第三十三話 狂気の花
重力に従って落ちようとする彼女の手を、僕は一生懸命掴んだ。彼女の手は、今僕が抱いている体と同じで、凄く冷たくなっていた。彼女の心臓の鼓動が、僕の胸の辺りに僅かに触れて伝わってくる。どうやら、まだ生きているみたいだ。
京太「気絶してるだけか……?」
まあ、こんなに冷たくなればそりゃ意識も遠くなるだろう。とりあえず、遥香が無事であることに安堵した僕は、先程蹴り飛ばした奴と黒コートを見に纏った花御の方に視線を向ける。
花御「あ〜らら、ボサっとしてるから来ちゃったじゃんかー、お兄様が」
赤コート男「チッ!クソ、後ちょっとだったのによ!!」
男は悔しそうに片足でバンッバンッと地面を力強く蹴りながら苛立っていた。だけど、俺はそんな男のことよりも花御の方に視線がいっていた。
京太「悪かったな。良いところを邪魔して……けど。お前からしたら好都合なんじゃねえのか?……なあ、花御?」
花御「あはは……!確かにそうかもね。それじゃあー……始めよっか、お兄様!!」
瞬間。先程まで公園だった場所が、またもやあの赤黒い空間へと変わった。
この空間に連れてこられるのも、結構久しぶりな気がするな……。
日内「どうする?」
この状況についてどうするか聞いてくる白コートの男。いったい誰かは知らんが、十中八九灯嶺の差金だろう。まあ、こちらとしては大助かりだから良いのだが……。
京太「花御の相手は俺がやる。お前はその女を守りながら赤コートの相手を頼む」
日内「うむ。任せておけ……あと、これをアンタに」
突然、名前の知らない革命軍の男は俺に何かを渡してきた。
京太「……これは?」
日内「武器とちょっとしたメモだ。武器は多分お前はいらないかもしれないけど……そのメモは読んどいたほうがいいぜ」
そう言われたので、武器と一緒に渡されたそのメモを開いて何が書いているのか確認する。
京太「……ふーん」
その内容を見た僕は、それをポケットの中にしまい、花御の方へと再度視線を合わせるのだった。
赤コート「あの男と女子は俺に任せな、花御ちゃん!早くその因縁を晴らしてきなよ!」
花御「えぇ、もちろんよ。さあ、覚悟してね、お兄様ー!!」
いきなりこちらに向かって花御。俺もそれにノリほぼ同時に走り出す。
京太「ふん。そう簡単に行くと思うなよ!」
そうして、始まった。
俺たち兄妹の初めての兄妹喧嘩が……。
□□□日内視点
日内「へ〜、アレが黒宮京太……ねぇ」
話に聞いていた通り、とても強いようだ。あのリーダーを負かしただけのことはあるようだ………でも。
日内「リーダーは確かに強いが、真に革命軍の中で強えのは、この俺だ」
いずれ、アイツと戦うことがきっとどっかであるだろう。その時は、格の違いってのを見せてやらねえとな。
赤コート「なに一人で喋ってんだ、この厨二病発症が」
日内「俺は厨二病じゃねえ、勝手に勘違いすんな。そういうアンタもなんだその剣は?」
と言って、そいつがいつの間にか出した両手の剣について問う。そいつの剣には、炎が纏われており、先ほどの氷とは真逆の力を使っていた。
赤コート「いい剣だろ?これは俺の能力で、それっぽい形に炎を変換させた剣。その名も、インフェルノソードさ」
なんとも厨二っぽいワードセンスだろうか。フードを深く被っているから余計カッコ悪く感じる。これで、赤コートか………まあ見た目に騙されていけないというからな。それに、この子を守りながら戦わなきゃならねえ。十分に用心することにしよう。
日内「ほら、かかってこいよ。俺とお前の強さがどれだけ違うか見せてやる」
赤コート「へ〜?言うねえアンタ。俺は、フォーカラーの中で一番強いミドルブラッドの兵だぞ?そっちこそ、俺の強さに圧倒されるんだな!!」
と、調子に乗る男。この程度の相手、俺の敵では無いが………。黒宮京太がどんな闘い方をするのか気になるし……手加減して戦ってやるか。ま、最初から本気なんて出すつもりなんかなかったんだけどな……。と、内心でそいつを嘲笑って……そして、同時に動き出すのだった。
□□□京太視点
花御「はぁぁっ!!」
花御から繰り出される足技を、俺は腕でガードして、彼女の体を押し出す。さらにそこから、花御の連撃が繰り出されたが、俺はそれを一つ一つ丁寧に受け流しつつ攻撃を加えようとする。だが、俺のその攻撃も上手いこといなされ、激しい攻防が続いていた。やはり、戦闘に出てくるだけのことはある。身体能力も体も、動きもとても良くなっている。病弱だった五年前とは大違いだ。それほどまでに僕を恨んでいたのか……?それとも……
花御「どうしたのお兄様?!まだまだお兄様の力は、こんなもんじゃないでしょ?もしかして、私を殺さないよう手加減してくれてるのかな?優しいね〜……けど、それが命取りになるんだよ!!」
花御は握っていた拳を大きく広げ、その手を俺の腕目掛けて伸ばす。
俺は、花御の能力を知っている。だからこそ、あの手に触れてはダメだ。花御の能力は、『破壊する能力』で有機物だろうが無機物だろうがどんな物体も手で触れれば壊すことができてしまう最強の能力だ。だけど、強い能力というものには必ずデメリットや条件がついている。そして、一番近くで見てきた僕だからこそわかる弱点がある………それは、発動するために破壊する箇所を手で触れなければならないというものだ。言ってしまえば、彼女の手さえ注意しておけばその破壊を受けずに済むというわけだ。
………だから俺は、花御のその攻撃を回避してその手首を掴んだ。案の定、花御はもう片方の手で能力を発動し触れようとするが、俺も空いている方の手でその手首を掴んで押し合いに持ち込んだ。
花御「流石はお兄様!5年前よりも腕が上がってるねー!」
京太「そりゃあな、いつまでも停滞してばかりもいられないんでね!……どうだ、臆したか?」
花御「あははっ!なわけない…じゃん!!」
京太「っ!?」
突如、花御が後ろに倒れ始める。彼女の手を掴み取っていた俺はそのまま彼女の力に引っ張られ、花御の上に跨るような態勢になった。次に花御は勢いよく俺の腹を蹴り飛ばして俺の体は宙へと飛ばされる。
花御「空中なら、私の攻撃は避けられまい!!」
すぐさま体を起こし、それと同時に即座に飛び上がり俺の体に触れようと手のひらを広げてこちらに伸ばす。
狙いは俺の体か!?まずい!
