第七話 彼女の目的
美織「あの時とは……どういう事ですか?」
そう彼女ははぐらかすように言った。俺はそれに微笑を浮かべながら
京太「昨日の夜のことだよ。アンタは確か、俺達があの変な空間に移動するところを目撃したと言っていたな……?」
「でもなんでそこにいた?どう考えても偶然とは思えないのだが……」
美織「いや本当に偶然だ。あの時一瞬だけ、君たちの姿が見えたんだよ……それで、心配で仕方ないから無事に出られる事を願って、あそこで隠れて待っていたんだ」
京太「隠れる?なんで隠れるんだ?」
美織「それは……敵に見つからないようにするためよ。……もしかしたら、私がやられるかもしれないからね」
京太「……なるほど」
一応合点のいく回答ではあったが、俺にはもう一つ疑念が残っていた。
京太「そういや、一昨日の夜もお前いたよな……あの時」
美織「……え、えぇそうだけど……?」
京太「そして、お前もあの人外達に襲われた人だったと言っていた……が。なぜ……無傷なんだ?そんな長い時間かかったのなら、いくらか傷の一つや二つ、あってもおかしくないと思うんだけどな?」
美織「……っ!?」
瞬間。彼女の顔が一瞬だけ戸惑ったような表情を見せた。どうやら痛いところをつけられたようだ。俺は、言葉を続ける。まあ、と言ってもこれは結構穴のある問い詰めだ。そう簡単に行くとは限らない。だから俺は、そいつが発言するよりも前に追い込む。
京太「お前言ったよな……?Aクラスでも最低二十分はかかるって……でも、今まで帰ってきたAクラスはアンタを除いて誰一人としていなかった……何故だと思う?」
「因みに、この情報については俺が頑張って集めたものだ。……そして、今まで外に抜け出したAクラスの能力者達は誰一人として帰ってきてなどいない」
「……つまりだよ、お前以外に帰ってきたAクラスはいないんだよ……誰一人として」
美織「ふふふ……よくそこまで調べましたね。ですが、それであなたはいったい何を言いたいというのですか?」
俺が答えることなんて分かっている癖に、あえて聞こうとするとは。……さーーて、答え合わせと行きますか……。
そうして俺は告げる……その一言を
京太「お前は……あの組織のスパイなんだろ?」
……と、そいつに思いっきり人差し指を立てながら……。
□□□美織視点
私は、その彼の告げた答えに驚いていた。もしかしたらまぐれなんじゃないかって……そう思っていた。だが違った……彼は思ったより勘が良いようだった。
京太「……どうした、まだ答えを言ってくれないのか?……それとも図星ってことか?」
私は、顔を引き締めながら
美織「……えぇそうよ、正解……」
と大人しく認めた。だけど私はそのあと、付け加えるようにこうも言った。
美織「正解なんだけど……当たらずとも遠からずってとこかな……私にも、事情ってものがあるからね」
……と。
京太「……あっ?正解なのになんで遠からずなんだよ?お前はあの爆発野郎と同じなんだろ?」
美織「確かに同じだよ……でもね、まだこれは明かすべき時ではないんだよ」
京太「……ふ〜〜ん。まあ、いいや……」
そこで彼は、微妙な顔をしながらも、とりあえずは納得したような返事をした。
京太「それじゃあ、あなたがあの組織の仲間だとわかったところで……質問いいかな?」
私は首を縦に振って首肯する。
京太「じゃあまず、あの人ってなんだ?」
美織「……あの人に関しては、私でもよくわかってない……だけど、多分とんでもない奴なのは確かだと思うわ……」
京太「とんでもない……ね〜……」
彼は何故かそこで、ニヤリと笑っているように見えたが、私は気にせず言葉を続けた。
美織「ただ、ものすごい力を秘めていて、多くの能力を持っているということは聞いたわ」
京太「なるほど……。二つ目、お前らはどういう組織だ?」
美織「それを言ってしまったら、私が消されかねないのでね……別の質問にしてくれる?」
京太「なら……お前はどれくらい強い?」
美織「それは私でもわからないな、比べる対象がないからな」
京太「……それじゃあ、お前らの言ってる素材ってのはなんなんだ?能力者の死が必要だって、あの爆発野郎は言ってたけどよ……あれってどういうことだ?」
美織「あの人の復活のためには、多くの生命エネルギーが必要なんだ。その為に、高いステータスや能力値を持った能力者を殺して、その命をあの人への傀儡として与えているんだ。……それが素材だ」
「あの人が復活を遂げるには、まだ少し材料が足りないんだけどね」
京太「ふ〜〜ん……なら最後。お前の目的は?」
美織「この学校の内部情報の調査だよ」
京太「案外すんなりと教えてくれるんだな、お前の目的までも……。よしもういい、もう充分聞けることは聞けたよ……で、どうするの?」
美織「……は?」
いきなり彼がそんな事を言うので、私は思わずその場で唖然とした。
美織「どうするとは?」
とそう思わず聞き返すと。
京太「どうするって……俺の始末だよ??」
「俺はアンタがスパイだってことを知っちまった唯一の人間なんだぜ……普通は消しにくるもんだろ?」
ようやくそこで、私は全てを理解した。なので私は、そこで彼にこう言ってやった。
美織「まだやるつもりはないよ」
京太「……は、なんでだよ?」
美織「なんでって、私はこれでも一応強いからね。いつでもあなたの事を始末することは可能なの。だから……まだ殺さないのよ」
