第二十七話 Zero Afailure
革命軍の隊員から、少女が目覚めたという話を聞き、俺と灯嶺は急足でその子が寝ていたという部屋に向かっていた。
京太「随分と長い通路だな?」
灯嶺「仕方ないだろう、なんせベッドルームは一階にあるんだから、応接室があった四階から遠いのよ。それに、たくさんの部下が安心して快適に眠れる場所じゃないとダメでしょ?でないと、これから起きるであろう戦争で、許容できるかも怪しいからね……」
最後の言葉が引っかかったが、とりあえず気にしないことにした。
京太「………??まあいい。それで、あとどれぐらい歩けば着けるんだ?」
灯嶺「軽く一つ質問できるぐらいには時間があるわよ」
まるで、まだ俺に何か聞きたいことがあるみたいな言い方で、俺は少し引っ掛かりを覚えた。そして、案の定そいつは俺に設問を投げかけたのだった。
灯嶺「敵組織からのスパイだと聞いた白崎美織という女だが……。実は私たちがその子を今保護していてね。一週間近く意識が無い状態なの」
京太「へー、最近学校に来ないなとは思ったけど……」
まあ、意識が無いという時点で、俺はもう大体の予想がついた。多分アイツは、妹がいたからスパイをやってたわけじゃない。きっと……、最初は敵組織を騙すために学校側からのスパイとして敵組織に入っていたんだ。
だが、そこに予想外にも遥香が何故かいて、敵組織の誰かに人質だと言われたから……今まで組織を逆らう事ができずに、奴らの言う事を聞いていた。学校側にはそれとなく黙認してやっていたんだろうな。
灯嶺「それでなんだけど、彼女にはもしや妹がいるんじゃないかしら?」
京太「ん?まあ、確かに遥香って言う妹がアイツにはいるけど……それがどうかしたのか?」
灯嶺「………そう。やっぱり」
京太「やっぱり…」
灯嶺「いや、別に……何かあるとかそう言うんじゃないの。単純にそう思っただけよ」
京太「お前お得意の“勘”ってやつか?」
灯嶺「まあ……、そうね」
そんな歯切れの悪い解答が返ってきたが、俺は気にせずこの話を終わらすことにした。どうやらそろそろみたいだし……な。
彼女がとある白い扉の前に立つと、ノックを3回鳴らしてから、向こう側に声をかけてゆっくりとその扉を開けた。
田中「灯嶺殿、お待ちしてました」
灯嶺「ご苦労ね田中」
そうして俺たちは、ついにその少女と、対話を交わす時が来たのだった。
??『アキラちゃーん!誰か来たんですか?』
灯嶺「……え?」
京太「……は??」
京太(僕)『……へ???』
思わず中のこいつも素っ頓狂な声を上げた。それほどまでに、彼女の平和ボケしたような口調に俺たちは驚いてしまった。
田中『あ、あの……?アフェリアさん?』
??「あっ!アキラちゃん!また苗字呼びになってますよ!さっきみたいに、レイって呼んで下さい!」
灯嶺「地下室に閉じ込められていた割には、なんだか楽観的な子ね」
と、灯嶺が呟く。
にしても……。随分と綺麗な肌をしてるな。
俺はレイという女の事をじっと見て観察しながら、そんな事を思った。彼女の格好は決して綺麗な姿とは言えなかった。服は所々穴の空いたグレーのキャミソールと、膝丈ほどしかない短い黒のスカートを履いていた。首にはチョーカーが巻かれており、そのチョーカーの紐から赤いクリスタルが吊るされている。キャミソールから見える豊満な胸やスタイルからは、客観的に見て魅力的なスタイルをしていた。
俺でなければそこにしか目がいかなかったことだろう。
『僕はちょっとあの姿は見ていられないよ!なんてはしたないんだ!?べっべべべべ別に赤くしてるわけじゃないからな!!』
京太「見えないだからバレやしねぇよ。黙ってろ」
灯嶺「なにボソボソと喋ってるの、気になる事があるなら言いなさいよ」
京太「いや、こっちの話だ」
灯嶺「……中身のアンタが何か言ってた?」
その勘のいい質問に、俺は頷いて返す。
レイ?『あの……、今更かもしれませんけど。ここってどこなんですか?』
灯嶺「ここは、私たち革命軍の本部アジトよ。それで、あなたの名前は?」
レイ『私は、レイ・アフェリアと言います。気軽にレイと呼んでください』
彼女はそう言って、屈託のない笑顔を向ける。地下室に居たぐらいだから、何かとんでもないことをされていたのだろうと思っていたが……どうにも彼女の反応からしてそういう感じには見えなかった。
灯嶺「レイね、わかったわ……。じゃあ、早速聞きたいのだけど……って、あれ?私さっき何考えてたっけ??」
急にそんな事を言った灯嶺に、レイ以外の人が一斉にそれに反応した。僕もその発言に、なにやら違和感を感じた。どういう事だと考えていると……その原因は簡単に見つかった。
レイ『あっ!もしかして私、何かやってしまいましたか?』
その女の発言に、俺は誰よりも早く疑問を投げかけた。
京太「お前、さっき何をしたんだ?」
変にはぐらかされるよりも前に、これを聞く必要があると考えた俺は、そいつにそう質問した。
レイ『はい!私の能力です。この能力はですね、相手の感情や思考を操ったり、相手の心を読むことができる【感情操作】の能力なんです。ただ、まだこの能力の扱いにちゃんと慣れてなくて、寝ぼけていたりすると、よくこんな感じで暴発しちゃうんです』