俺は即座に体を捻り回転させ、軌道を変えてなんとか回避し地面に着地する。
京太「今のは、ちょっと危なかったぜ」
花御「すっごーい!流石はお兄様!空中での私の攻撃も避けられちゃうんだ〜。よかったー」
京太「……よかった?」
花御「だってそうじゃない。この程度で終わってもらっちゃ、復讐のしがいがないもの。それに、戦いには手応えがなきゃつまらないでしょー……ね?私と同類の戦闘狂ならわかるよね。おにいさま?」
京太「………ふっ。そうだな……流石は俺の妹だ。そんなとこまで良く似てるぜ〜…。それじゃあ俺も、そろそろ本気出すとすっかな」
そうして、俺は妹に対して初めての殺気を放ちながら、戦闘態勢に入る。妹も狂ったような笑みを見せては、構えをとり始める。
邪魔はすんなよオリジナル。ここからは、俺のターンだ!!
と言って……俺は即座に能力を発動し、そして動き出す。
花御「っ!?」
彼女が隙を見せた瞬間、俺は一瞬にして彼女との距離をゼロにした。花御はなにやら困惑した顔をして止まっていた。そんなアイツの腹に、突きの一撃を喰らわせた。
花御「……カッ!?」
花御の体は、凄い距離まで勢いよく吹っ飛んでいく。俺は吹っ飛ばした方向を見つめて余裕そうな笑みを浮かべながら、自分が吹っ飛ばした方向へと走り出すのだった。
□□□花御視点
花御「……ははっ!」
凄い!とても痛いのに楽しいわ。この痛みが、私が今強いやつと戦っているんだらということを強く示してくれる。私は思わず興奮気味になりながら、そんな狂ったような笑みが口から溢れ出る。
花御「さっ……すがは、お兄様だわ!!」
そう叫びながら自分の手足を地につけて、ざぁぁーー!!っと地を削る音を立てて摩擦で勢いを殺していく。前に視線を向けると、お兄様がものすごい速さで追いかけてきた。私は急ぐ思いで勢いを止め、すぐに態勢を立て直す。
花御「2度目はないわよ、お兄様!」
すぐに反撃の構えをとって身構える。
お兄様が次に狙うところは……さっきと同じ場所、腹!!それでお兄様の拳を受け止めて、反撃と同時にアレをする!完璧な作戦、これで私は兄を超えるわ!そうして、お兄様は予想通りそこに向かって拳を突き出した。今だっ!!
……刹那。急に奴の拳が遠ざかり始める。そう、なぜかお兄様はそこで一歩引いてきたのだ。もしかして、私の作戦に気づいて攻めから守りにしたとか?いや……お兄様ならば、この後に別の手で攻撃をするはずっーー。
花御「っ!?!」
突如、視界の右側からお兄様の蹴りが私に迫る。読み通り攻撃してきたので、なんとかすんでのところでその攻撃を腕でガードし、それを弾き返す。しかし、ソイツはその弾きを利用して高速で逆回転し、今度は視界の左側から攻撃をしてきた。私はガードを解いたばかりで対応できず、見事にその蹴りを喰らってしまう。
花御「うぐっ!!??」
横っ腹に重い一撃。そして、また体が勢いよく吹っ飛んでいく。だが、さっきの突きよりは弱かったおかげで、そこまで飛ばずに済んだ。
花御「あははっ!……凄すぎ、急に力入れるじゃんお兄様。大事でか弱い妹をよく攻撃できるねぇ」
京太「か弱いねぇ……もうそんな体じゃない癖に」
花御「まあそうだね。今の私はもう昔の私とは違う。弱くて明るくて誰にでも笑顔を振り撒くようなそんな可愛らしい妹はもうどこにもいない。お兄ちゃんが、自分でその妹を殺してしまったからね」
だから、教えてやらなくてはならないのだ。あの子が受けた、苦しみを。貴方は受けなければならない義務がある。たとえこれが、自分の身勝手なモノだとしても………。
花御「私の恨みを、とくと受けてね。オニイサマァァー!!!!」
足に気を纏わせ、その気を雷の力に変える。
花御『雷気・電速の縮地!!』
足の筋肉が電気の力によって刺激され、物凄い速さで奴に向かって接近する。
京太「……っ!?!?」
花御「もらったぁぁー!!」
そうして、お兄様と私の距離がゼロに到達したその瞬間、移動中に発動した能力を右手に纏わせ、ようやく見せたお兄様の隙を突いて……私は、お兄様の胸に触れることができたのだった。
ーーさあ、聞かせてちょうだいお兄様ーー
ーーその怨嗟の声をーー
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