第三話 その手を離せ
部屋に戻った俺は、そのあとすぐに夕方の昼寝をしていた。だがその数十分後、もうちょっとで夢の中というところでそれを邪魔されてしまった。
橙子「邪魔するわよ!」
京太「邪魔すんなら帰れ」
俺はその女を睨みつけながらそう言った。
橙子「…でっ、実はちょっと頼みたいことが」
京太「おいナチュラルに無視して話進めんな!俺は帰れと言ったが?」
なんでコイツは平然と話を進めようとできるんだ?一種の才能とも言えるんだけど?
橙子「話くらい聞いてくれてもいいでしょ!」
京太「嫌だね」
俺にそんな義理はもともとないしな。
橙子「学校中に言うわよ?あなたが変態だっt」
京太「よ〜し、要件を聞こうじゃないか!!」
さすがにそんな事をされてはいくら俺でも耐えられないので、大人しくその頼み(命令)を聞くことに俺は同意した。……まったく、恐ろしい女である。
橙子「それで要件なのだけど……」
そうして彼女は、その要件を詳しく説明した。
京太「へー…、行方不明事件を独断で調べたいから手伝って欲しい…ねぇ〜……?」
橙子「どう?アンタも最近気になっていたでしょ?」
京太「……まあな」
その通りなので、否定はしなかった。
橙子「ともなれば、少しでも世のため人のためになるように……、これは行くしかないわよね!」
京太「自分の点数稼ぎのためだろ、普通に」
橙子「うっ……そうだけど。でも、これはきっとチャンスだと思うの。落ちこぼれから脱却するための最高のチャンス。あなただって、ずっと最弱の汚名を着たくはないでしょ?だから、一緒に行くわよ」
京太「おいおい、俺はまだ行くとは」
ガチャっ。
橙子「京太さんが私のぱんっ!」
京太「わかったわかった行くからそれ以上言うな!」
なんだよこの女マジで恐ろしいんだけど?!
橙子「ふふふ、話は決まりね。さあ、行くとしましょうか」
京太「はぁ〜……。なんて野郎だ……」
俺は彼女に対してため息を吐きながら、大人しくついていくことにするのだった。はぁ、なんで俺がコイツのためにこんな事をしなきゃならんのやら、それが不思議で仕方なかったのであった。
□□□
しばらく俺らは、適当に夜道をぶらついていた。目的はそう、行方不明事件に関連する何かを集めるためだった。
橙子「なかなか出てきませんね……」
京太「ならさっさと帰って寝てもいいか?」
橙子「はぁ……、あなたは寝る以外にやることはないのですか?」
京太「そんなこと言われたって、それしかねぇし……つーかさ。独断で調べるつってもよ、そいつらに見つかったらもともこもないだろ?」
橙子「大丈夫。もし危なくなったらあなたを囮に使ってでも逃げるつもりだから」
京太「それが俺を連れてきた理由かよ…。最低なもんだな」
コイツには人間としての心がないのか?と思わざるにはいられないカミングアウトだった。
と、そんな感じで適当に駄弁っていると……。曲がり角のところで、俺にとって会いたくない奴が目の前に現れた。
阿久戸「…あっ?」
京太「…ん?」
お互いに、そんな声を出して……。
そして……。
阿久戸「てめぇ!なんでここにいやがるFクラス共!?」
京太「悪いか居て?」
橙子「そっちこそ、何故ここにいるのですか?」
と質問を質問で返す橙子。さすがは橙子、男勝りな女である。
阿久戸「俺はただ、今問題になってる事件を解決しようとだな」
とそいつがそう言いかけたその瞬間だった。俺たちの目の前から、見たこともない緑のフードを被ったコートの男がこちらにゆっくりと近づいてきた。
??「これはこれは〜…。実に良い素材が集まっているではないですか……」
京太「素材?」
突然、そんなおかしな事を言い出す謎の男の発言に、俺は小首を傾げながらそう言った。
??「えぇそうですよ。素材です……」
男がそう言い終わった刹那、一瞬にして辺りが真っ黒い空間に変わった。この空間は間違いない…。あの時俺が体験したものと同じだ。ということはだ、コイツが全ての元凶だということが窺えた。
阿久戸「なっなんだこりゃー!?」
橙子「なにこれ!?」
二人は初めてのことなので、酷く困惑した様子だった。だが俺は、一度体験済みどころか初見でも一切驚いていなかったために、何一つとして驚かなかった。それよりも俺は、あの緑のフードの男の方が気になっていた。
