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第九話 黄色の侵入者

間宮がいる保健室から出てきた俺は、寄り道をする事なくFクラスの教室へと戻ってきていた。どうやら次の時間は移動教室だったようで、橙子以外がこの場にいなくなっていた。そして、またいつものように俺の方に来ては説教をしてきていた。


橙子「やっと帰ってきた……」


彼女は、眉を細めながら……


橙子「アンタね、いい加減にサボるのやめなさいよ」


京太「じゃあお前もいい加減、俺に構うのをやめろよ。俺は正直迷惑なんだがな」


橙子「たとえ迷惑だと思われようが、授業はちゃんと受けるべきです。そのためにこの学校に通ってるんでしょう?」


京太「強制でな」


この学校は、能力者における強制教育施設。能力者であれば個人の有無なしで誰もが入らされる施設だ。そんなところに望んで入る人なんてそんないない。まあ、俺はどっちでも良かった人なんだがな……。


橙子「そういえばアンタってさ……武道とかって得意だったわよね?」


突然そんな事を聞く彼女に、俺は疑問を感じながらうなずく。


京太「……そうだが、それがどうしたんだ……??」


橙子「ちょっと、教えてもらえない……?」


京太「……は?」


俺は驚いた。そりゃあそうだ、いつもナイフを投げたり振り回したりしてるアイツが、武道を習いたいと言い出したのだ。そりゃあ疑問符が浮かんでもおかしくはないという話だ。


橙子「なに驚いた顔してんのよ?そんなに私が武道を習うのが意外なの?」


京太「……おう。でも、なんでいきなり武術なんて習おうと思ったんだ?お前は遠距離戦が得意なはずだろう?だったら、その戦法でいつも通りにやればいいじゃねえか?」


橙子「だって、それを習えばさらに強くなれるかなって思ったからさ…」


京太「武道を習ったところで、それを活かせる戦い方をしなきゃ意味ないだろ。俺はおすすめしないぜ」

「それに、俺が教えられるのは基礎までで、その後からは我流でなんとかするしかないぞ」


橙子「でもこのままじゃダメなのっ!!」


京太「……っ!?」


そう橙子は、いきなり叫んだ。俺はその声に、呆然としながら彼女を見つめた。


橙子「私は、もっと強くならないといけないの!あの緑の男との戦いで、私は自分の非力さを思い知った……」

「悔しかった。……とても悔しかった。私の策や攻撃が一切通らなかった時、酷く絶望したわ……。体力的にも戦い方でも負けた……だから、私はもっともっと経験や技術を身につけたいのよ!」


京太「……なるほど」


彼女なりに強くなる方法を模索していたということなのだろう。

俺は、少しだけ笑みを浮かべながら……


京太「……いいぜ、出来るだけお前に基礎を叩き込んでやるよ」


とその彼女の願いに了承するのだった。


□□□


橙子という女は、真面目すぎるが故に何故かプライドが高く。頂点を目指そうとどんな事でもやろうとする努力家だ。練習試合でも、誰にも引けを取らず負けた事がない……そんな女だった。だが……そんな彼女は、つい最近あの爆発魔に負けた。だが、初めて敗北を知った彼女は、改善しようと諦めずに立ち上がった。普通の人間ならば、そこで膝を崩して匙を投げるところであろうが……彼女は違った。だから俺は、少し楽しみになっていた。

彼女がどう成長して、どう強くなっていくのかを……期待している自分がいた。


放課後の遅い時間。俺たち二人は、先生からの許可をもらい、武道場にへと足を進めていた。普段は、夜分にここを使う人など全くいないので、先生たちも驚いた様子だった。

まぁ……最弱でサボり癖のある俺が、真面目に訓練をしようとしている事が意外だったというのもあるだろう……。まぁ、今そんなことはどうだっていい。俺はただこいつに教えるだけ……ただそれだけなのだから。


