第五話 あまりにも異常
ーーインパクターの視点ーー
俺は、目の前の光景が理解できていなかった。
パクター「…なん、で……」
「なんで、お前が俺の攻撃を……」
京太「さーて、なんでだと思う?」
その男は、スッと表情を引き締めながら…。
京太「もしかすると、お前が無意識に手加減をしていてくれたのかもしれないぞ……ただ、その様子を見る限り、違うみたいだがな」
パクター「……いったい、どういう小細工だ?!」
京太「小細工?そんな器用な事が俺に出来るとでも思ってんのか?俺はただ、お前の攻撃を受けただけだ。……そして、それは俺にダメージを与える事ができなかった。ただ……そんだけの話だ」
パクター「ふっ……ふざけるなっ!お前が、お前という最弱が、俺の……あの人に認められた俺様の力が……通用しないわけが……!?」
京太「いい加減認めたらどうだ?」
「実際、お前の攻撃は俺に通ってないんだ。つまり、俺とお前とじゃレベルが違うんじゃねぇのか?……そこの女、橙子とお前のように」
パクター「……そんなはずは、絶対にない!ありえない!」
京太「だが実際、起こっている」
パクター「これはどう考えてもおかしい!!」
俺は、思わず叫んでいた。
パクター「お前という人間に、ダメージを与えられないなんて事はありえない!」
京太「なんでそんな事が言えんだよ?……お前の言ってる事は一切の理論もなんもない。なんで理解できないんだ?お前が俺よりも劣っているという事実を」
パクター「理解できないに決まっているだろ!!……俺が、俺様が……!」
京太「だが、そんなお前は誰よりも一位というわけじゃない。……お前は初めから敗北者なんだよ。そのあの人って奴に、ずっと前から負けてしまっている。そんな弱者が、俺に勝てるわけねぇだろ?」
パクター「……!」
頭に血が昇っていく感覚が、確かにした。駄目だ、コイツは生かそうにも生かす事ができない。俺は、コイツを許す事ができない。最弱の癖に、生意気で、意味のわからない事を言うから。
パクター「……考えてみたら、おかしな事だ」
俺は、笑いながら……。
パクター「俺はきっと、お前の言う通り無意識の内に手を抜いていたんだよ……。俺は、お前を生かしたいと思ったから、だから出来る限りの手加減をした」
「…その結果、お前に攻撃が通らなかった。そう考えると、お前がこうして立っているのにも納得がいく」
京太「それじゃあ、次に放つ攻撃は確実に正真正銘の本気だって事でいいんだな?」
パクター「……あぁ、そういう事でいい。お前は受ける気があるのか?」
京太「なんで、お前の攻撃をもう一度受けなきゃなんねぇんだって思ったが……。まあ、俺だって自分のステータスについて測ってみたいし。…もし、お前の攻撃で俺が死んだら、結局俺はその程度って事だ。……だが、逆に言えば……」
すると、そいつはとてつもない形相で笑いながら……。
京太「それで俺を殺せなかったら、結局アンタはその程度の人間だって事だよなぁ!?それだったら、お前が攻撃を放った後、俺がお前にとびっきりの一撃をお見舞いしてやるよ!だから、お前も避けるなよ」
パクター「…上等だっ!」
俺は、その勝負を受けて立つことにした。
ありえないんだ、俺がこんな平和ボケした奴らに、この俺様が負けるなんてことは…。
コイツは、きっとレベルという概念を知らなかった。……そんなコイツが、俺に勝てるわけがないのだ。だから、信じろ……自分の力を。そして込めろ……自分の最大限の爆撃を!
