第四話 レベルが違う
インパクター「逃げていた割には、随分と態度がデカいのだな?」
京太「まあ、逃げろって言われてたからな」
橙子を横目に見ながら、俺はそう言葉を返した。橙子は、気を失っていた。全く、よくこんなになるまで戦ったもんだ。
パクター「とりあえず離してくれる?汚い手で、あんまり触られたくないんだけど?」
京太「お前がそいつを手離せば離してやるが?」
パクター「……ふっ、まあいいだろう」
そうして奴は、橙子をその手から離した。
俺は奴が手を離すのと同時に、橙子が重力に従って倒れるのを支えて、そのまま阿久戸と同じ場所に橙子を寝かせた。
パクター「にしても、不思議なもんだな。普通の奴らだったらここで恐れおののくか、冷静でいられない筈なんだが……。どうしてか、お前らの感情には恐怖というものがないらしい」
京太「逆になんで恐怖を感じなくちゃいけないのか、丁寧に教えてほしいものだ」
パクター「わからないかなぁ、この圧倒的な力の差を?その二人を見ろよ……その二人も俺に歯向かってきたが、結果このザマだ。………これが、差だよ。お前たちのような普通の能力者と、俺達の」
京太「達ってことは、他にもお前と似たような奴らが複数人存在するってことなのか?」
パクター「その通り、俺達はいわば軍なんだよ。……それに、俺はその中でも弱い部類だ。だから、俺がここに来た。でも、お前らはそんな俺に、傷一つ付ける事すらままならない」
京太「そんな自慢話はどうでもいいんだよ。そんなことよりも聞かせてくれ。お前たちの目的ってのはなんなんだ?俺達のことを素材と言っていたが……、それと何か関係があるのか?」
ここで俺は、ずっと聞きたかった事をコイツから問いただすことにした。
パクター「俺達の目的?………さあな」
そいつは、そこでそんな事を言い出した。
パクター「俺はあの人から素材となる強者を殺して持ってこいとしか言われてない。俺はただ、組織の命に従っているだけだ。………あの人の目的なんざ、知る由もないよ」
京太「…あの人?」
パクター「まっ、どうせお前に何を言おうが理解はできないだろうよ。……ただ、俺達の一番上にはそういう存在が居る。いわば神だ、俺達でさえも近づく事を許されない、最強とも言える奴が居る」
「……ふんっ、まああの人がここに現れたらまず言えるのは、この街の住人や能力者は全滅だ。誰も、生き残れない。それだけの力があの人にはある」
京太「へぇ〜…」
つまり……。それが降臨すれば、この世界にいる人間たちは間違いなく終わりということか。となれば、いち早くそれを止める必要があるが。参ったな、好奇心が旺盛であるが故に見てみたいという気持ちの方が高まってしまった。
京太「……けど、それが今いないって事は、準備が出来てないって事か?」
パクター「準備?あぁ、確かにそうかもしれないな。あの人が復活するためには、こうやって能力者の死が必要になるんだよ」
京太「能力者の死?……それがアンタらの言う素材って奴なのか?」
パクター「ま、これ以上ベラベラと内部事情を喋ると俺が消されてしまうかもしれないからな、もういいだろ?さっさと死んで、あの人の復活の為の贄となれ!」
刹那、爆発音と共に弾丸のような物がその男の手から放たれた。俺は、条件反射でその攻撃をなんとかして避ける。
パクター「おぉおぉ、避けるねぇ。まあ、これくらいの攻撃くらい避けてもらわないと面白くないからな。簡単に避けられるように弾丸の数を三発にして、速度も遅めにしてやったんだ。………だからもっと踊れよ、軽快に激しく、死のダンスを!!」
そうしてまた、再び爆発音と共に弾丸がこちらに向ってくる。つまり、どうやらコイツはまだ本気というわけじゃないようだ。あくまで、遊び。……あくまで、俺を踊らせるための行動。どうやら、こいつには負ける自信というのがまるでないらしい。………それだけ、自分に自信があるようだ。
パクター「……なぜ」
と俺を嘲笑うような声が、響く。
パクター「何故、俺達とお前たちじゃこれほどまでに差が出るのか。それは、文字通りレベルが違うからだ」
京太「レベルが……違う?」
そこで、攻撃の手が止まった。
パクター「あぁ、そうだ。レベルが違うんだ、俺達とお前たちじゃ。これまで何人もの能力者を屠ってきたが、そいつらは全員レベル1、高くてもレベル2の……能力しか扱う事の出来ないそんな奴らばかりだった……。まあ、気持ちはわからなくもない。なんせ、レベルを1上げるのにはとてつもない努力が必要になるからな」
