第二話 これが俺だ
??「あなた……」
京太「…なんだよ?」
そうして目の前の紫の女は、俺が予期していなかったことを口にした。
??「この失踪事件に関与している人間ですね!」
京太「…………はっ??」
突然、まじで意味のわからないことを言ってくる女に、俺は思わず唖然とした。
京太「お前何言ってんだ?俺は被害者側なんだが?」
??「騙されないぞ!あんな化け物達をほんの数分で倒せるわけがない!Aクラスでも最低二十分はかかっているはずなんだ!それをお前は、ものの数分で終わらせた!!」
京太「まるで、実際一度被害に遭ったような言い方をするんだな……」
??「実際被害に遭っているからね、経験済みなのよ!」
京太「…はいはい。まあひとまず落ち着いて話を聞けよ…。聞いたことはあるだろ、Fクラスの最弱……?」
??「?……あるけれどそれがどうした?」
京太「俺はその有名な最弱能力者だよ。そんな俺があの大勢の人外達に勝てると思うか?」
??「くっ……、たしかに一理ある……。なら、お前はどうやってあそこから出た?」
京太「俺の連れが身を挺して戦ってくれて、最後の奴と相打ちになって死んだ。あの空間で死んだ人間は、この世界に戻ってこないみたいだ」
と適当な嘘をついて誤魔化す。
信じてくれるとは思ってはいないが、ものは試しにそう言ってみた。それに、こんな奴と戦うなんてめんどくさくてならないしな。
そして、紫の髪の女は、顎に手を置いて少しだけ考え込んだあと、こう告げた。
??「……わかった、お前のその言葉を信じよう」
京太「……そっそうか…」
案外すんなりと信じてもらえたことに、心中で呆気に取られながら、俺は平静を装った。
??「そうだ……、同じ学校の者なら自己紹介をしておこう。私はAクラスの白崎美織と言う者だ。名前だけでも覚えていただきたい」
京太「あー、覚えてたらそう呼ぶよ」
美織「因みに君の名前は?ほら、君のことなんて呼べばいいかわからないからさ?」
俺は少し悩んだあと、口を開く。
京太「黒宮京太だ、京太でいい」
美織「そうか、京太君だな。さて….これ以上ここに居ればまたさっきのと対峙することになるだろう。そうなれば、流石の私でも二回戦目は無理だ」
まあ、俺一人ならなんら問題ないのだがな、と心の中だけでそう思っておく。
美織「とりあえずもう帰ろう。先生達やプロの人たちに見つかると面倒にもなるしな」
京太「………まあそうだな〜」
彼女の意見はもっともなので、俺はそれに賛成の意を示した返事を返す。そうして、俺は美織という奴と共に、学校を目指して帰路を辿ったのだった。
□□□
京太「なあ、アンタはなんでそんなとこにいたんだ?」
少し歩いた後。ふとそんなことが気になった俺は、とりあえず彼女にそう聞いてみた。
美織「何故って、一刻も早く解決して、みんなを安心させてやりたかったからだよ!」
京太「そしたら、あの空間に突然飛ばされてなんとか全員倒したってわけか……」
美織「まあ、そういうことになるね。君は、何故連れと一緒にこんなところに?」
京太「まあ……、好奇心って奴かな?」
それっぽいことを言ってみる。
美織「君の連れは君を守るために死んでしまったんだね。お気の毒だよ……。好奇心は猫をも殺すと言うが、まさかこんなところでそれが起きてしまうとは……。君ももう、これ以上学校の外には出ないようにな!」
京太「は〜い」
ま、本当は誰も死んでないけど。
美織「と、どうやら着いたようだな」
気づけば、俺のクラスの寮の前まで来ていた。ただ少し話し込んでいただけだというのに、時間が過ぎるのはあっという間である。
美織「あとはこっそり部屋に戻ればいいだけの話ですね。……それでは頑張ってください」
とそう言い残した彼女は、颯爽とこの場から走り去って行った。
京太「さて、俺も早く寝るとするかな……」