意外にも躊躇いもなくそれを答える女。あまりにも素直な奴すぎて、俺の頭は少し困惑していた。
灯嶺「慣れてないとはどういうことなの?制御の練習とかがあったのかしら?」
レイ『最近行うようにしてるんです。ここ最近は物騒な噂を耳にするので、自衛用に制御しようと思い立ったんです』
灯嶺「その噂を誰から聞いたの?」
レイ『お父様の部下からです』
京太「……部下?」
レイ『はい!』
どこかの闇会社が娘をあそこで管理していたとでもいうのかと、考えていると……。次の瞬間。彼女はとんでもない事を口にしたのだった。
レイ『あなた方がよく知っているコートを着た人たちの事です』
灯嶺「……っ!?!?」
その瞬間、その場の空気が一瞬にして凍り付いた。彼女の発言が、敵組織のことをよく知っているような感じだったからだ。
灯嶺「………どうして……アンタはあそこにいたわけ……?」
灯嶺の雰囲気が変わり、ピリピリとした何かがこの空間を支配する。レイはそんなこともつゆ知らず、なぜかこの状況下で首を傾げていた。
レイ『あの……もしかして怒っていますか?何か気に触るような事を言ってしまいましたか?』
灯嶺「私のこの顔を見て、あなたが今どういう状況で、あなたに対してどう思っている顔なのか?わからない……?」
レイ『あの……』
すると、灯嶺の声色と感情の読み取りで把握したのか……。女は手を上げて申し訳なさそうに答えた。
レイ『すみません、わからないです。私、目が見えてないので……人がどのような顔で私を見ているのかわからないんです』
灯嶺「……そう?私の目には、あなたが両目をちゃんと開いてるように見えるけど」
灯嶺がそう言った瞬間。
灯嶺「ちょっと何よ!?急に周りが真っ暗に……!?早く、ブレーカーを!?」
と、急に灯嶺がなにやら戸惑った表情をしながら、挙動不審に手を前に出してウロウロとし出した。
京太「何言ってんだお前?ちゃんと電気はついてるぞ??」
急にIQがダダ下がりしたのだろうかと思っていると……。周りの灯嶺の部下たちが、彼女の突然の奇行に皆がそれぞれ動揺する。すると、女が話し始める。
レイ『驚かしてすみません、灯嶺さん、まことに勝手ながら、あなたと私の視界を入れ替えさせていただきました』
『詳しく言えば、今私が見ている視界は、灯嶺さんが見ているもので、今灯嶺さんが見ているものは、私の視界というわけです』
『と言っても、あくまで一時的な交換なので、私は灯嶺さんが見ていた景色を見ているだけなのですけどね』
京太「なるほど……。そんなこともできるんだな」
レイ『では、わかってもらえたところで、視界を戻しますね』
そう話してる間に、灯嶺は視界が戻ったのか。さっきまでの落ち着きを取り戻した。女が盲目であることがわかり、ピリついた空気も少しは落ち着いたようだった。
灯嶺「……ごめんなさいね。私としたことが、取り乱してしまったわ」
レイ『いえ、いいんです。敵組織と敵対する革命軍側からしたら、その組織と関係を持つ者だと言ったら警戒しますもんね。仕方ないことです。確かに、両目はちゃんと開いていますけど。目としての機能は全て喪失している状態ですので、治すこともここから良くなることもない目なんです』
田中「どうしてそうなったんですか?」
そこで、ずっと黙っていた田中という奴がレイにそんな事を聞いた。女は、特に気にしていない様子で躊躇いもなく喋った。
レイ『実は、この目は生まれつきでして、生まれた時から世界をまともに見れていないんです』
つまりは、障害者……ということか。このご時世に珍しい……と、失礼ながらもそう思ってしまった。
田中「そう、だったのか……」
空気が気まずくなり、沈黙の時間だけが過ぎていく。だが、俺はそんなのお構いなしに話を切り出した。
京太「それにしても……。よく躊躇いもなく自分は敵側と関係を持ってるなんて言えたものだな」
レイ『言っておいた方がいいかなと思ったので。……それに、嘘は吐きたくない性格ですので』
京太「そうか」
レイ『そういえば、みなさんはお父様の組織と敵対しているんですよね?なら灯嶺さん、私も革命軍の仲間にしてもらえませんか?私もお父様たちのしていることはダメだと思っていたので。お父様の計画を止めたいです』
そうお願いしてくる女は、とても真剣な表情を浮かべていた。それにどう返答するのかと思った俺は、灯嶺の方に視線を向けた。
すると、灯嶺はレイに思いがけない事を口にした。
灯嶺「少し前から違和感を持っていたのだけど……あなた、本当に何者なの?」
その謎の質問に、俺はどういう意味なのかわからず、灯嶺の方を向きながら首を傾げた。
レイ『あれ、もしかして気づきました?』
灯嶺「まあね。あなたの雰囲気とかを見て、なんとなく勘でそう思ったの。まだなにか私たちに隠してる事、あるんじゃないの。それが言えたなら、私たちの仲間にしてあげてもいいわ」
レイ『………そうですね』
そうして、少し深呼吸をしてから話し始めた彼女の口から、俺たちはとんでもないことを聞かされることになる。
レイ『実はわたし……』
と、一拍を置いて。
レイ『……クローンなんです』
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