第三十話 二人で……
京太「はっ??学園全体に遥香を認知させる?!」
あれから数時間後。
間宮のところに用があって訪れていた俺は、来て早々とんでもない事を言われた。
間宮「うん。学園長の命令でね」
京太「いや、なんでそんなことになった?」
間宮「学園長が言うには『これも人間不信のケアの一環になるだろう』だってさ。一応彼女の能力云々は黙ってるから生徒になったりする事はないだろうけど……。問題は」
京太「彼女が耐えられるかどうか……か。学園長は随分と単純思考なんだな」
まあ、俺も学園長と同じような気持ちではあるが……そこまで考えてないわけではない。もちろん、人間不信の人のことなんかわからないのでなんでも試してみるべきではないかと思っている。
京太「やっぱり、遥香自身が大丈夫かどうかが気になるな……」
間宮「まあ、いつまでも停滞する訳には行かないからね。我々医者は、患者の病をケアするのが仕事だ。なら、それを治してあげるのが、医者であり養護教諭でもある私の役目だ」
京太「……ま、やってみるだけやるか。お前もそれでいいだろう?」
京太(僕)『うん、多分いいと思うけど……』
と少し不安そうな感じで中のコイツはそう答えた。
間宮「中のそいつも肯定的なのか?なら、遥香にはお前から伝えてやってくれ。1番打ち解けていて、普通に話せるのはお前だけだからな」
京太「いいけど。厳密には何をするんだ?」
間宮「とりあえず、君のいるFクラスでだんだんと慣らしていこうと考えている。Fクラスの人たちは、優しい人たちばかりだからきっと大丈夫だと思ってね。君もいるし」
京太「わかった。とりあえず伝えておくよ」
間宮「ありがとう!」
京太「そうだ。あと言わなきゃ行けない事を思い出した」
間宮「?なんだい??」
そうして俺は、あの時伝えていなかったレイの存在やクローンについて全て話した。全てを伝え終わると、それに対して間宮はこう言った。
間宮「待て!!なんでそれを先に言わない!!1番大事そうなとこじゃんか!?なんであの時言わなかった!!」
京太「だってあの寮、壁薄いし……そんな大事な事をもしたまたま起きてた奴に聞かれたら面倒だろ」
「だからあえて言わなかった」
間宮「確かにそう説明されれば納得がいくが………それでも、なんかむかつく!」
京太「お前は子供か」
とりあえず、子供のようになにか訳のわからん苛つきを覚えている彼女を俺は仕方なく宥めることにした。このままだと話が進まないので誰かが宥めないといけない。めんどくさいがやらないといけないのだ……。
間宮「ふぅ…。にしても、『クローン』……か。まさか………もうそこまで。それに、レイ・アフェリア……」
京太「?……どうした?」
間宮「いや、なんでも。少し思うところがあったというだけだ。多分、お前に言っても伝わりはしないよ」
京太「そうか。まあ、もし話す気になったら話してくれ」
間宮「その時があればね。じゃ、伝言頼んだよ!」
俺はその言葉を聞いて、そちらに視線を向けずに手だけで返事してその場を後にするのだった。
□□□
さて、どう伝えようものか……。
自分の部屋の前まで来て、今更ながらそんな事を悩む。
京太「どうしよう……!僕のせいで彼女がさらに病んで、積み重ねた信頼が壊れたら……!?」
京『心配し過ぎだ心配性チキン』
心配性チキンってなんだよ??新しい用語を作るな。
京『ビビってる奴のことをチキンって言うんだろ?使い方は間違ってねぇはずだが?』
そう言われれば確かに。
とにもかくにも、とりあえず部屋に入ろう。そう京に荒めに背中を押されて思い立った僕は、部屋の戸に手を掛けた。
部屋に入ると、そこにはいつも通りに僕を見つめる遥香がいた。まだ彼女は、僕の前で一度だって笑顔になってもらったことがない。それはまだ、彼女が自分を警戒していて気を張っているからで……まだほんの少し信用されてない根拠でもある。
京太「よぉ!大人しく部屋で待ってたか?」
遥香「まあ、はい………」
京太「そうか」
遥香「今日は何を持って来てくれたんですか?」
京太「フルーツサンドと飲むコーンスープ。この前リクエストしてた物にしてみた」
遥香「ありがとうございます。あと、はい……今日のコーヒー。今回は上手くできたと思います」
京太「ありがとな。頂くよ」
遥香「私もいただきます」
まさにお手本のような日常風景に見えるが……僕と彼女の間には、物理的にも精神的にもまだ少し距離があるといった感じだ。これが僕らの今の微妙な距離感だ。なんというか、側から見れば会話のない熟年夫婦みたいだなと、ふとそう思った『自分のもう一人の人格を俺はぶん殴りたい』
……繋げてくんなよ。