と彼女の後ろ姿を横目に、俺はそう呟きながら、自分の部屋の窓へと静かにジャンプして、前もって空けておいた窓を開けて自分の部屋へと戻ったのであった。
□□□
時刻はちょうど深夜二時。
そんな時間だと言うのに、ある女はどうやら俺が来るまで意味もなく待ってくれていたようだ。
橙子「京太!あなたこんな時間までどこに行ってたのよ!しかも、窓から入ってきて!」
京太「…なんでお前がここにいんだよ。ここは俺の部屋だぞ、とっとと出て行けよ」
俺はめんどくさそうな顔をしながら、彼女に向かってそう言った。
橙子「はぁ〜!アンタのために、わざわざ先生の目を騙してあなたがここにいない事を悟られないように頑張ったって言うのに!」
京太「別に頼んだ覚えはねぇ」
橙子「それでもよ!少しは私に感謝して欲しいくらいだわ!」
京太「はいはい、アリガトウー。ほら言った、さっさと帰んな」
そう俺はあしらいながら言った。
橙子「気持ちがこもってなさ過ぎでしょ!あ〜〜ーもうっ!」
すると、彼女はもっと不機嫌になり何も言わずこの部屋を出て行った。
やっとうるさいのがどっか行った。解放されたからか、一気にドッと疲れが押し寄せてきた。彼女の相手をしていると、だいたいいつもこんな感じになる。橙子とは、ここに来てからの付き合いだが、俺たちがここに来たのはちょうど十八の時だ。そして今は十九なのでちょうど一年間の付き合いとなる。俺とあいつは、関わるようになってからずっとこのやりとりを繰り返している。どうしてあそこまであいつが俺に突っかかってくるのか意味不明だが、そんなことに俺は興味がないので、どうでもよかった。
京太「なんであいつのこと考えなきゃならねえんだ?……寝よ」
そうして俺は頭の中を空っぽにして、ベッドへと寝込み、そうして深い眠りにつくのだった。
□□□
次の日、またもや新しい行方不明者が現れたそうだ。今度はBクラスの能力者が急にいなくなったようだ。どうやら、こっそり抜け出していたところを捕まってしまったようだと先生達は行っていた。このままではだんだんと被害が出るだけだと言うのに、先生達もプロの人たちも無能だね〜……。
俺は呆然と空を見上げながら屋上で日向ぼっこをしていた。因みに、今は絶賛授業中なのだが、トイレに行くという言い分でこっそりここに来ていた。
京太「晴れた日の日向ぼっこはいいな。何も考えなくていいし、つまらない授業を受けるよりかはよっぽどましだ」
とそんな独り言を呟いていると……。
橙子「やっぱりここにいたのねサボり魔」
突然橙子が、俺の見上げている空を顔などで阻害してきた。正直邪魔なので別のところに移動しようとも思ったのだが、めんどくさくなったので即座にそれを諦めた。
京太「邪魔だぞ」
橙子「邪魔してんのよ」
一向に退く気のない彼女の顔を見ながら、俺はある方法を思いついてしまった。
京太「別に邪魔してれば?」
橙子「はぁ〜…!」
京太「お前のパンツを眺められるしな?」
橙子「…っ!?!?」
と俺がそう言った途端、橙子はスカートを抑えながらすぐに俺から距離を離した。その反応が面白かった俺は、そこでついつい大笑いをしてしまった。
京太「がっはははは、ふひひひ〜〜!!なんだその反応〜、嘘で言ったのにさ!鵜呑みにしすぎだろ〜!」
橙子「………殺すぞ?」
京太「おっと、やばい」
橙子の口からそう呟かれた瞬間、彼女の顔が一瞬にして殺気に満ちた恐ろしい顔に変貌した。
ここで説明しよう。彼女の能力は「時を止める能力」で、その名の通り一定時間のあいだだけ時間を止めることができるチート的な能力だ。ただし、止まっている間に、敵を刺したりすることはできないが、何かをぶつけて時が進んだ時に、そのダメージ与えるということができるらしい。
京太「よし!逃げるか」