橙子「それではお願いいたします、師範」


京太「いや普通に呼べよ。俺はそんな大層なこと教えられないんだぞ?」


橙子「ですけど、今の私は貴方に教えてもらう立場です。なので、立場的に私は貴方の事をそう呼ばざる終えないのですよ」

「少し……不愉快ですけど……」


じゃあ最初っから頼むなよ。と心の中で思いながら……


京太「あっそ……」


と適当に流してやるのだった。


というわけで、俺は橙子に武道を教える事になった。


橙子「それで……まずは何を教えてくれるんですか?」


京太「まずは、基礎をお前に叩き込んでから、軽い実践をする……以上だ」


橙子「……それだけ……?」


京太「それだけだが……ほら、アホつらになってないで、早く始めるぞ」


橙子「うっうん……てか、今ナチュラルに馬鹿にしたわよね??」


京太「さ〜て、何から教えようカナ〜……」


俺は聞こえないフリをしながら……


京太「まずは、軽いウォーミングアップをしよう。話はその後だ」


橙子「えっ!今からじゃ無いの?」


京太「何言ってんだ?激しい運動をする時はまず体をほぐすのが先だろ……?ほらほら、さっさとやれ」


橙子「わかったわよ……」


そうして、橙子は何か腑に落ちないという顔をしながら渋々準備運動を行った。俺も少しだけ準備運動をしながら、彼女が終わるのを待つ。


橙子「これでいいでしょ。で……何から教えてくれるの……?」


彼女はそう急かすように聞く。俺は、腕を組みながら……


京太「そうだな……まずは合気道でも教えるか」


橙子「……えっ?空手とか柔道とかじゃないの??」


京太「別にそれでもいいんだが……お前のその筋力じゃあ力不足だ。……だから、殆どの女がよく使われる合気道を教えてやる」

「合気道ってのは、無駄な力を使わずに効率良く相手を制するもので、相手の力に立ち向かわずに相手の攻撃を無力化出来る武道だ」


橙子「……なんでそんなに詳しいのよ?」


京太「前住んでた家で、そういう本をしこたま読み漁ったからな……頭が覚えてんだ。勿論、それ以外の武道も頭に入ってるぜ」


橙子「そ、そうなんだ……」


彼女は、呆気に取られたような顔をしながら、そう頷く。


京太「そして、合気道には独特の力の使い方があってな……その使い方や感覚を呼吸力や合気って呼ばれる物で……これを会得することにより、合理的な体の運用や体裁きを用いられるようになるんだ」


橙子「なるほどね……」


京太「実際に言うより、見てやった方がいいだろう。……俺に拳で攻撃してみろ」


そうして俺は構えを取り、手を前に出しながら「来てみろ」と手で合図する。


橙子「……では行きます!」


その掛け声と共に、彼女が俺に向かって走り出す。そして、俺に攻撃が届くあたりで足を止め、後方に下げていた拳を俺の顔面に向かって突き出した。俺は、それを条件反射で避けて……その腕を掴んだ。そして……そのまま体を右回りに回転させ、床に向けて軽い力で叩き伏せた。


橙子「…がっ……!」


橙子は、痛そうに背中をさする。ちゃんと手加減はしていたつもりなのだが……どうやらもうちょっと手加減をした方がよかったようだ。だがまず、彼女は受け身すら取っていなかった。そりゃあ、痛くてもしょうがないという話だ。


京太「受け身くらい取れよ」


橙子「やり方がわからなかったのよ!それに、いきなりのことで何があったのかわからなかったし……」


と言い訳じみた言葉を並べる彼女に、俺は嘆息しながら……


京太「まずそっからかぁ〜……」


と呆れるようにそう呟くのだった。

受け身の取り方を知らなかったとは思っていなかった。だって、普通それくらいの知識はこの歳なら習っていてもおかしくないと思っていたからだ……。今のご時世、そういうのを習っていてもおかしくないと思ってたからな……。


京太「はぁ〜……面倒だが、受け身の取り方を一から教えてやるか……。ちゃんと俺の真似をして、練習しろ」

「武道はそれからだ」


橙子「はっはい……!」


そうして俺は、橙子に受け身の取り方を体が覚えるまで叩き込んだ。それから数十分後……実践を模した練習で、しっかりと倒れる時に受け身を取っては、直ぐに立ち上がり体制を整えられるようになっていた。この短時間で、直ぐにそれをマスターする辺り、彼女の努力が物になっている事が伝わってくる。そうして、気づけば時間はあっという間に過ぎ……時計は九時の方へと針を指していた。


京太「……もうこんな時間か……」


俺は眠そうに欠伸をしながら終わりにする。


京太「今回はこれくらいにするぞー」


橙子「……えっ?ま…待ってください、私まだやれます!」


京太「俺だって早く寝たいんだよ。お前の強くなろうとする気持ちを無下にするつもりはないが……睡眠時間や休憩時間は大切な時間だ。よく休めて、よく運動するからこそ強くなるんだよ」