京太「経験値を積まないと、レベルアップが出来ないって事か?」
パクター「そういう事だ、そして俺のレベルは5。つまりお前たちよりも最大4歩先にいる事になる。とてつもない壁を乗り越え、そして更に更に高い壁を乗り越えたのがこの俺だ。そんな俺に、レベルの低いお前たちが勝てる道理なんてない」
京太「………レベルが上がる事によって、良い事があるのか?」
パクター「あるさ、まず能力の力が増す。………そして、ステータスや身体能力が上がってどんどん常人離れしていく」
京太「ステータス?」
聞き慣れない単語に、思わず俺は小首を傾げる。
パクター「ふははっ、そりゃ知らないだろうな。ステータスってのはいわば、その人の強さだ。そのステータスが高ければ高いほど、力や速さ、そして体の頑丈さが高いわけさ。そして、レベルが上がるにつれてそのステータスも上がるのだよ。まぁ、人によって初期ステータスや伸び具合に違いが出るがな」
「だから、俺はお前らに本気を出さずとも殺す事が可能なんだよ。今の俺の拳は、当たれば絶命は免れない。………それだけの威力を誇る」
京太「…なるほど。つまり、そのレベルが上がれば上がる程、強くなっていくって事か」
パクター「そういう事だが、さっきも言ったようにレベルを上げるのは相当難しい事だ。そして、お前たちのように平和な世界で生きてきた奴らはレベルを上げる機会なんてそうそうなかったんだろうな………だから」
「正直、期待外れだ。泳がせたら、一人や二人とんでもねぇ奴が現れると思っていたが、そんな事は無かった。お前らは、いつまで経っても弱者だった。だからあの人が出るまでもない」
「俺様だけで……全てを終わらせる事だって可能だ」
京太「おいおい、そりゃこの世界をちと舐め過ぎじゃねぇのか?」
俺はその男の言葉を鼻で笑い飛ばしながら、そう煽るように言った。
パクター「舐め過ぎなのはお前らだ。……まず考えてもみろよ?お前たちはアホで馬鹿で間抜けだから。だから行方不明者が全員殺されている事に気付いてない。こうやって俺様に殺されたり……そして」
その瞬間、地面からあの時の人外達が姿を現す。
パクター「コイツらに、殺されたりする」
「それに、コイツらのレベルは1だ。こんな雑魚に殺されているようじゃ、程度が知れる」
「……だから、お前たちはもう終わりなんだよ。俺達に怯えながら、終わりの日が来るその時を待ち続けるんだ」
そう言って、そいつは火花を纏いながら手を振るった。刹那……人外たちがその火花に触れた瞬間、爆散して塵になっていった。
パクター「これがレベルの差だ…。俺がちょっと手を振るえば、こうやって死ぬんだよ。ただ、それだと面白くない。だからお前にはもっともっとダンスを踊って欲しいんだよ」
京太「そんなにダンスが見たいなら、そういう映像でも見てろよ」
パクター「生憎と………そんなちゃっちいダンスは嫌いでね、死のダンスしか興味がないんだよ、俺は」
京太「趣味の悪い野郎だ」
パクター「……そういえば、お前これが何か知ってるか?」
そう言いながら、先程自分が爆散させた人外を指差しながら
パクター「これは、本来普通に生きてる生物なんだぜ??今となってはこんなナリだがな」
京太「………生物?元々こういう感じの生き物じゃないのか…?」
パクター「あぁ、ちゃんと理性はあったし、普通に生きるようなそんな生物だった。ただ、その中身が消えちまった。コイツらはただの抜け殻になっちまったんだよ。……その結果がこれだ。操り人形として、お前たちを無意識に殺す殺戮のコマにさせられた。………それがコイツらだ」
「そして、コイツらは元々」
そう言って、そいつはその事実を口にする。
パクター「…元々、人間なんだよ」
京太「……人間?」
俺は少しばかり漠然としながら、その驚きの事実に目を見開いた。
パクター「行方不明になった人間の成れの果てがこれだ。………殺されて、中身を抜かれ、その結果こんな無象な人外にさせられちまう。ハハッ、ただ怒りを俺に向けるのだけはやめろよ?こんな趣味の悪い事、俺はわざわざしようとは思わない。これは、仲間の黄色い奴らがこうしたんだ。……こうしたほうが、楽だからってな。俺はそんなもの必要ないと思ったんだがな。なんせ、俺だけで全員殺す事が出来るから。だがそいつは、こんな化け物にした。許せるか?いいや、許せないよなぁ?………ま、お前がどれだけ許せないと言おうとも何も変わらない。お前も俺に殺されて、これと同じ末路を辿るだけだ」
俺が、これと同じ末路を辿る?