橙子「逃がすかーー!!」
京太「うおっと……」
残念ながら、俺には「未来を見る能力」があるため、時が止まっている中でも、彼女がどう動くのか俺には手に取るようにわかってしまう。こんな事をしてるから、彼女の能力値は地道に上がるわけなのだが、それがどうしたって話になる。結局はまだ同じ落ちこぼれのFクラスなのだ。殆どの奴らが諦めてる中、こいつだけは諦めないのだ。本当に、クソ真面目な女だよな。
□□□
京太「そんなに殴ることないじゃないか?それに、もう何度も謝っただろ?」
俺は今、橙子に捕まり拘束状態で説教を受けていた。
彼女の説教はまあまあ長い。校長先生の言葉よりかは幾分かマシだろうが、それくらい長かった。
橙子「はぁ……。アンタ頭痛くないの?」
京太「そりゃあ痛えさ。なんせ頭に三段たんこぶができてるんだからな」
捕まった最初、俺は時が止まった中で彼女に何度も尖った物で叩かれたために、頭にたんこぶが三つも揃って生えていた。もはや団子三兄弟のようにそれは繋がっていた。
橙子「あれだけ血が出るくらい叩いたって言うのに、どうしてたんこぶだけで済むのやら……」
やれやれといった感じで、ため息をつく。
京太「まっ、そういう体だからな…、何とも言えん……」
橙子「それだけじゃ済まないでしょ」
呆れたような目をこちらに向けながら、また再度ため息をつく。まったく、吐きたいのはこっちだよ。それからまた説教を受けてから、俺はようやくそこから解放されたのだった。
俺は今、頭に三段たんこぶアイスクリームをそのまま生やしながら寮に向けて足を進めていた。橙子はどうやら、用事があるからと言ってそのままどっか行ってしまった。
京太「にしても、いつもの茶番をしてちょっと怒らせただけなのに……、今日はやけにあいつ諦めが悪かったな〜。お陰で三段(以下略)が生えてきたけどな」
と俺が愚痴を溢していると……。
??「おい、落ちこぼれの底辺!」
突然、聞き覚えのある嫌な男の声が俺の耳に届いた。だが、関わりたくないと思った俺は、その声を無視して去ろうとしてみたが。
??「無視すんなよ最弱。Bクラスの俺に逆らおうとすんじゃねえよ…?」
といつの間にか俺の通る道を通せんぼさせられていた。この男の名前は成龍阿久戸。ゴテゴテのDQNネームを持ったいじめっ子の代表である。
俺はため息混じりに、その男に聞いた。
京太「なんのようですか?」
俺がそう鬱陶しそうに聞くと、阿久戸は……。
阿久戸「なんですかじゃねえだろ!落ちこぼれの無能な最弱の癖に!お前のその態度と変な冷静さはなんなんだよ!まじで気に入らねんだよ!いつもいつもクールに気取りやがって…!弱いくせに強者気取ってんじゃねえぞこのクズがっ!!」
阿久戸は、ガミガミと俺に対しての文句や悪口を連呼してきた。俺はそれに欠伸をしながらつまらなさそうに聞いた。実際つまらないし時間の無駄だった。阿久戸の話が終わったところで、俺はそいつにこう告げてやった。
京太「だからなんだよ?これが俺の普通だ。誰かにイラつかれようが、ウザったられようがこれが俺だ」
阿久戸「……っ!?」
京太「話はもういいか?こっちだって暇じゃねえんだ、もう去らせてもらうよ」
俺はその男の前を通り過ぎようとした時だった。
男は、今まで溜めてきた何かが噴き出したのか、俺にいきなり拳を向けようとしてきた。
阿久戸「このやろーー!」
だが、俺はそれを合気道を使って軽くぶっ飛ばして、気絶させてやった。だいぶ頭に血が上っていたようだし、頭を冷やすにはちょうどいいだろう。
京太「寝てろ、馬鹿が」
俺はその男に向けて言いながら、ここを通り過ぎた。
そうして、やっと自分の寮まで辿り着くことができたのだった。
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