第八話 能力の歴史
翌日の早朝、今日は久しぶりに何故かあいつが部屋にやってきていた。
橙子「ほら、いつまで寝てるのよ!」
それは橙子だった。全く、なんでコイツはいつも無断で俺の部屋に勝手に入ってくるのやら……。面倒だと思った俺はそこで無視を決め込んだ。
京太「……」
橙子「はぁ……」
と呆れたようにため息を吐く。
最近は朝にここに来る頻度がなくなっていたので、もう諦めたのではないかと思っていたのだが……どうやらまた来るようになったらしい。なんなんだコイツ?と思わず疑念がよぎる。
京太「なんだよお前、最近来ないからもう諦めたのかと思ってたけど……なんでまたいきなり来るんだよ」
橙子「それは……私にも色々あるのよ」
京太「……あっそ」
橙子「そんなことより、早く着替えて食堂に行くわよ」
京太「はいはい」
そう適当に返事を返し、着替えようとズボンを脱ごうとしたその瞬間だった。
橙子「ちょっ…あああアンタ、何ここで堂々と着替えようとしてんのよ!?」
京太「だって着替えろつったろ?」
橙子「確かに言ったけどもうちょっとデリカシーてもん考えなさいよ、この馬鹿!!」
勝てもしないのに立ち向かった馬鹿にだけは言われたくない、という言葉が出そうになったがなんとか堪える。というか、なんでコイツは顔を真っ赤にしているんだ?俺はそこだけが疑問で仕方なかった。
京太「デリカシー……てなんだよ?」
橙子「デリカシー……は、え〜〜と……」
知らねえのかよ。
橙子「と、とにかく……着替えるんだったら私がここから出た後に着替えてよね!さっさと食堂来なさいよ!!」
京太「…へーい」
そう言葉を残して、彼女は俺の部屋を後にし、先に食堂の方へと向かっていった。
このままもう一度寝ようかな、とも思ったのだが。流石にそういうわけにもいかないので、俺は素早く私服に着替えて奴に言われた通り、食堂に向かうのだった。
□□□寮の食堂
橙子「じー……」
京太「なに睨んでんだよ?」
橙子「別に……」
……あの後。俺が食堂にやって来てからというもの、橙子はこんな感じで俺を睨みつけて来ていた。
京太「なあ橙子……なんでしかめっ面になってんだ?」
橙子「アンタの性でしょうが!」
京太「へ〜…そうなのか……」
橙子「少しは悪いとか思わないわけ?」
京太「全然」
橙子「即答されると言葉に困るわね」
京太「にしてもお前、相変わらずの食事量だな。よく朝にこれだけ食おうと思えるな、食いしん坊か?」
橙子「違いますー!前にも言ったけど、これは運動のためのエネルギーよ」
京太「の割には野菜が無さすぎるが?」
橙子「それはアンタだって同じじゃない」
京太「俺は昼に食うからいいんだよ。つかさ、そのきゅうりなんだよ」
橙子「漬物」
京太「きゅうりばっかじゃねえか。たくあんとか梅干しも食べろよ」
橙子「いいでしょ、きゅうり好きなんだもん。なんなら、特別にカッパ巻きでも分けてあげましょうか?」
京太「いらねえし俺はカッパじゃない」
橙子「別にそんなつもりで言ったわけじゃないわよ。せっかく人が施してやろうってのに」
京太「いらない施しはただの強要だ。てか、なんで他の野菜も食わないんだ?」
橙子「シンプルに味とか食感が嫌いなのよ。その点、きゅうりは味も良くて食感も最高。他の野菜なんて消えればいいのよ」
京太「けど、きゅうりだけだと飽きねえか?ネタ切れもしやすいし……」
橙子「そんなことないわ。天ぷらとして食べれるし、お刺身みたいに醤油を垂らして食べるのも乙なものよ」
京太「…末期かよ」
少し苦笑してから、ウインナーをひとかじりする。
橙子「ねぇ。そういえばだけど……」
すると、橙子がこんな話をしてきた。
橙子「最近、阿久戸の奴来なくなったわね。前は毎日のように教室に来てたのに。あの日以来、全然見かけないもの」
京太「そういやそうだな……。いつもだったら、Fクラスの誰かにちょっかいかけてくるんだけどな……珍しいこともあるもんだな」
そんな感じで俺たちが話し込んでいると……。
男「お前ら相変わらず仲がよろしいな」
同じクラスの男が俺たちに話しかけてきた。
橙子「別に……」
男「えー……でも側から見たら、仲良さそうなカップルにしか見えないぞ?」
橙子「かかかカップルとかそんなんじゃないから!違うから!普通、もうちょっと段階踏んでからやるもので」