とそれっぽいことを適当に言って説得をしてみる。純粋に寝たかった俺は、なんとかして彼女を説得したかった……そして。


橙子「わかったわよ……じゃあ今日はこれで終わりね」


と渋々ながら納得してくれた。

そうして俺たちは武道場の鍵を閉め、戻ろうと思って校舎に向かった。

……すると


京太「……っ!!」


ふと、背後から謎の気配を感じ取った俺たちは、その気配に反応して即座に後ろを振り返る……が。


橙子「……ん?」


そこには、誰の姿もなかった。


京太「今……確かに何かいたような気がするな」


橙子「うん……京太もやっぱり感じた」


京太「…あぁ」


橙子「でもいないしな……。気のせい……だったのかな……?」


京太「多分そうだろう……さっさと戻って寝ようぜ」


そうしてまた歩もうと歩を進めたその瞬間だった。突然、目の前から怪しい黄色のコートとフード、青いゴーグルを見に纏った謎の男が姿を現した。


橙子「えっ!?」


橙子と俺は、突然の事で思わず唖然とした。

流石の俺でも、これには内心驚かされた。


橙子「なっ何者なんですか貴方は……!?」


橙子は、目の前の男にそう問いかける。


??「何者?……か。そうだな……あえて言うなら、無能力者と言った方が伝わりやすいかな……?」


橙子「無能…力者……??」


??「あー……と言っても、少し強い方の無能力者だがな……」

「おっ?その様子から見るに驚いているようだな。無能力者は珍しいだろう……??お前たち能力者にとっては見下すことのできる対象物だもんな〜…」


そいつは、狂ったような笑みを浮かべながらそう告げる。無能力者といえば、何の能力も持ち合わせていない弱い奴らだ。それだから、無能力者は力ある能力者に見下される。まあ……それは、俺が生きてきた世界での話になるのだがな……。


橙子「なんで……なんで、ここに無能力者がいるのよ!だってここは、能力者であっても侵入する事ができないはずなのに……どうやって」

「どうやって、無能力者である貴方が侵入できたのよ!」


??「………クククッ!」


と目の前の男は、急に笑みを浮かべながら……


??「簡単な話だ。出入り口から堂々と侵入させてもらった。案外簡単に警備の奴を薙ぎ倒す事ができましたよ」

「いやぁ〜楽勝だったね〜……!あんなのが学園の警備員なら、一瞬にしてここは壊滅ですね……」


橙子「警備員を……倒した……??そんなバカな……!この学校の警備をしている人は、全員それなりの修羅場をくぐってきたプロ能力者だと聞いています!それなのに……なんで??」


??「へー、プロだったのか……。じゃあ、そいつらは俺よりも実力が劣っていた……という事になりますね。その能力者は、私という何の能力も持たない無能力者に打ち負かされた……つまり」

「お前よりも、圧倒的に強い事を表しているのですよ!」


橙子「……っ!?」


彼女は、その受け入れられないであろう事実に驚愕して言葉が出ないでいた。自分より上の人を負かすほどの人間だ、そりゃあ誰だって怖気付くのは当たり前のことだ。……だが、そうだとしても彼女は、ここでじっとしているだけの女ではないことは、俺が良く知っていた。


??「因みに、死体はそこに上がってないぜ……?」


橙子「どういう……ことですか??」


??「どういう意味って……こういう事だよ!!」


瞬間。周りの風景が一瞬にして一変した。

この真っ黒い空間には、見覚えがある……そう、これは前の爆発野郎が戦う時に使っていたものだ。なるほど、確かにこの空間から脱出する時、いつも死体が転がっていなかった。それはつまり……あの空間で死んだ者は、死体すら上がってこないという事を表していて……。俺はその事を一瞬で理解する事が出来た。


??「さて、ここからは俺とお前らの戦いの場だ!わざわざここまで足を運んだんだ……取り越し苦労なんていう結果にはさせんなよ!!」


そうして、戦いの火蓋が切られる。

黄色の男は、猛スピードで橙子の方へと一瞬で距離を詰めて後方に下げた拳を思いっきり彼女に向けて放とうとした。

だが……その攻撃は見事に空を切り、いつの間にか橙子は、その男の背後へと周っていた。


??「……いいね!やはり戦いはこれくらい骨がなくては面白くない!!ちょいとだけ本気を出してやろうではないか」


橙子「どこまでやれるかわからないけど……負けない……絶対に……!」


お互いの攻防が交差する。俺はただ、その戦闘を眺めながら、強くなった彼女を見物するのだった。

面白ければ、高評価とブッマークをよろしくお願いいたします。

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