるや、本当に酔った所を今だかつて誰も見たことがないと言われるほどである。


 


 そんな酒呑童子が、これは面白いと名乗りを上げたのだ。司命の隣に座る閻魔も、これはマズいと彼女と童子を慌てて諫める。


 


「司命君、ちょっと飲みすぎちゃったね。少しお酒はお休みしようか。童子君もさ、そんな本気にならないで? ほら、ちょと酔ってハイ? って奴になってるだけだから……」



「いいえ大王様、オレはこの嬢ちゃんの事、痛く気に入りましてね。なに、酷いこたぁいたしませんよ」



「お? アタシを気に入ったとは、いい趣味だね大鬼の兄さん。是非とも飲み明かしたいもんだわ」



「ちょっとちょっと、二人とも落ち着いて」



 お互いが眼光をぶつけあい、白熱する飲ませあいの狭間に置かれた閻魔の額からは、油の様な汗がジットリと浮かび上がり「嗚呼……」と情けのない声をこぼしながら表情を曇らせるばかりであった。


 


 それからの宴会場は、正に地獄絵図であった。


 


 随分と久しぶりに、飲み明かせる仲間を見つけた酒呑童子はそれが大変嬉しかったらしく、今まで見せたことのない程に酩酊し、司命は酒をガブガブと飲み干しては、逃げ惑う獄卒を捕まえては強引に酒瓶をその口に突っ込んで回った。


 


 暴れ飲みである。


 


 辺りには酔いつぶれた鬼がゴロゴロと転がり、四つん這いで吐き散らかす者、水を求め花瓶に頭を突っ込む者、料理が盛られた皿に顔面を伏す者……書いても書いてもキリがないほどにそれはそれは酷い有様であった。


 


 肝心かなめの閻魔といえば、水を求めて彷徨う者たちに水を配って回っては、汚れた床を掃除に走りと、とても二人の暴走を止める余裕などはありもしなかった。


 


 司録などは、とうの昔に童子に酒をラッパ飲みさせられ物言わぬ骸とかしていた。


 


 そんな永遠とも感じられるような地獄の宴会にも、やはり終わりは来るものである。


 


 気が付けば、酒呑童子は大いびきをかきながらグッスリと眠りこけており、死屍累々の場には、飽きもせず酒瓶をゴクゴクと煽る司命が一人鼻歌を歌いながらすっかりダラけた様子で閻魔に向かってパチリとウインクを飛ばしていた。


 


 その様子に閻魔は、ただただ苦笑いをこぼす事しか出来ないでいた。


 


 


 


-------------------------------------------------





シャワーから上がった司命は、濡れた髪をタオルで丁寧に巻き上げ、バスタオルを身体に巻きユニットバスから姿を表す。


そのままの姿で、足を向ける先は冷蔵庫。


ガチャリとドアを開けゴソゴソと取り出したのは缶ビール。


プシュッ。


良く冷えた缶ビールを、風呂で火照った身体にゴクゴクと一気に流し込む。これが彼女の風呂上りのルーティーンである。二日酔いであろうが何であろうが、必ず風呂上りには冷たいビールを煽る。


喉に走る刺激に、清涼感と若干の苦み。


胃袋にドスンと溜まる、炭酸と麦汁の生み出す満足感。そこから身体中に駆け巡るアルコールのもたらす高揚感。これらが混然一体となって、「美味い」と脳が心が快楽信号を全身に駆け巡らせる。


「っぷっはぁ」


「最&高」


「この瞬間の為に生きてるわぁ」


最高の瞬間を享受した司命は、「ふぅ」と一呼吸置くとそのまま残りをグビグビと飲み干した。


「……」



 彼女はしばらく黙って天井を見つめた。


 


 今、司命を取り巻くこの環境に不服があるだとか、嗚呼、アタシ何やてんだろだとか、そう言ったことを彼女は考えている訳ではない。


 


 今の彼女は「無」である。


 


 何も考えていない。思考停止状態、虚無そのものなのである。


 


 こういった状態になる事で彼女は、脳内に溜まったキャッシュだったり、ストレスだったり、日常の無駄な記憶などを消し去りリフレッシュしているのだ。


 


 ボーッと何にも焦点を合わせず、何も考えもせず、何も聴かず、ただそこに存在するだけ。


 


 それだけの事が彼女には重要なのである。


 


 ストレスが溜まれば愚痴もこぼしたいし、憎たらしい者には嫌気も刺す。周囲の期待は重荷に感じるし、物事が上手くいかなければイライラもする。


 


 そんな事、誰だって当然感じる事だろう。


 


 しかし、彼女はそれを表には出そうとしない。


 


 自身がそう言ったことを感じると言う事は、他の誰かも当然そう言った事を感じると言う事を知っているからだ。


 


 ある時、彼女の友人が酷く激怒したことがあった。


 


 確かに自分に非があったのは認める。だが、彼女の友人はそこに付け込んで、散々、司命に当たり散らかした。


 


 そんな相手を冷静に眺めた彼女は、ただこの人物はストレスのハケ口にアタシを利用している、そう感じてしまった。


 


 勝ち誇った様に暴言を吐く相手が、謝罪を要求する姿が、哀れで、惨めで、醜く、愚かで、無様に見えてしまった。


 


 それ以降、彼女は自身の「負の感情」は外に出さないように努める様になった。


 


 そんな姿、第三者に見られては恥である。


 


 そんなモノ、自分の中でどうにか解決させれば万事平和だ。


 


 司命の人生観は、少々拗れている。


 


 だからこそ、この「無」になる時間は彼女にとって重要な時間なのである。


 


「とりあえず、一旦寝るか」



 ぼそりとつぶやいた司命は、パタパタと寝支度を始める。二日酔いで目を覚まし、シャワーを浴びてビールを煽る。ココまでで、おおよそ二時間弱程しかたっていない。


 


 こうして、彼女の二日酔いの一日は無意味に、まったくの生産性もなく終わっていくのであった。


 

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