第十一話 戦闘狂と戦闘狂
俺がそう告けたその数秒後の事だった。
目の前の男はいきなり、俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。だが、俺はそれを難なく交わし、次に来る連撃にも予測して反撃を仕掛けた。相手は俺と同じ丸腰だが、戦闘能力がその辺の無能力者……いや、能力者よりも格段に人間離れしていた。確かにこれは、舐めてかかっていい相手ではないようだ。……面白えじゃねえか。
狂羅「……なるほど」
男は何かを理解したかのように呟きながら、そこで一度攻撃の手を止めた。
狂羅「へ〜……最弱と呼ばれている割には、結構やるみたいだな。動きからして戦闘慣れしているし、どう考えたって弱者には見えない」
京太「へー……アンタは他の奴らと違って認めるんだな。ちょっとだけ見直したよ」
「あの人、の部下たちは全員あの爆発野郎みたいな小物ばかりの雑魚の集まりかと思っていたが……案外そういうわけじゃないんだな」
狂羅「爆発……?あぁ〜インパクターのことか……。あいつとはよくいろんな事を話したもんだな〜まさか死んじまうとわ、悲しいね〜……」
と演技だとわかりやすいくらいに悲しそうなフリをする男。
京太「なに心にもない事言ってんだよ。俯いてるだけで、全然悲しんでないじゃないか」
狂羅「……バレちった?」
男はヘラヘラと笑みを浮かべながら……。
狂羅「まあ、わざとやったからね。それに、あんな奴のこと悲しむ価値もないね。あれは負けたあいつが悪いんだからな……つまり、悪いのは全部弱かったアイツが悪いわけ」
「まぁ、アイツの行動には目に余るものがあったし……それに、アイツは自分が一番可愛くて仕方ない人間だからな。だから俺たちの事も平気で裏切れる。だからスカッとしたんだ〜……お前がアイツを始末してくれてよ」
京太「まさか、聞かれてたのか?」
狂羅「ありゃ知らなかった……?この空間で起きたことは全て俺らに筒抜けなんだぜ?だから俺は全て知ってんだ……お前が本当は強者である事をな……」
京太「という事は……今こうして話してる内容も全て」
狂羅「御名答!筒抜けなわけだよ」
なるほど、つまり俺もここではあまり自分の手の内を明かせないというわけか……だが、残念だったな。だって俺は、元々本気を出すつもりなんてないのだから……。
……瞬間。俺はその場で力強く地を蹴り、その男との距離を一瞬で縮めて、先に攻撃を仕掛けた。ただし、これはさっきのよりも格が違う。だって、俺はさっきよりも力を出しているのだから……。
狂羅「っ!?…さっきよりも早い……」
流石に反応できなかったのか、そいつはもろに俺の攻撃を受けた。少しだけ痛そうに受けた場所をさする。どうやら、やっとこいつにダメージを負わせる事が出来たようだ。
狂羅「やっぱり力を隠していやがったか。だけどよ……まだこんなもんじゃねぇだろ……なぁー!?」
とそいつは叫びながら、同時に俺に攻撃を仕掛ける。だが、俺はそいつの動きや攻撃を能力を使いながら避けていく。俺が見れる未来はたったの十秒、そこまでしか見ることができないが、こいつの攻撃を避けるだけなら充分な時間だった。
狂羅「全部避けるとは、さすがだな。じゃあこんなのはどうだー!」
そいつが拳に何かを込める。
何をするつもりなのかと俺が不振がっていると……。
狂羅「俺の中にある気質を拳に込めた一撃……これをお前は受け切れる事ができるかな」
男がそう言い終えた瞬間。そいつはとんでもないスピードで俺の目の前へと移動して、その気質を纏った拳を俺に向けて力強く放った。俺はそれを、試しに受けてやった。すると、俺の体は勢いよく吹っ飛んだ。
京太「クッ!……割と飛ぶな」
そう呑気に呟きながら、空中で体を捻ってそこで勢いを止める。だいぶ遠くまで飛ばされてしまったようだが……。俺はそんなことよりも別の事を考えていた。
京太「気質ねぇ〜……俺にも使えるのかな?」
使えるかどうかはよくわからないが、あの無能力者でも使えるものだったのだ。同じ人間である俺が使えないはずがないのだ。だから、俺はここで神経を研ぎ澄ませてみるのだった。
□□□狂羅視点
俺はアイツが吹っ飛んだ方向へとゆっくりとした足取りで向かっていた。アイツはいったいどこまで飛んで行ったのか、他にどんな秘策や力を隠しているのか、俺の頭の中はそれの事でいっぱいだった。
やがて、俺はその男の元へとたどり着いて……。
狂羅「よう、だいぶ無事そうだな」
……と、言った。
だが、何故かその男はぼーっと目を閉じながら立ち尽くしていた。何をやっているのだろうと首を傾げていると……やがてその男は目を開いて……。
京太「待ってたぜ狂羅」
とニヤニヤと笑みを浮かべながらそう言った。
狂羅「なんだその顔は……まるで何かを掴んだかのような顔だな?」
と確信めいた発言をしてみる。
京太「それはだな、お前がさっき見せてくれた気質ってものを理解したからだよ」
狂羅「……なに?」
俺はそいつの言っている事の意味がわからなかった……いや、正しく言えば理解はしているのだが、それを短時間でマスター出来たということが、理解できなかった。