京太「うん!今日はよく出来てるな、粉も混じってないし……丁度いい苦さだ」
遥香「んっ……」
僕がそう彼女を褒めると、彼女は口を少しモゴモゴとさせながらこちらを向いてそう頷いた。
……しばらく、コーヒーを啜りながら沈黙した時間が流れる。僕は、この後どう伝えるべきなのか考えていた。アイツは、『さっさと言え』とさっきからうるさく言ってくるがそういうわけにはいかない。僕はあの一件以来慎重に行くようになった。慎重に行く事には沢山の利点があったから、そういう動きをするべきだと思った。だからこれ以上、同じ失敗を踏まないためにも……ちゃんと考えて行動しなければならない。
京太「なぁ遥香」
遥香「なんですか?」
京太「学校の中を見たいと思ったことがあるか??」
遥香「学校?」
京太「そう学校。ってわかるかな?」
この子がどれだけの知識を持っているかは知らないが、少なくとも小学生ぐらいの知識くらいはあるかなと思っている。
遥香「流石にわかるけど……。正直にいうと気になってはいるけど、怖い気持ちもある」
「………てか、どうしていきなりそんなことを聞くの?」
京太「いや、お前の安全のためにもいろんな大人たちからお前を守ってもらえるようにした方が良いかなと思ってな。流石に僕も、ずっと遥香の側にいることはできないからさ、少しでも頼れる人が増えてくれた方が遥香も楽しくやれるかなって……」
遥香「嫌だ。絶対にお断りよ」
京太「えっ?ちなみに理由は?」
遥香「だって、アンタ以外の人なんて信用ならないもの」
京太「そうは言っても、遥香も女友達くらい欲しいだろ」
遥香「いらないわ。だって私にはもう、京太さんがいるし…………えっ?」
京太「ん??」
急に彼女がそんな素っ頓狂な声を上げた瞬間、彼女の顔はだんだんと熱を帯びたように赤くなっていった。熱でもあるのかと思い、心配の声をかけようとした。
……けど。
遥香「ちっ違うのよ今のは!!口が滑っ、じゃなくて………そう間宮お姉さんと間違えたのよ!」
京太「間宮ねえさん??遥香、あの人にお姉さん呼びするように言われたの??」
遥香「そっそうだよ!」
京『あの人、40まじかの癖に何をこだわってんだ??40になっても大して見た目変わらねぇだろ』
そう言ってやるな京。あの人もあの人なりに気にしてるんだ。だがそうか……仲良くするのは嫌か………まあ、人間不信ってのは大抵そんなものだ。信用できるものに依存するのは仕方ない。きっと彼女は、僕のことをお兄さんぐらいに思っているのだろう。まあ、別にそれで良いのだが。とりあえず今日はそのまま眠りにつき、この結果を明日、間宮に報告するのだった。
□□□
遥香(よっよし!なんとか誤魔化せた)
いったい自分でもどうしてこんなことを思ったのか一切合切わからないが、とにかくあの男が信用できることはわかった。あの男は、私に話もなしに無理矢理進めるような奴でもなければ、嘘をつくような奴でもない。一週間以上も一緒にいるのだ。いやでもあの男のことは少しくらいはわかってしまう。
だけど………彼に対してのポワポワとしたこの熱いなにかは、一体なんなのだろう?と意味のわからない心情に私は内心困惑していたのだった。
京太「さて、そろそろ寝るかな」
遥香「はっはい…………あの!」
京太「ん?どうした?」
私は思い切って、京太さんに声を掛けた。こんなことをお願いすることなんてないのだけど………ちょっとだけ、彼の前だけなら甘えてもいいかなと……そう思ったから。だから私は……
遥香「あの、一緒に寝てくれないかしら?」
と、そんなことをお願いした。
すると……。
京太「……えっ??えぇ〜〜!?!?」
京太さんは物凄い顔で仰天した。そんなにも私がこれをお願いするのがおかしかったのだろうか。でも、もう決めたのだ私は、だから……。
遥香「そろそろ私も、素直になろうと思って……だからお願いしたんだけど」
京太「いや、でもな!流石に男女が同じベッドで眠るってお前………何されてもおかしくないんだぞ!?」
遥香「そう言うってことは?私に何かするつもりだったんですか??」
京太「そういうわけじゃないけど……」
遥香「なら、いいじゃないですか。ほら、もう夜も遅いですし……ねましょ!」
京太「おっおう」
そうして、やや強引に京太さんをベッドに引っ張り、私は京太さんに抱きつきながら眠ったのだった。
……私は今日、大きな一歩を踏み出した。
いつまでも止まってはいられない。
あんなにも親身に私に歩み寄ってくれているのだ。ならば私も、少しくらいは素直にならないとだよね。だって、あの人はもう……私の信頼できる男性なのだから。
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