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サムライは異世界に行った  作者: @METAMETA
第一章 源次郎とゲンジ
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死屍累々 ししるいるい

死屍累々 ししるいるい

 死屍、すなわち死体が累々と積み重なっているさま。 おぞましく凄惨な状況



 死体が積み上がる関ケ原の戦場の中、俺と左文字と弥助はその積み上がった死体に偽装していた。


 ここらは小早川の裏切りによる一方的な蹂躙が終わり、やる気のある敵の数も減っている。もう少しで隊から離れ、死体からの高価な武具を漁るヤツしか現れなくなるはずだ。


「見ろ、こっちには旗持ちがいるぞ」


 そんな奴らの声が聞こえる。

 俺は目で合図して通り過ぎた5人組の後ろで起き上がる、と同時に国行を抜き一番後ろの雑兵の首を撥ねる。前の奴が振り向いた時には既に次の斬撃で、喉を描き切る。


 ”ヒューー”


 喉を切られた奴から出る独特な音で振りむいた前の3人の内、一人には俺の突きが決まり、あとの二人は、左文字と弥助の槍で刺されていた。


 霧が晴れた後の戦場は晴れており見通しがよい。崩れた陣地沿いを移動しながら、戦場を見渡す。既に負け戦であることは判っていた。後はどう逃げ出すかだ。


 俺達の西軍は既に腰が引け、一方的に後方へと押されていた。あるいは、戦闘にすら参加せず、高みの見物を続けていいる。


 そんな中、静かな且つ不気味な気配を漂わせている軍がいた。


 島津だ。


 全軍その触れれば火傷しそうな雰囲気を醸し出し、西軍のはずであるが、多数の裏切りが出、混乱した戦場では、敵東軍も手が出せず、圧倒され近寄ろうとしない。


「弥助、左文字、あれだ、島津が出るぞ」


 落ちていた旗を“十文字”っぽく偽装し、ゆっくり目立たぬよう、島津軍に近寄る。


 近づくうちに、あろうことか島津軍は敵本陣への特攻隊形を創っていた。

 そして東軍の本多隊、福島隊に向かって駆けだした。


「今だ」


 島津軍と同調して駆けだす。島津軍後方の足軽部隊に交じった。

 駆けながら声を上げ、本多、福島の奴らを拾った槍で突き崩す。騒然としている敵陣を一旦抜けるが、しばらくすると、赤い具足集団の騎馬鉄砲部隊が迫ってきた。


 単発の馬上銃撃は精度なく音で威嚇するものであったはずだ。しかし、弥助が倒れた。


「弥助!!」


 共に駆けていた弥助が倒れた。敵が迫りくる中、俺は止まってしまった。みるみる赤い軍団に追いつかれた。


 馬上から振るわれた薙刀の柄を掴み、騎者ごと引っ張り倒した。


 その馬に弥助を乗せ、進行方向に進みながら赤い奴らを突き殺していくが、騎馬同士もみ合ううちに、とうとう馬が切られ、敵本体に部隊に追いつかれた。


 もう十文字の旗は遥か彼方だ。そして周りは敵ばかりだ。

 地上に立つ俺は、呼吸を整え覚悟を決めた。

 薙刀を捨て、国行の大小2刀を抜き放った。


「大道寺源次郎為影、参る」


 

 どれくらいたったのだろう、


 代わる代わる来る赤い奴らを十は貫き切り捨てたまでは朧気ながら記憶している。

 

 その後は混沌とした意識の中、体が勝手に動き、屍を築いていった。


 山頂の静寂な風景を思い出す。

 

 鍛錬でボロボロになった俺を包むスミレの野原、誰も知らず、誰も構ってくれず、 

 

 誰とも話せない中、唯一俺の心を慰めてくれたスミレの花、

 

 厳しい鍛錬の束の間の愚痴を受け入れてくれたスミレのつぼみ、

 

 唯一心を許したスミレ。


 体中切り刻まれ何本か矢も刺さり、もう感覚もない。

 赤く染まった死屍累々の中心で、とうとう座りこんだ俺の前に将が立っていた。


『島津の気概、島津の意地、とくと観た。本隊は主の鬼人のふるまいでどうやら逃げ延びた様だ。主の武勇は後々まで語り継がれよう』


『主は生きたいか、死にたいか』


“ちがうけどな・・・、島津の大将、貸し一つな” 


 既に物言うこともできず、真っすぐその将をみつめ、引きつった笑顔を作りながら首を横に振る。


『これ以上の辱めに意味なし。お主の介錯はこの山県源次郎昌重が相務める』


 首を突き出した。見えた地面は俺の血で赤黒く染まっていたが、奇跡的に踏みつぶされていないスミレの花が見えた。


“最後を看取ってくれるのがお前でよかった” 


ブラックアウト・・・

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