京太「あぁ、そうだ。それでいい……ありったけの威力を詰めろよ…?そうじゃなきゃ、意味がないからな……。溜め込んで、溜め込んで……自分の最大の一撃を放ってみろ!」
パクター「随分と、威勢のいいことを言うんだな……」
京太「俺は元々こういう性格なんだよ……ただ、なかなか表に出そうとしないだけだ。だから、嬉しいんだよ。お前という強者が全力をぶつけてくれて……。そして、俺も……手を抜かなくてもいいって思わせてくれるんだからなっ!!」
手を、抜かなくてもいい?その言葉にわずかに反応した俺だったが、そんなことはどうだっていい。結局のところ、勝つか負けるか、それだけでしかない……だから。
パクター「これで、消し炭にしてやる!」
俺はその刹那……。その全力の一撃をそいつに放つ。どう考えても全力、力なんて一切抜いていない!そして俺は、警戒をしていた。こんな奴だ、攻撃を受けるとか言っておきながら避けて反撃をしてくるに違いない。だから、その全力の一撃を放ちながら、そいつの動向を見ていたのだが……。そいつは、一向に動かなかった。ただずっと、その場でじっと俺の攻撃を受けるつもりでいた。
………そして。
その瞬間、轟音と共にとてつもない爆発が鳴り響いた。完全に命中した、手応えもしっかりとあった……。なのに、なのに……。
……そいつは、倒れなかった。
□□□京太視点
京太「あっ……アハハハ」
俺は思わず、笑ってしまっていた。どう考えても全力の一撃。言い訳なんてできるはずのない攻撃を、真っ向から俺は受けてやった……だけど俺は倒れなかった。勿論、傷なんてどこにも付いてやしない。俺は無傷で、そいつの攻撃を受け切った。
その結果、笑うのは俺で……そして怯えるのはその男だった。
パクター「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な……!!」
「何故俺様の攻撃が通らない!!なんで…、倒れないんだよ!!平和ボケした人間たちのはずなのに、どうしてお前は……!」
京太「そりゃ、お前が勝手に勘違いをしていただけだろ?誰も俺は平和ボケしているなんて言った覚えはねぇよ」
京太「はっ……!?けどお前は……」
京太「最弱だと、そう言ったって?あぁ、たしかに俺はそう呼ばれているさ……でもよ。それは、あいつらが勝手に言ったことであり、俺はただそう“呼ばれている”ことに正直に答えただけだ」
「……で?もういいよな??もう、反撃してもいいんだよな??」
拳を握る。……力を込める。
京太「俺は避けなかったんだ……勿論、お前は避けたりしねぇよな……?」
パクター「……お前、お前は………一体、何者なんだ……!」
京太「その言葉、そっくりそのまま返してやる」
俺は、そいつの言葉に思わず笑いながら、その一撃をそいつの腹目掛けて放つ!
……瞬間だった。先程とは比べ物にならない程の轟音が鳴り響き、そしてそいつはとんでもない勢いで吹っ飛んだ。
京太「……期待外れだ」
俺は、そんな言葉を口ずさみながら……。
殴り飛ばした奴の方へと歩きながら近づいて行くのだった。
□□□
殴り飛ばしてやったというのに、一向にこの空間は消えなかった。
……俺は、やっと見えたその男に近づきながら……。
京太「どうやら、体は思ったより丈夫なんだな」
と倒れ込むそいつに向けて、そんな言葉を送った。
パクター「……今のが、お前の全力か……?」
絞り出すように、そいつは俺にそう聞いてきた。
京太「……どうだと思う?」
パクター「……全力じゃ、ない」
正解、だが……。俺はそれを口にする事はなかった。
パクター「……あまりにも異常だ。お前は強い、認めるよ」
「……だが、お前が本当に本気じゃなかったにしろ、お前は勝てない。あの人には、遠く及ばないだろうよ……だって、あの人は……!」
京太「あの人あの人って、うっせぇな。今は俺とお前の勝負だろ。小物臭がすげえと思ってたが、まさかここまで臭かったとはな……」
俺は、そいつに失望しながら……。
京太「一応、期待していたんだぞ?もしかしたらとんでもない奴なのかもしれないってな。だが、違った。……お前は期待をするまでもない凡人……いや、弱者だった。その結果がこれだよ、弱いと確信していた人間にボロボロにされて、地を這いつくばる。」
