第三十四話 追憶
次に目を覚ますとそこは、どこともわからぬ場所に連れてこられていた。俺の目の前に映った光景は身に覚えのない部屋の中だった。
京太「……ここは?」
さっきまで俺は、あの真っ黒な空間の中で花御と戦っていたはずなのに、気づいたらこの謎の部屋へと移されていた。あたりを見渡してみると、あちらこちらに扉があり、どれも俺たちにとって所縁のあり見覚えのある扉ばかりが並んでいる。
京太「マジで、いったいどこなんだ?」
花御「ここは私の精神世界よ、お兄様」
いきなり背後から妹の声。俺は即座に振り向いてそいつとの距離を取る。
花御「ようこそいらっしゃいましたお兄様」
花御は礼儀正しくお辞儀をしながらこちらを招くような感じでそう言った。
京太「ここはなんだ?これは、お前の仕業……なのか??」
花御「ご明察、だよお兄様!これは私の能力でお兄様を私の精神世界に無理矢理連れ来させてもらいました。どう?ぱっと見であたりを見てみて懐かしい気持ちになったんじゃない?」
確かにな、と俺は納得しながら再度辺りを見渡してみる。……でも、なるほどな。こういう感じの能力だったのか……一か八かで試してみるもんだな、アイツには後で感謝しなきゃならねえな。
京太「……そうだな。にしてもまさか、いつの間にこんな能力を手に入れていたとはな花御。お前お得意の破壊の力はどうした?アレを使えば俺を消すなんて容易に可能なはずだ」
花御「もちろんそれもあるよ、お兄様。けどさ、それで終わらしたらつまらないでしょ」
京太「……つまり?」
と聞くと、花御は満面な笑みを浮かべながら告げる。
花御「お兄様にはこれから、たくさん苦しんでもらうってことだよ」
次の瞬間、なにかが俺の体を縛り付け強制的に体が花御の方へと連れてこられる。
花御「それじゃあお兄様、大人しく着いてきてちょうだいね」
そうして花御は歩き出し、まずは一番近くにあった扉を花御は開けると。そこには、見覚えのある景色が広がっていたのだった。
京太「これって……」
その場所は、何処かの病院のようなところだった。そして、その部屋のベッドには小さい花御が窓の景色の方をじっと見ていた。
花御「これは、まだ私が8歳の頃。お兄様が私を殺す2年前。この時の私は、病弱でまともに外に出ることもできない体で、いつもいつもこのベッドの上で景色を見ているだけの生活をしていた。まだまだ幼い少女にとってそれは苦痛だった。だけど、時たまにお見舞いに来てくれるお兄様や間宮さんが来た時は嬉しかった。これよりも前から私は、お兄様のことが大好きなブラコンだったわ。そう、とってもとっても好きだった」
京太「……」
花御「こんなにもジブンはあなたの事を愛していたのに、貴方はその命を奪った」
京太「……そうだったな。でもそれは、仕方のないことだった」
花御「へ〜……アンタはそれを仕方ないですますんだね」
あまりにも憎悪のこもった目で彼女はそう言う。
まあ、そうだよな。本人からすれば仕方ないって言葉で片付けられたくないよな。
花御「……じゃあ、あの時の記憶を見ようか、お兄様。私たちの分岐点を」
そうして花御の力で背後を振り向くと、俺らが最初に入ってきた扉がこの場に似つかわしくない重苦しい扉へと変化していた。そして、花御はその扉を易々と片手で開き、犬を散歩させるかのように俺をその奥へと連れていく。
花御「懐かしいでしょ、お兄様」
京太「あぁ……確かにな」
連れてこられたのは、忘れることのできないあの研究所。俺ができる前にアイツが妹を殺めてしまった場所。あの時の京太に、間宮、椅子に縛られた花御、そして………あの能力軍事省のクソ大臣。今思うと、なんであのクソ大臣を信用していたのか理解に苦しむ。この実験がなければ、こんな結果にはならなかったはずだったかもしれない。
そう……この時は確か、花御の能力を正常に扱えるように力を抑えるための実験………だったか?
