お互いの思い
今回は長文のようですよ~。ごゆるりとされて行って下さい。
はあ。おれのとなりに困ったちゃんがいる。
言うまでもなく、小娘ことジャンヌだ。
おれは時々彼女に呼び出され、こうして書庫で時間を過ごしている。
日々の仕事に疲れ切った彼女のガス抜きとやらだ。
今彼女のブームは古代書のひとつスキンヘッド地方の神話をモチーフで描かれた、ラブロマンスだ。
もちろん、古代文字で書かれていて、一般人の頭脳ではとっくに放り投げているはずだが、
どうやら彼女は頭脳のほうもチートのようだ。いや、知っていたから今さら感もすごいが。
「ねえ。ラムザ。何でこんなに主人公をみんなで甘やかすの?
こんなんじゃあ、彼女は何一つ自分でできなくなってしまうじゃない。」
「まあ、その時代では、魅力的な女性の条件は髪が長く美しい、ダンスが上手って事だったからな。」
「そうなのね。そっか。」
たったそれだけ、小娘は感想をのべ、再び読書に熱中する。
「そろそろ帰るかな。今晩用事があってな。」
「もしかして、デート?」
ストレートに聞いてくる。しかし本から面を上げることはなさそうだった。夕日に反射する、金髪が桃色に光って見えた。
「いいや。今日は同僚に誘われて、婚活パーティーに誘われていてな。まあ、任務の一環だ。」
「・・・。そっか。楽しんできてね。」
突然、おれの胸骨がミシミシいい出した。普通、ボディタッチされるときって後ろから近づいてくる、
気配や音って聞こえるものなんだが、小娘は無音で高速に移動してくる。
「お、おい。マジで時間ないから、手を離せ。後、男にむやみに抱きつくな。尻軽だと思われるぞ。」
「~すように。お願いします。」
「何か言ったか?」
「別に。早く行かないと。急いでいるんでしょ?」
やれやれ。女心は難しい。頷いただけで、おれは宙へと溶け込んでいった。
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ジャンヌ弟「姉ちゃん。今日の書庫デートは楽しかった?」
「・・・。普通よ。」
やれやれ。表情筋がますます、働いていないようだ。気持ち分少し儚げな表情は書庫の背景に映えて見える。
「あ、もしかして、振られた?」
「告ってないし。振られてもいない。」
「姉の恋愛事情に弟が口を出さないで。」
ジト目で詰め寄ってくる我が姉よ。これはあの事についてもまだ根にもっているようだ。
それは、5年前のあの日・・・。
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ジャンヌ弟「ねえ。ラムザ兄ちゃん。ジャンヌ姉ちゃんの事好きでしょ!」
「ああ好きだぞ。」
「否定はしないんだね。ねえ、念のためだけどさ。どういう感じで好きなの?」
おいおい。本当に兄弟だな。しかし、さすがに即答はできない、そう思った。
しかし、おれの悪癖である、ざるな面がでてしまい、ついつい本音を話してしまったんだ。
「あえて言うならば、ポメラニアンみたいなもんか?ああいう可愛さに感じるな。」
「うん。人間としてさえ見えてないんだね。それ絶対に姉ちゃんに言っちゃだめだからね。」
「まあ、そうなんだが。あれだよ。やはり、種族が違うから、恋愛対象としてはって感じかな。」
やれやれ。姉ちゃん、脈なしじゃん。かつ、別のベクトル的には愛されているみたいだよ。
その時点では、それ以上話すことなんてなかった。
本人には聞かれていなかったので、それで良いと思ってしまったんだ。
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次の日、おれは特に急ぎの用事があるわけではないので、のんびりと廊下を歩いていた。
突然、ジャンヌ姉ちゃんの部屋へ引きずり込まれ、ベットに押し倒されたのに気付いたのは、瞬きを2回ほどしてからだった。
「姉ちゃん。おれ姉ちゃんの事好きだけどさ、こういうブラコンが暴走するのはちょっと・・・。」
次へ続く言葉が出てこなかった。ジャンヌの目からは大粒の涙が零れ落ちてきていたからだ。
「もしかしてさ。昨日の事聞いてた?」これほど、臆病な気持ちでする質問は間違いなく人生初だ。
コクリとはかなげに頷いたのだった。
そりゃ、そうか。彼女が本気で姿を消そうとしたのなら、誰も目で追えないどこらか、気付く事さえ出来ないのだから。
「ポ、ポメラニアンだって。ひ、ひどい。」
後はもう会話どころか、声にもならないそんな彼女はひたすら泣き続けた。
おれは嗚咽で痛々しくも弱り切った背中を優しく擦り続けた。
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それから、ジャンヌ姉ちゃんは、ラムザの影を追うようになった。幸か不幸か。
彼女はラムザを好きになる前に何度か人間の男に恋をし、また色んな事もしていた。
だから、雰囲気が似ている人がいると、嬉しそうにおれに報告してくるのだった。
「ねえねえ。聞いて! 〇〇さん、あの、王宮魔術師団所属の人ね、雰囲気とか話し方とか、
何だか似ている気がするの。」
何が似ているのか。誰に似ているのか。おれは聞きたくなかったし、深堀もせず、ただ話は真剣に聞くようにしていた。それが彼女にとって何より大切な存在である事だけは、確信があったからだ。
ただ、このままの日々が変わりなく、ずっと続いていく事を祈っていた。
事態が動き始めたのは、ちょうど、1年前の8月の事だった。
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突然、やつは婚約したと言い、婚約者をジャンヌ姉ちゃんとおれに紹介しにやって来た。
まさに修羅場になるかと思いきや、終始彼女は穏やかな笑顔で婚約の祝福を祝っていたのだった。
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「ジャンヌ姉ちゃん、何でそんなに笑顔なんだよ!悔しくないのかよ。」
フウ。彼女は儚げに微笑みを浮かべ
「好きな人には幸せになってもらいたの。一緒に幸せをぬくもりを感じられる一番近くにいられなくても。ラムザの幸せの中には、友人としてなら、私もいられる。それに、もう・・・。」
”覚悟は決めていた事だから”
凛々しい顔の彼女の真上にはまっさらに輝く、満月が見渡せた。
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この後の話は推測でしかない。あまりにも不可解で、結果論から推測したにすぎないからだ。
この世の呪いじゃ~。ラムザと婚約者が歓迎されているそのとき、領主内から、人々のおびえる声が響き渡った。突然、頭上にある満月が影を落とし始めたと気づくのにそう時間はかからなかった。
「何だ何事だ! 誰かこの状況を解決できる奴はおらんのか!」
当然、侯爵あらためおれの父も慌てて、声を荒げる。
その時、皆の頭の中で一人の顔を思い浮かべたに違いない。誰もが知る規格外・・・。
「ジャンヌ、お前なら何とかできそうか? い、いや。この騒ぎだと、暴動が起きかねん。
もうお前だけが頼りなんだ。」
周囲は彼女に無理強いは絶対にしたくないはずだが、祈りを込めた熱い視線を注いでいる。
ジャンヌ「分かりました。父上。善処致します。」
一言で決意を示し、彼女は夜空へと舞い上がった。
この流れで来るとなると、次回はラムザの婚活パーティーになるのか?