男「いや、そんな動揺すんなよ??……ただの冗談だからさ」
橙子「……え?」
京太「ふ〜ん……案外お前ってピュアだったんだな」
その瞬間、ポカンっ!……と何故か理不尽に殴られる。
京太「なんで殴んだよ……」
橙子「うるさい!」
京太「なんでちょっと怒ってんだよ……??」
なんで逆ギレされないといけないのか……それに意味がわからず、俺は頭の回転が追いつかずにいた。
男「………お前ら、やっぱりケンカップルだな!」
その男の一言に、俺たちは……
「「ふざけんな!!」」
と同時にツッコミをするのだった。
□□□
俺は、久しぶりにその女のところへと足を運んでいた。それは、俺をこの学校へと連れてきた張本人であり、俺を八年間我が子のように育ててきた奴だった。この学校の入学条件は、能力値によって決まっており、最底辺のFクラスの数値50まで無いと、普通は入学する事が不可能な学校だ。だが、間宮の権限でこうして俺は入学する事ができているのだ。この国にとって、間宮は重要な能力開発の一流の戦力。だから、彼女のお願いに学校側はある程度従わなければならない。
間宮「君がここに足を運びにくるとは……珍しいこともあるものだ。きっと明日はヤリが降ってくるな」
京太「ありえなくわない冗談だな」
と俺は図々しく近くの椅子に座りながら、そう言葉を発する。
間宮「今の御時世なら、そういうことが出来そうだからね。案外……そういう能力を持った者が世の中にいるかもしれないし」
ここで彼女についての説明をするが。さっきも言ったように、彼女は俺を育ててくれた親代わりの人だ。なんか飄々(ひょうひょう)としていて、でも優しくて厳しい女……そんな女だ。そして、間宮はこの学校で養護教諭という仕事をしている。一応、どんな傷でも治す回復専門の能力を持っており、致命傷を負った人でもたちまちに治すことができる力を持っている先生だ。だから養護教諭という役割を担っている……それ以外にも、彼女は能力専門の研究者でもあった。能力を研究し、そして作り出す事に挑戦する諦めの悪い人でもある。まあ、この人のおかげであの生活から助けられているので、一応それには感謝をしているつもりだ。
間宮「……そういえば、君はどう思ってるんだい?」
京太「…なにがですか?」
いきなりの主語のない設問に、俺は小首を傾げる。
間宮「この能力についてだよ……。能力が発症し出した頃の時代に、ある二つの理論が存在していてね……?神が作り出したという理論と、何かしらの科学力によって生まれたという理論……君はどの理論を信じているんだい」
京太「そうだな……ハッキリ言ってどうでもいいとしか言えないな……。どっちが正しいかなんて、確かめても意味なんてないわけだし……」
間宮「なるほど、君はそう考えているのか……まあ、君らしい答えだと私は思うよ」
京太「……どうも。じゃあ逆に聞くが、アンタはどっちなんだ?」
間宮「私か?私は……神様が作ったんじゃないのかな……と思っているよ」
京太「よく言うぜ、俺にくれたこの能力はお前が作った癖によ」
間宮「そうだとしても、元々の君の能力は生まれた時から備わっていたものだろ。今の御時世、私のような能力の研究者なら何人かは能力の製造くらいできるよ」
「……ま、私はその実験台として君を使ったわけだけど……」
京太「気にしてない」
間宮「ならいい……。そういえば、その能力の具合はどうだ?しっかりと先は見えているか?」
俺は、自分の額に二本の指を添えながら……
京太「そうだな……特にこれといって問題はなく使えてるぜ。まあ、あんまり使う機会は無いけどな」
間宮「君が前から持ってる方はどうなんだ…?」
京太「フッ……さあな、もう長い間使ってないからわからねぇよ……でも、変わらず使いこなせると思うぜ」
と俺は嘲笑しながらそう告げる。
間宮「君のその能力は恐ろしいね……まさに最強の能力って感じだし……」
京太「まあそうだな……」
俺は、手のひらを眺めながら……
京太「実際、俺の能力は恐ろしい力だ。まだ使いこなせなかった時期は、その辺のチンピラを死なせちまった事があるからな」
「でも、別に俺は悪くない。だって、絡んできたアイツらが悪いんだからな……それに、結局アイツらは殺人鬼だったし……。人を殺して快感を得るとか、マジで意味がわからないぜ」
