第三十二話 英雄は遅れてやってくる
遥香「はぁ…はぁはぁはぁはぁ……!」
私は走った。ただひたすらに、走っていた。だって、仕方ないじゃない。戦闘もできない、守られることしかできない。オマケに相手は私のことを狙っている。
またあの人たちに捕まらないためにも京太さんに言われた通り逃げなきゃ!
だが、そこで私は体力の限界になり、過呼吸になりながら駅近くの大通りにある路地裏の方へと一旦身を隠す。
遥香「はぁはぁ……駅まではあとちょっとだし……、どこか隠れて休められそうな場所は……」
と、影から身を出して辺りを見渡したその時。
??「やっほ〜!こんにーちわ!」
遥香「……えっ」
突如、背後から知らない女の声。声に反応して反射的に振り向くとそこには、ニッコリと不気味に微笑む女の顔が目と鼻先にまで近づいていて……。思わずビックリした私は路地裏から飛び出した。
遥香「ひっ!?!」
焦って後ろに下げた足は、道の小さな出っ張りに踵をひっかけ、その拍子に後ろから転んで尻餅をついてしまった。痛むお尻を抑えながらもう一度その女の方へと視線を向けて……そこであることに気づいた。女の姿を再確認した後、私の頭は恐怖でいっぱいになってしまった。
花御「あはは、そんなにビビんなくても殺しはしないわよ。ちょっと貴方に用があるだけだから」
目の前の女の人は穏やかな雰囲気でそう言った。だけど、そんな程度のもので私の恐怖は消えない。だってそいつは、黒いコートを着ていたのだから。顔はフードで隠れていてわからないが、コートを着ている時点でヤバイことはわかっていた。
男「なんだなんだ?」
女「あの黒い服着てる子、なんかヤバくない?」
男2「おいおいやべぇやついるって」
女2「あれって最近うわさの能力者殺しじゃないか?!」
男3「てか、襲われてるの女の子じゃ〜ん!いっちょかっこいいところでも見せに行くか!」
人通りの多い大通りなのもあってか、通りかかった人たちが私たちに注目する。
男3「おいそこの見るからに怪しい黒い奴!か弱い女の子になにしてんだ!?」
花御「うるさいなぁ〜、アンタに興味はないのよ。去らないと殺すわよ?」
男3「おうおう、強い言葉ばっかり使っちゃってぇ……弱く見えちまうぞ!」
私の前に出たその通りすがりの男は、そう余裕そうに言ったが……。
花御「しつこい」
男3「……へっ……??」
バキッ!!……と、まるで何かが壊れるかのような音が響き渡る。すると、私を守るように立っているその男の手は、跡形もなく崩れ去っていた。
男3「おっ……俺の、右手が………今、ボロボロに壊れて……?!!?いったい、どうなって……!?」
男の手は、手首から先が消えていた。まるで、とてつもない力で腕をちぎられたかのように、骨までごっそりと消えていたのだ。
花御「もう一度言うわよ。さっさと退かないと……殺すわよ」
女のその言葉で男は戦意喪失し、自分の右手を見ながら恐怖に溺れた顔をして、最後に叫びながら逃げていってしまった。そして、男の手が壊れる様を見ていた周りの人たちは一斉にパニックに陥り騒ぎ出したのだった。
女2「キャァァァァァーー!!!!」
男「あいつヤバすぎるって!!」
女「私たちも逃げなきゃ殺されちゃうわ!」
男2「あの娘には悪いが、逃げるしかねぇ!」
花御「ふんっ。これでやっと邪魔なく進められるわね。ほら、遥香ちゃん。怖がらなくても大丈夫だよ。だから、大人しくしてね♡」
ゆっくりと女の手が私の方へと伸びてくる。周りにいる人たちは、さっきの男の様を見たせいで、誰も助けようとせず、嘘でしょ!いやだ、もうあんなところには……。嫌だ嫌だ!誰か……助けて……怖いよ
そうして、女の手が私に触れた………その次の瞬間。
ヒュンッ!と風を切るような音と共に、私の体は突然宙に浮き始めて………。
白コートの男「間に合ってよかった」