……俺が、こんな人外共と同じになる?
京太「ハハハッ……」
つい、口がにやけてしまう。
そんな事、考えた事もなかった。仮にもしも、俺がこんな風になってしまったら、何を考えているのだろう。いや、中身を抜かれるという事は俺の意思も何もかも消えるという事か?それを試したいと、思わずそう考えてしまった。けどそんな事をしたら戻ってこれる保証なんてない、死んでしまうかもしれないのだからな。……俺が死ぬ?そんな事はありえない。そんな事、俺自信が否定する。
だから俺は……。
京太「なぁ……俺がやられたらこうなるのかもしれねぇが……。お前がやられたら、お前もこうなるのか?」
パクター「何?」
そこで俺は、ふと疑問に思った事をコイツに告げる。
京太「結局のところ、死んだ奴がこうやってあの人への傀儡となるわけだろ?俺は別にそいつらに同情なんてしない。弱かったコイツらが悪いんだからな」
「……ただ、お前が死んだら、お前もこうなるのか?」
パクター「…ふむ、考えもしなかったな。だが、そんな事はありえない。だって俺は死なないから」
京太「どこにそんな根拠があるんだ?もしかすると、万が一お前よりも強い奴がこの世界に居るかもしれねえだろ?」
パクター「そんなわけがないだろう。つい先日、俺は自称最強などと吠ざくプロ能力者をこの手で殺した。そんでお前はそいつと比べて圧倒的に覇気が無いし、弱そうだ。………というかそもそもとして、関係的にお前はこの女よりも弱いだろ?……最弱だし。だからこの女に邪魔と言われてた。そんなお前に、勝てる道理なんて無いに等しいだろ?」
京太「まあそうだろうな」
弱者であればそうだろうな。
京太「……そういえば、ずっと思ってたんだがよ?」
俺は、嘲けるように笑いながら、そいつを指差しながら、言ってやった。
京太「お前、とんでもないくらい小物臭がするぞ」
パクター「……あ?」
京太「言ってる事が何から何まで小物臭えんだよ。それに、弱い奴にしか自信を持ってねぇのが特に小物くせぇ。何勝手に自分の限界を決めてんだ。……そうやって何もかも諦めてるから、お前は小物なんだよ」
パクター「フッ……ハハハッ、面白い、面白れぇよお前……!気に入った、お前だけは生かしておいてやるよ。ただ、生きながら死を実感をさせてやる…。小細工は無しだ、一瞬で終わらせてやるよ」
京太「……終わらせられるんだったら終わらせてみろよ。と言っても、小物のお前が終わらせられるなんて思ってないけどな」
パクター「言うねぇ、言うじゃねぇか……だったら、簡単に終わってくれるなよ?俺はもっともっとお前で楽しみたいんだ。……だから頼むから死なないでくれよ。もっと俺を、楽しませてくれよ……!!」
迫る、奴の攻撃が。その速さはもう、常人の域を遥かに越していた。これが、レベルが違うという事か。なるほど……たしかに平和ボケしている奴らからしたらこれは本当にレベルが違う相手らしい。俺を爆破しようとする弾丸がとんでもない速度で、俺に向けて迫ってくる。………そしてその攻撃を、俺は。
あえて、避けなかった。
パクター「はっ……??」
すると、奴の素っ頓狂な声が響く。本当に意味がわからないと言った声だった。さぁ、言ってやろう。平和ボケしていた奴らに対して嘲笑っていたコイツに、そんな奴らに負けるわけがないと高を括っていたコイツに、言ってやろう。
京太「どうした?そんな程度なのか?」
……と、心の底から嘲笑いながら。
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