花御「虚弱体質で強力な能力を所持していた私は、国から危険人物として隔離されてきた。きっと、私は永遠にこの暮らしをするのだと、そう思っていた時、この実験についてを知らされた。これがうまく行けば、やっと私も皆んなみたいに外に出れる、どこにでも遊べる、お兄様と一緒にいられるって!当時の私は、馬鹿みたいに騒いでたっけ……?お兄様もあの時、私と同じくらい喜んでたね」
京太「………」
□□□
間宮『これでここをこうしてっと……。よし!これで準備完了!』
京太『へ〜…、政府のとこってこんなにいい機械があったんですね』
大臣『どうだね?強すぎる能力を持った子達のために作ったこのドレイン装置は?夢のような機械であろう!』
間宮『あぁ!本当に凄いとも!こんな大発明、そう簡単にできることではない。いったい誰が作ったんだ!?是非今度会わせてくれ!』
大臣『まあまあ落ち着いてください!そう近づいてこなくても、そのうち貴方にも会わせますよ。とりあえず今は、あの子の為に動くとしましょう』
たくさんのパッチを付けられて椅子に大人しく縛り付けられている妹に呼ばれ、近づく。
花御『大丈夫かな、私……?』
京太『怖いのか?』
花御『……うん。いざやるってなると、なんだか凄く怖くて……うまくいくか心配で』
京太『大丈夫だ!ここの装置の力に任せれば、きっと良くなる!それに、もしうまくいかなかった時は、その時はお兄ちゃんが別の方法を見つけてやる!!だから、花御は安心していいぞ!』
僕は、半泣きになってこちらを見る妹の手に手を重ね、励ましの言葉をかけた。
そうして、実験は始まった。ただ僕らは、その光景を見ることしかできなかった。ただ、うまくいくと信じて………
□□□
花御「けど、現実はそう甘くはなかった。本で見た御伽噺のお姫様みたいな、そんな奇跡は起こることはなく、逆に状況は悪い方向へと進んでしまった。機械のエラーにより装置が故障し私から吸った能力の力が一気に私の体に戻ってきた。その反動によるものなのか、私は能力が急に『発動』した」
□□□
間宮『なっなんだこれは!装置が故障したぞ!おいっ!どうなっている大臣!!』
大臣『知りません!私もなぜこんなことになっているのか、全く状況が読めていないのですから!?』
京太『花御ー!!聞こえるかー!!力を抑える為に心を落ち着かせろ!』
花御『うっうん!すぅ……クッんあああーー!!!だっ…メ。全然、小さくならない。苦しい…たす、けて……おに、ちゃ…』
間宮『だっダメだわ!体の弱い彼女では発動した地点でもう………っ!?まさか、嘘でしょ』
花御のいる位置を中心に、彼女の能力が荒ぶりだし周りのものをじわじわと破壊していく。少しでも彼女に近づくだけで少しずつ皮膚や服が剥がれ壊れる。この力のせいで、誰も彼女に近づけないでいた。
京太『なんなんだよこれ!』
間宮『……クソっ!どうやら恐れていたことになってしまったようだわ』
京太『えっ……??』
間宮『能力の暴走』
京太『なんだって!!?』
間宮『このまま花御が地上に上がればまずいぞ!その近辺にいる建物や人全てが破壊され消えてしまうぞ!』
大臣『な、なんだってーー!!なら、早く止めなくては!何か方法はないのか!?』
間宮『……方法は、ある。だが、それには彼女のとこまで近づく必要がある。しかし、アレを持ったあの子にどう近づけばいいというのだ!』
全てを破壊する能力の暴走。そんな力を暴走させた人間に近づくための策なんてあるはずがない。そんな子供でもわかる単純な答えを、僕は真っ向から否定する。なんだって僕には、持って生まれた凄い力をもっていたから、だから
京太『僕が行く。僕の能力なら、なんとかなるかもしれない』
と、半分躍起になりながらそう宣言したのだった。
間宮『馬鹿!そんなことすればお前が!』
京太『その方法を早く教えてください!!』
間宮『………っ!?』
□□□
花御「凄いよねこの頃のお兄様は。自分が失敗するとかそんなこと微塵も考えてない無謀少年で、何やってもうまく行くと思い込んでたね。もしお兄様が私の力に耐えられなかったら、小物みたいに終わってたところだね」
京太「けど結果………俺は死ななかった」
花御「そう……私の命と引き換えに……」
京太「…………」
□□□
京太『気絶させるんだね。わかった……』
間宮『おい待て京太!!いくらお前の能力でカバーできるとはいえ、無茶すぎるぞ!!もし助けられたとしても、お前が死ぬことになりかねんのだぞ!!』
京太『ウルセェッ!!!』
大臣『あぁ〜!!私の地下研究所がぁ〜!!』
待っていろよ花御!お兄ちゃんが、お兄ちゃんが必ずお前を助けてやる!この最強のお兄ちゃんが!!
能力を発動する、フルに肉体を高めながら彼女に向かって走り出す。体がじわじわと破壊されていくたび、それに抗うように修復を繰り返す。ヨシっ!これならなんとかなりそうだ。そしたらあとはもう楽勝だな。このまま流れ良く花御の首筋を攻撃をしてやれば終了だ!そう脳内で語っている間に、花御の下に辿り着く。
花御『はぁ、はぁ……おにい、ちゃん。………助けて』
京太『あとは、気絶させれば』
そうして、花御を気絶させる為に首を狙って力を調整して手刀を打ち込もうとした……その次の瞬間。
京太『………っ!?!?』
突然、能力のコントロールを失った。いったいどういうことだ。早く手を止めなきゃ!!そう脳が信号を送った時にはもう遅かった。一瞬にして能力は暴発し出してしまい、僕の振り下ろした手はその瞬間、殺しの手へと変わった。
ゴキキッ!!!