京太「どうしたんだ、ありえないって顔をしているようだが……?」
狂羅「……そりゃーこんな顔にもなりたくなるだろ。お前はな、俺が二週間かけてマスターしたその力を、たったの数分で身に付けたというのだぞ。そんなのありえないだろ!」
思わず俺は叫ぶ。ありえない、そんな短時間でそれを身につけられることなど、あってはならないのだ。まず、こいつは本当にそれを会得できたのか?わからない、だから俺は、そいつに直球で聞いてみた。
狂羅「お前……本当にマスターしたのか?」
京太「……さ〜て、どうだろうな?嘘かもしれないし、本当かもしれない……でもそれを判断するのはお前だよ」
とそいつはそう言って上手いことはぐらかした。だが、なんとなく俺はこいつが本当のことを言っているように感じた。そうじゃなきゃ、いきなりあんな事を言ったりはしない。だから俺は、アイツがそれを使ってくるつもりで、気質を全体に行き渡らせて本当の本気を出す。
京太「ほう……もう本気を出すんだな」
そいつは、にこやかに微笑みながら……。
京太「だったら俺も……少しだけ本気でやらないといけないな」
そいつも力を引き出してみせる。そいつの体からは、なんのオーラも出ていなかったが、遠くからでも感じる圧が俺に降りかかってきた。俺はそれが嬉しくて、こんな状況であっても……ついつい笑顔を浮かべてしまっていた。やはり、戦闘狂としての性なのだろう。
狂羅「楽しい……お前と本気でやりあえて俺は本当に嬉しいよ、京太。たとえこれで死んだとしても、俺はお前との勝負を絶対に忘れない」
京太「それは光栄だな、だったら俺もアンタのことを覚えておくよ。だって、無能力者でここまで自分の力でやりあえた奴なんざ一人もいなかったからな」
狂羅「それは嬉しいね、なら悔いの無いように、全力でやろうじゃないか」
「生きるか死ぬかの、最後の戦いを!!」
そうして俺は、そいつに全力の一撃をぶつけるのだった。
□□□橙子視点
私は、あの男の戦いを見届けるために、頑張って彼が飛んで行った方に足を進めていた。まだ体力は回復しきっていないが、どうしてもそれを見届けたかった私は、死に物狂いで歩き続けた。そして、ようやくそこにたどり着いた時には、両者とも構えを取りながら、何やら話し込んでいた。いったい何を話しているのだろうと思っていると……。両者共に、ものすごい音を立てながら動き出した。それはもう、私の目では到底追う事のできない程のスピードの戦いだった。
橙子「なんて……次元の違う戦い」
私はその戦いに唖然とする事しかできなかった。どう考えてもやり合える筈のない戦いに、私は半分近く心が折れそうになっていた。やがて、全体に轟音と衝撃が走る。それは私も吹っ飛びそうなくらいの衝撃波だった。やがて轟音が止むと同時に、視界がだんだんとはっきりとなってきた。
私が、その衝撃の中心に目を向けると、そこには……立っている最弱と、倒れている無能力者が、私の視界にはっきりと映るのだった。
□□□京太視点
俺は、倒れているその男を見ながら、ふぅ〜……と、一息吐いていた。それなりには楽しかったが、まだまだ俺とは程遠い存在だった。もう少し腕を磨いていれば、俺に勝つことも出来たのかもしれないが、まだまだ力不足だった。ただそれだけだったのだ。
京太「じゃあな、狂羅」
そう吐き捨てて、俺がこの場を去ろうとすると……。
狂羅「待て……」
と、声をかけられた。俺は一度そこで足を止めて、その男の方へと再度視線を向ける。
狂羅「何故、トドメを刺さなかった。俺をここで殺せば、組織の兵を減らす事ができただろうに……なぜ俺を殺さなかった」
京太「……同じ戦闘狂なら、なんとなく察しがついてるんじゃないのか」
俺はその男に背中を向けながら……。
京太「お前は強かった、だがもっと強くなれる筈だ。俺は期待してるんだ、お前という人間がどこまで強くなって、俺と同等にやりあえるようになるのか……」
「お前も、どうせまた俺と戦いたいと思ってるんだろ?」
狂羅「ふっ……正解だ。またお前とやり合いたい。だが、今の俺ではお前の真の本気を出させるには少し、いや……大分物足りない」
「だが、今のお前の発言を踏まえると……お前は俺をここで見逃すという事か?イカれてるな」
俺はそいつの顔を見ながら……。
京太「お互い様だろ」
と言ってやった。俺とコイツはそれなりに似ていた。だから、コイツの考えている事は大体理解しているし、そしてコイツも、俺の事を少しは理解していると思っているつもりだ。
狂羅「最後に、聞いてもいいかな?」
京太「……なんだ?」
狂羅「お前はあの時、本当に気質をマスターしたのか?」
その問いの答えに、俺は……。
京太「したさ、でも……使ってないけどな」
と正直にそう返すのだった。
その瞬間。世界が元に戻る。その場に残されたのは俺と橙子のみで、狂羅はいつの間にか姿を消していた。もしかすると、あの空間内はアイツらの移動手段に近いものなのかも知れないと、俺はふとそんな予想を立てるのだった。
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