「……逆にあなたは、消しにこないの?」
私は言葉を返すように、彼に同じ事を聞いた。
京太「……別に、俺もいつでもお前をやれるからな。まあ、お前に殺しができるとは思ってねぇけどな」
美織「さて、それはどうでしょうか……?」
お互いに睨み合う。
彼は何故か楽しそうに笑みを浮かべていた。殺されるかもしれないというのに、何故この男はこんなにも呑気に笑っていられるのだろうか?私はそれだけが疑問で仕方がなかったのだった。
□□□京太視点
チャイムの音が鳴り響くと同時に、俺はふとそこでここにきた目的を思い出した。
京太「そうだったそうだった、俺ここで寝に来たんだ」
美織「敵がいる部屋で悠々と寝るとか、君は危機感がないのか??」
京太「そういう人間なんでね」
美織「なんというか拍子抜けだな……君は」
と言われても、元からこういう人間なのだから仕方ないというわけなのだが……。
そうして俺は椅子に座り、机に向かって顔を埋めてその場で寝るのだった。
さて、いつかあの女と戦える時を楽しみにしておこう。待っているよ……白崎美織さん。
それから時間は過ぎ放課後。
俺は夕食を取りに食堂に来ていたのだが……。
橙子「ねぇ!アンタいったい今までどこに居たのよ!結局あのあと、終わりのホールルームまで帰ってこなかったじゃない!」
と寮に帰ってくると同時に、隣でうるさく吠えているメス狼が毎度お馴染みのように俺に突っかかってきていた。全く、いつもいつもめんどくさい女である。
京太「なんだよ、別にどこに行こうが俺の勝手だろうが……。それに、ここは能力者の義務教育であって、普通の勉強をするとこじゃねえんだぞ……」
俺らの学校では、一応普通の授業などもやっている。それ以外にも、能力の訓練や身体能力向上のための時間も設けられてはいるが、俺はそんなのどうでもよかった。授業したところで、意味なんてない。なんせ、元から俺には向上心なんてものが無いから。
まあ、Fクラスの人達は全員やる気がないので、一応やっているって感じの人がほとんどだ。真面目にこなしてるのは、多分この女だけだろう。
橙子「今少し失礼なこと考えましたか?」
京太「いやなんにも」
何コイツエスパーかよ??時止める以外にも心を読む能力でも持ってんのか……?
京太「……そういやお前、甘い物食べ過ぎなんじゃねぇのか?」
橙子「別に食べ過ぎてはないわよ!そう、これは……運動するためのエネルギーよ!」
京太「ただの言い訳にしか聞こえねえし、つーかお前少し太ったか?」
その刹那、頭に衝撃のような痛みが生じると同時に、たんこぶができる。
京太「おい、今刺さった感触したんだけど?」
橙子「じゃあなんで血がでないのよ。今回はナイフの先端で叩いたのに……」
それはもう叩いたではなく、突き刺すでは??
京太「ま、俺は頑丈な人間で有名だからな」
橙子「誰もそんな事を言ってた覚えないし、聞いたこともないけど」
といつもの茶番が繰り広げられる。
まるでケンカップルだなと、ふとそんな事を思った自分に拳を向けたくなる。
橙子「それにしても……、この行方不明事件を起こしてる人はいったい何が目的なのかしら?」
京太「さあな……でも、何かやばいことが起きるのは確かだろ……多分」
橙子「やばいことって、例えば……?」
京太「例えば……悪魔が出てきたりとか……な?」
橙子「ふざけてないで、早く食べちゃいましょ」
京太「へいへい……」
そうして、俺達は夕ご飯を食べ終わり、各々の部屋へと戻る。
復活を遂げようとしている奴はいったいなんなのか……。あの爆発野郎は、いわば神だと言っていた。そんな神のような存在と戦えるのであれば、ぜひ戦ってみたいものだと……そう思いながら眠りにつくのだった。
□□□間宮視点
私は今、地下室の研究室で、ある計画の為に能力の研究をしていた。ここは、この学校の人が特別に用意してくれた研究室の地下の特別機密研究室だ。ここで私は、能力の研究を長年していた。
間宮「うん……だいぶ形にはなってきたわね。にしても、まさか国からこんな事をお願いされるだなんて……思いもよらなかったわ」
私が政府から頼むれた事は、最強の能力者を作る事だった。ただそれには、素体となる人間が必要となる。しっかりと意思を持った正義感の強い人間が……。だから私は昨日、彼女にその提案をした。だけど、私はあくまで提案をしたまでだ。もしかしたら、人格すらも吹っ飛ぶかもしれない危険な事だ。でも、それが上手くいけば最強の戦士が出来上がる事はまず間違いない事だ。だけど、それを選ぶ権利があるのは橙子さんだ。だから私は、彼女の答えを待ち続けるのだ。
すると、エラーを申告するブザーがあるカプセルでけたたましく鳴り響いた。
間宮「あら、これも失敗ね。残念だわ……やっぱりこういう複雑な能力は製造が難しいのかしら……?とりあえず、もう一度試行錯誤を重ねて一から作るしかないわねえ」
最強の戦士を作るには、最強の能力が必要となる。だけど、強い能力となるとどうしても失敗しやすいのだ。だが、研究者というのは、諦めが悪い事で有名だ。だからこうして、またトライ&エラーを繰り返すのだ。それが私達研究者の日常だから……。
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