遥香「えっ……??」
気づけば私は知らない男に、担がれていた。男の顔はフードで隠れて見えなかった。助けてくれた……のかな?と思ったのもつかの間……その人の纏う服を見て、またすぐに私の心は恐怖でいっぱいになった。
遥香「コッ、コートの人……!!やめて!離して!」
震える声で私は抵抗する。だが、恐怖に溺れた体ではマトモに力が入らなくて。もうダメだと……そう悟った瞬間。
花御「待ちなさいよ革命軍!そいつは私の獲物よ!横取りしないでよ!」
さっきの女が怒号を吐きながら私を追ってきた。
白コート男「安心しろ、お前の味方だ。色々と困惑してるだろうが、話は後だ。今はとりあえず逃げるぞ」
突然現れて私のことを助けてくれたその男は、私を担ぎながら建物の上を軽々と飛んで追いかけてくるその女から逃げるのだった。
□□□京太視点
ヘルキャス「ばっばかな……私の炎が、効かないっだと!?」
京太「今は呑気にお前らの相手してる暇ねえんだ。だから、少しの間眠ってろ」
そう言って、そいつの顎を力強く蹴り上げ、気絶させる。
京太「クソ、意外に遅くなっちまった」
僕はその場から急いで駅に走り出す。この時間帯なのもあり、人の数が多くなっていた。遥香は大丈夫だろうか、ちゃんと駅に着けているだろうか?あの時、逃げるように言ったが。正直、あんなに敵が弱いとは思っていなかった。あれだったら近くにいても余裕で守ることが可能だっただろう。
ん?……待てよ。見せかけだけの輩達ばかりだったってことは………まさかコレって……。そんな考えが頭をよぎった瞬間、僕はすぐさま能力を発動して人を掻き分けながら街を駆け出すのだった。
□□□遥香視点
花御「アハハハッ!!ほらほら、大人しくその子を渡しなさい!」
??「チッ!クソッ、なんてしつこいんだ」
遥香「きゃっ!?」
私は今、とある白コートの男に助けられ、担がれた状態であの女の人から逃げていた。白コートの人も、なぜか私のことを助けてくれている。こんな合ったこともない、赤の他人である私を助けてくれる理由が、私にはわからなくてモヤモヤした。
花御「さて、そろそろ飽きてきたし」
と、女はそう呟いて。
花御「ちょうどいいからここで、一回落ちときな!」
いつの間にかその女は、私たちの真上に移動して……。そのまま私ごと攻撃してきた。
白コートの男「ウッ!!」
遥香「イッ!!」
私と男は真下の公園の真ん中に叩き落とされてしまった。
白コ男「大丈夫か嬢ちゃん」
遥香「は、はい…なんとか」
??「そうか、安心したぜ」
白コートの男が立ち上がると、何も言わず前に出て、私を守るように剣を女の方にその人は向けた。
花御「あ〜あ、せっかく革命軍の人が現れたから楽しめるかなーって思ってたのに。貴方、逃げてばっかりじゃない?」
黒コートの女は、そう言って白コートの男に対して苦言を呈する。
そこで男は、フッと笑ってみせた。
白コ男「そりゃ悪かったな。守る対象がいると、本調子が出ないもんで。アンタがこの子を諦めてくれるなら相手してやってもいい」
と、余裕そうに男は言った。さきほどダメージを負ったばかりなのに、男は痛がることもせず平気そうにしている。
花御「ん〜…そうしたいのは山々なんだけど。そうもいかないんだよね〜。うちの上司がさ、連れてこい連れてこいって煩くてさー。だから、早めになんとかしたいんだよねぇ」
白コ男「へー……なら、話は終わりだな」
男はそう言うと、左手に持っていた剣を右手に持ち替えて、どこからともなく左手から剣を出してみせた。
私はそれに内心驚いた。一体どこからもう一本の剣を!?男の腰や背中には、鞘は見当たらないし、思えばさっきから持っていた剣の鞘も持っていなかった。服の中にしまおうにもあの剣の長さ的にも直感的に入らないとわかった。
これは、いったいなんの能力なの??