間宮「君がそれを言うのかい……」
彼女はやれやれと呆れたようなジェスチャーをしながら、嘆息する。
間宮「……そういえば、君はこの能力の起源の歴史を知っているか?」
京太「……あっ?」
急にそんな話を始める彼女に、俺は小首を傾げながら思わずそんな声を漏らす。
間宮「今では私たちにとって馴染み深い存在になっているが。発症当時は、世界全体が大騒ぎしていたんだぞ?」
京太「へ〜…そうだったのか……」
間宮「勿論それ以外にもいっぱい知っているぞ……例えば、最凶最悪の能力者……とかね?」
京太「最凶最悪……?」
俺はその単語に、少しだけ惹かれた。直感とかではない、俺自身の本能的なもので惹かれたのだ。最凶最悪……か。発現した当時の話はどうでもいいが、それよりもその能力者の方に俺は興味があった。一応、その歴史にも少しだけ興味があるわけだが……。
京太「なあ、教えてくれないか?……その能力者の事や、歴史についてある程度よ…?」
間宮「……君ならきっと、興味を持つだろうと思ったよ。最近の若者は、全然昔の事を知りたがらないからね。……それじゃあ話してあげるわ……その時の昔の話を……」
そうして、彼女はその時の時代の話を語り始めるのだった。
□□□間宮視点
この世界に能力というものが発現し始めた頃の時代……。今から言えば、ちょうど約百年くらい前のこと、それくらい前まで遡る。当時、まだ科学の力で発展していた経済は……急に光出した赤子から、次々に至る所から能力が発現するようになった。
それから時間が経ち、宗教のような考え方をする人と、科学的な原因があるはずだと考える人が出てくるようになった。まあ、結局その論争はどっちなのか決着が着く事もなく、いつの間にか終息しちゃったんだけどね。
間宮「これが、能力というものが発現し出していた当時の話よ。これは、昔の人が残した文献や歴史を読み取って調べたものなんだけどね」
「因みに言うと、私も最近知った」
京太「ふ〜ん……で、続きは……?」
間宮「そうね、その後はね〜……」
その三年後くらいに、あるテロ組織が結成され出したの。組織の名前は『異能帝国軍』という組織名らしくて、好き勝手に力を振り回して世界を征服しようと企む組織だったみたいなのよ。あの時代は、まだ無能力者も多かった時代で、その人たちを守るために、新しく能力が発現し出した大人達が頑張ってその組織に立ち向かったみたいなの。
でも、その組織のリーダーはとてつもない力と能力を持っていた人物で、今まで圧倒していた筈の政府軍が、一気に数を減らされたらしいの。
間宮「そこからの歴史は、なぜかしっかりと書き記されてはいなかった。それはなんでなのかはわからないけど、一応はそのボスに勝つことができたみたいよ」
「全く、昔にも恐ろしい存在っているのね」
京太「俺みたいなのってこと……?」
間宮「簡単に言えばそうね」
京太「おいおい、息子になんてこと言うんだよ」
間宮「別に血は繋がってないし、元々お前の母親じゃないよ」
「……話を戻すが、そこからは十年か二十年に一度、政府に楯突こうとする組織と何度か争うことがあったが、どの戦いも無事に勝利をおさめているようだ」
京太「へ〜……案外長く続いてんだな政府は……」
間宮「とまあ、これがこの世界で昔に起こった能力の歴史の全容ね。もしかしたら、他にも文献があったのかもしれないけど、私の根気強さでもこれが精一杯ね」
京太「案外、間宮は研究意外じゃほとんど飽きやすい性格してるもんな……根っからの飽き性だし」
間宮「そういうアンタは根っからのめんどくさがり屋でしょ……?」
京太「そうだねー」
京太は、軽く笑みを浮かべながら流す。
京太「……さて」
すると、彼は突然そこで立ち上がりながら……
京太「そろそろここから去らせてもらうよ……。アイツに見つかったら面倒な事になるしな」
と、そう言って京太はドアの方へと向かっていく。そして、扉を開けたタイミングで、私は彼に背中越しに声を掛けて……
間宮「おい京太……。橙子と仲良くしろよ」
と言った。
彼は少し立ち止まった後、特に何も言葉を返さずに、そのまま扉を閉めてこの場を去ったのだった。
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