「……だから、弱者なんだよ」
パクター「俺様が弱者……?だったらこの世界にいる殆どの人間が弱者じゃねえか!!」
京太「さて、どうだかな…。実力だけじゃ、弱者かどうかなんてわからねぇもんだ。俺は、少なくともあの白い髪の女……橙子のほうがよっぽど強く感じたけどな……」
パクター「あの女が……?俺様に惨敗したあの白髪の女がか……?意味がわからない、俺は強い……あぁそうだ。だからここまで多くの能力者を殺す事が出来た。けど、お前がそれを止めた」
京太「アンタが勝手に止められただけだ。俺のせいじゃねぇよ」
「………で?遺言はもういいのか?」
パクター「ふっ………、遺言だと……?」
男は、何故か嘲笑しながら……。
パクター「お前のようなこんなぬるい世界で生きてきた奴に、殺人なんて行為ができるのか?お前がここから出たいと言うのなら、俺はもう何もしない。勝手に出て行けばいい。そしたら、お前が俺を殺す必要ってのは全くの意味をなさないだろう?だって俺が、お前に危害を加えるような事なんてないんだから」
京太「……まあ、それもそうだな」
俺は、そう小さく言って。
京太「確かに、お前は俺に危害を加える事はないだろう。なぜならば、お前は俺に勝てないからな。アンタという人間はきっと、勝てない相手には戦いを仕掛けない。そういう人間だろうからな……だから、俺がお前を殺す必要は無い……と」
「お前はそう考えている、だが違う」
パクター「……違う?」
京太「あぁそうだ、違うんだよ。お前はさっきから間違っているんだ。ぬるい世界で生きた?この俺が?ふざけんなよ、俺はそんな世界で生きてきたつもりわねぇ……」
「俺の生きた世界は、弱肉強食だ。弱き者は死に、強き者が生きる……そんな世界で生きてきたんだよ」
「そして俺は強者だ。……だから、弱者であるお前は俺によって死ななきゃなんねぇ」
「もう危害を加えないとか、そんなのどうでもいいんだよ。お前が俺に危害加えようが加えまいがやる事は変わらない……、強者が弱者を殺すことだ。それが……自然の摂理ってもんだろう……違うか?」
パクター「なっ……!?お前……!」
京太「おいおい、弱者の癖になんだその言葉使いは?俺は今、お前の言うあの人と同じように、アンタより強い存在なんだぞ?」
「だったら敬えよ。俺という上の者に。……そして悲観しろ、お前という弱者に」
パクター「待て…!情報渡す、お前がきっと欲しがるような情報をお前に全部教えてやる!なんならお前の子分にだってなる!だから、だから頼むから……命だけは……!」
京太「弱者からもらう情報も、役に立たない弱者の手駒も、欠片も欲しくねぇよ」
「それじゃあな、アンタはきっと俺を死んでも恨む事だろうが、俺はお前の事なんて一切覚えねぇよ」
パクター「たの、む……命だけは……」
そんな情けない声が、奴の口から吐き出される。だが、そんな奴に俺は容赦なくその命を屠った。これが、弱肉強食。弱い者だけが狩られる世界。
そうして、いつもの俺たちの世界に戻る。俺と橙子と阿久戸だけが、この現実世界に戻ってくる。ぬるい世界……か。俺の生きる世界は、そんな生優しいもんじゃなかった。ま、そんなの誰にも理解されないだろうし、されるつもりもないのだが。
世界ってのは、いきなり馬鹿な設問を投げかけてくるもんだ。その問いに答えられない奴もいれば、答えられても外す人間もいる。
……ただ、俺は一度だってそれを外した事もないし、答えられなかった事もない。
いつも、当たりを引き続けてきた。……それが俺という人間だった。誰だって、人生の選択を間違えたと後悔する奴は多いだろう。ただ、俺は一度たりとも間違えた事は無かった。ずっと、正解を引き続けてきた。けどそれは、ただ運が良かっただけではない。
俺には実力も運も……何もかも備わっていた。だからこそ俺は今回、あいつに勝つ事ができた。……全力を出していないにも関わらず…だ。
京太「に、しても。………レベルか」
あいつがレベル5だとしたら、俺のレベルは一体どれくらいなのだろう。……いつか、それを確かめてくれる奴が現れるのを期待する事にしよう。
例えば……あの爆発男が言っていたあの人とか……な?
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