花御「二刀流……ね。もしかして貴方、厨二って奴なのかな?」
白コ男「ん?……悪いが、とっくに中学は卒業したぞ」
花御「そういうことじゃねぇですわ!!!もしかしてわざとボケたわけ!?」
白コ男「まあ、ボケたと言えばボケたな」
花御「私のこと舐めてるわね。いいわ、だったら殺すつもりで行かせてもらうわね」
彼女のその言葉を合図に、戦いの火蓋が切られる。瞬間、とてつもない音を立てながら血を蹴る二人。女は武器無しで己の肉体のみで、剣を持ったその男と対峙する。馬鹿な私でも、流石にあの男が勝つだろうと思っていた。だって、武器を持っているのだ。どう考えたってあの人の方が優勢だ………そのはず、なのに。
花御「あははは!どうしたどうした!剣二本の癖に全く当たらないわよ!」
白コ男「言い訳はあまり好きじゃねえが。さっきも言ったように、護衛対象がいるとそっちの方に気を取られちまっていつもの調子が出せねんだ。……それに。アンタ如きに本気を出す必要がない」
花御「へ〜、言うねぇ!だったら、その虚勢がどこまで張れるかしら!!」
その女は、余裕そうに攻撃を避けていた。意味がわからなかった。私の目では男の剣のスピードは追えなかった。そんな見えない攻撃を、どうして避けられるんだよと思い、困惑する。……けど、それは男も同じことでお互いに一発も攻撃が当たらずに拮抗していた。
すると、二人の顔を隠していたフードが、激しい戦闘により頭から外れ、女の白っぽい水色の髪と、男の鮮やかな銀髪が露わになる。
遥香「……えっ!?」
フードが外れ、隠れていた女の顔を見た私は、その顔を見て唖然とした。
だって、その顔が凄く…あの人に似ていたから……。
花御「あれ?どこかで見た顔だと思ったら………あなた。革命軍の幹部じゃーん!」
白コ男「知ってたのか……。流石は敵組織だ、我々の情報をよく知っているようで……?」
花御「まだまだ情報薄だけどね。けど、アンタの事はみんな知ってるよ。革命軍幹部“特攻隊長”、日内小吾郎」
遥香「革命軍……特攻隊長?」
彼女に追いかけられてる時にも聞いた、革命軍という名前。革命軍ってなに?……とそう疑問に思った……次の瞬間。
遥香「ムグッ!?」
一瞬のことだった。背後から近づいてきていたもう一人の仲間に、私は口元を抑えられ、強い力で腕を掴まれ、身動きが取れなくなってしまった。
赤コートの男「クククッ。良い作戦だったぜ花御ちゃん」
遥香「んー?!」
日内「っ!!しまった!」
先ほど女の人から名前を明かされた日内という男の人が、襲われた私に気づいて助けようと動いた。……だが
花御「おっと。アンタの相手は私だよ」
日内「クッソが!」
私はなんとかしてその男からの拘束から逃れようと暴れてみるが、男の力が強過ぎて全く解ける気配が無い。ていうか、さっきから体が……寒く………。
____っ!
遥香「ーーんっ!!!?(えっ!!!?)」
気づけば私の体は徐々に凍りつき始めていた。まさか、この男の能力!?私の体はなすすべなく足からその上を目指してどんどんと凍り付いていく。
遥香(ヤバイ…ーーだんだんと寒さで体に力が………それに意識も……朦ろう、とっしてーー)
どんどんと体温が下がっていき、もう無理だと必死に開けていた瞼が下がった………その時。
赤コート男「ぐえっ!??」
男の苦痛な叫びと同時に、私の体は急に男の拘束から解放され、凍り付いていた体も無事氷から解放された。すると、誰かが私の冷え切った体をギュッと抱きしめた。私は重たい瞼を上げて、その人の顔を見ようとする。
京太「悪い、遅くなっちまった」
そこに映ったのは、私が誰よりも信頼していて、どんな男よりも大好きな人の顔だった。
遥香「よかった……本当に、きてくれた」
朦朧とする意識の中、京太さんの顔に手を伸ばす。だがそこで、私の意識は暗転し、視界が真っ黒に変わる。そうして、そのまま私の意識は完全に途絶えてしまうのだった。
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