??「自己紹介をしておこう。俺様の名前はインパクターだ。爆発を起こす能力を持ってる」
と男は何が目的なのか、自らの手の内を明かしてきた。俺には少しだけ、それの意味がわからなかった。
阿久戸「ここは任せて、後輩どもは先に行け!強ーい先輩である俺が、強者の凄さを見せてやるからよっ!」
阿久戸は勝てる見込みでもあるのか、そう強く意気込んで俺たちに背中を向けた。
橙子「阿久戸さん……」
インパクター「俺とやろうと言うのですか?…いいでしょう、相手になりますよ!」
阿久戸「ほら、早く行け!」
橙子「はっはい!ほら行くよ京太!」
京太「えっ、おう……」
そう言われ、俺は渋々彼女について行った。あの男について考えながら……。
それからだいぶこの空間を歩き続けてみたが、一向に出口が見えなかった。それどころか壁に突き当たることすらなかった。
橙子「どうして一向に辿り着けないのよ!」
インパクター「決まってるだろ?ここがそういう空間だからだよ」
瞬間、背後からあの男の声が聞こえてきた。俺たちはゆっくりと後ろを振り向き、その男の姿を視認した。すると
橙子「阿久戸さん!?」
ぼろぼろになった阿久戸が奴の手に握られていた。
インパクター「この男、たしかになかなかに強い力の持ち主ではあったが、そこまで期待はできなかったな」
男はそう言いながら、その男を俺たちの方へと乱雑に放り投げた。橙子は、急いで阿久戸の方へと向かい、息があるかどうかを確認した。
橙子「よかった、まだ息はあるみたいね」
胸を撫で下ろしながら、彼女はそう言った。
インパクター「当たり前だろ、遊ぶには生きてもらわないと困るからな」
男は聞こえていたのか、彼女の言葉を返すように言った。遊ぶということは、奴にとって俺たちとの戦いは暇を潰すための遊びに過ぎないということなのだろうか?だが、どっちであろうが俺にはどうでもよかった。
それよりも俺は、いち早くコイツと……。
橙子「これ以上逃げても仕方ない、京太は阿久戸さんを連れて逃げて!」
そんなの無理に決まってるのに何を言ってるのだろうかこの女は?それが不可能であるとちゃんと理解しているのだろうか?それにまず、なんで最弱である俺を助けようと思ったのかが全然理解できなかった。
橙子「早く行きなさい京太!!貴方は居ても邪魔なだけなんだから!」
京太「おっおう……?」
そう大声で叫ぶ彼女に俺は唖然としながら、とりあえず言われた通りにそれに従った。
阿久戸を担ぎながらさらに奥へと進んでみたが、案の定どこにも出口はなくて、いつの間にか奴がここまで辿りついていた。
インパクター「手間掛けさせやがってこの女……。まさか時止めの力を持っているとは思わなかったぞ、だがあと一歩力及ばずだったけどな!」
男はそう言いながら、俺の方に向けてその女をこちらに放り投げた。彼女の口からは、微かに荒い呼吸の音がしていた。それを聞いた俺は、どうやら彼女も一時的に生かされたのだと理解した。俺はゆっくりと担いでいた阿久戸を床に寝かせて、前に出る。
インパクター「お前のことは一応知ってるぜ。たしか……、最弱の能力者だったよな?」
そう言われていることに間違いはないので、俺はその男の言うことに首肯する。
インパクター「弱いとわかっているやつと遊ぶのは実に嫌だな………そうだ〜。クククっ、それだったら…」
男は狂ったような笑みを浮かべながら、俺の方に放り投げた女へと再度手を伸ばし、その胸ぐらを掴みながらこう告げた。
インパクター「コイツを殺して、アンタの絶望の顔でも拝もうかね…?」
そう言って男は、その拳にバチバチとした音を立てさせる。多分、あの拳に触れた瞬間、彼女はきっと爆発にやられて死んでしまうだろう。別に俺はそれで構わないと思っていた。なんせ、いつもうるさくてうざかったアイツがいなくなるのだ。せいぜいするというものだ。だがそれをしてしまうと、色々と疑問が残ってしまう。何故、最弱と言われている俺を守ろうとしたのか?何故、勝てもしない相手に勝負を挑もうとしたのか?その真意が聞けなくなってしまう。
だから俺は、アイツとの距離を一瞬にしてゼロにして、その手を掴みながら言った。
京太「その手を離せ」
……と。
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