……瞬間。彼女の首から決して人間から鳴ってはいけない音が響き渡った。暴走が収まると同時に花御の体は重力に従って落ちる。妹の方に視線を向けると、花御の首は、ありえないところまで曲がったまま仰向けで倒れていた。
花御『………お、に…ぃ……ちゃ、ん……』
京太『………花御!!』
小さく掠れた声で必死に兄を呼ぶ声が聞こえた瞬間。即座に僕は妹を抱き寄せ、首が酷くならないよう首のすわらない赤子を抱くように首に手を回し支えた。
京太『おいっ大丈夫か?!すまない……すまない』
花御『ねぇ……お、にぃちゃ、ん…………わたし、誰も殺して、ない……?』
京太『……あっあぁー!全員無事だ!お前は誰も殺してない!』
花御『…ほん、とう……?』
京太『おぅ、なんとかお兄ちゃんが止めた。花御はまだ人殺しじゃない!そんなことはいい、早く病院に連れてって治療を』
と言いかけたその時。花御が僕の頰にそっと手を添えた。彼女の手から伝わる体温はさっきよりも冷たく、今にも死にそうなほどに冷え切っていた。
花御『…………もう、いいよ。わたしは、もう十分だよ。………だから、そんな暗い顔……しない、で。自分のせいだなんて…思わない、で……』
京太『花御……』
花御『ありがとう、おにぃちゃん……私、おにぃちゃん、の妹になれて………幸せ、でした!』
花御が言い終えたと同時に、彼女の冷え切った手は重力に従ってはたりと地面に落ちる。それと同時に、妹は糸が切れたかのように目を閉じたのだった。
京太『はな……み??』
声をかけるが、返事はない。咄嗟に、心臓の音を確認する。だが、いくら胸に触れても、彼女の鼓動が返ってくることはなかった。
一瞬、頭の中が真っ白になる。本能的に、考えるべきではないと心が判断した。だが、時間経てば脳は勝手に理解しようと頭を回す。人間は、状況を整理する為に脳を動かしてしまう生き物だから……。
考えたら、答えが出てしまうから……。
そして、僕はやっとそこで自覚した。
ーーー僕が、花御を殺したのだとーーー
京太『……っ!??』
それに気づいた瞬間、僕の心は一瞬にして絶望に染まった。
京太『そん、な……そんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんな。なんでなんで……どうしてっ、こんな……?!』
『……どうしてっ!!!!!!』
狂ったように拳を地面に叩きつけながら、もう既に血で染まった手を、罪を隠蔽するかのようにさらに自分の血で染め上げていく。
間宮『……京太。大丈夫だ、お前は何も悪くない』
絶望する僕の近くによりそんな言葉をかける間宮。しかし、そんな慰めの言葉など耳に入ってこなかった。後悔が、後悔ばかりが頭の中で募っていくばかりだ。
京太『ごめん、ごめん花御……。ごめん……お兄ちゃんのせいで、僕の…せいで!!!!』
間宮『京太、花御……私は、親失格だ』
京太『うああああああああああーー!!!!!』
□□□
花御「……これが、私たちの全て。私の復讐の始まりであり……そして。お兄様が変わってしまった原因の記憶」
京太「……花御」
花御「なに、お兄様??」
京太「あの記憶ではお前は、俺を恨んでいないと言っていた。ずっと疑問だったんだ、恨んでいないはずのお前が……どうして今さら復讐にかられているのか……」
俺に対して恨みがないと言った彼女が、なぜ今になってその復讐心が芽生えたのか不思議でならなかった。すると、花御は嘆息してこう答えるのだった。
花御「バカなのお兄様??あんなのお兄様を思って言った嘘に決まってるでしょ。自分を救ってくれるって期待した存在に裏切られたのよ!憎しみや疑問を抱かないわけないでしょ!」
その正論とも言える言葉に、俺はただ黙ることしかできなかった。そう、だよな。オメェも人間なんだから、そういう気持ちを抱かないわけねぇよな。
花御「ホントお兄様は、人格が変わっても根っこは変わらないわね。それじゃあ…………」
花御の声色が変わり、さっきの落ち着いた感じとは違ったいつもの狂気に溢れた無邪気なものへと変貌すると、手から何かナイフのようなものをパッと出して俺にそれを向ける。
花御「これからお兄様には、私の恨みをじ〜くりと受けてもらうね!」
俺に向けていたナイフが勢いよく刺さり、その激痛により久方ぶりに大きな声を上げた。
京太「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!」
花御「ほら、楽しみなよお兄様!そして、私の恨みを全部受け止めて!!」
それから、何度となく俺は刺された。抵抗しようと思っても、奴の力で体が縛られているためどうすることもできず、ただそいつの攻撃を受け続けることしかできなかった。“アイツ”の代わりに何度も何度も…………。
…………そうして。
花御「あーあ、そろそろ飽きてきちゃったなぁ〜……。もう、殺しちゃおっか」
京太「くっ…………」
花御「あは、こんな時でも弱音ひとつ吐かないんだ。流石はワタクシのお兄様、カッコいいよ。でも、そろそろその強がりも終わり…………これで、最後!!」
花御のナイフが俺の胸に向かって勢い良く迫る。俺は俯いたまま……笑ってそれを待つのだった。
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