307.終幕
エピローグ的に。1話。
パテック王国王都。夏の暑い日差しの中、送風の魔道具がゆっくりと部屋に風を送っている。部屋は寝室のようで大きめのベッドの上に1人の老人が今にもその人生を閉じようとしていた。
「なんだろうな、この不公平感は……」
俺とみつ子、エリシアさんにハヤト、ソフィアそれと2人のその子供たちが見守る中。老人がつぶやく。
老人の名前は裕也。地球からの転生者だ。それが今長い人生の旅路を終えようとしていた。
「ああ、なんていうか。まあ。人が寿命を全うできたっていうのは良いことだと思うぞ」
「……まあな。だが、俺だけが1人老いていくのはちょっぴり思うところはあるぞ?」
「そう言うなよ、終わりの見えない旅路だってそう楽なもんじゃねえよ」
「そうだな……お前らはこれからだいぶ苦労しそうだしな」
「ホント……人生に飽きそうでため息が出るわ。エルフみたいに元々の長寿脳をしているわけじゃないしな」
「ふふふ。そうね。でも私達エルフは長寿の分。貴男みたいに情熱的な人生を送ることは難しいのよ」
「エリシア……今までありがとうな。楽しかった」
「私もよ。愛してるわ」
死にかけのジジイとまだまだ現役感バリバリの美女。この違和感のある2人だが、夫婦として100年近くも共に歩んできた。まあ、あとは家族での別れもあるだろう。俺はみつ子に目配せをすると、一緒に部屋から出ていった。
例外中の例外なのだろう。裕也は神から「そろそろ迎えに行く」と言う天啓を受けたらしい。そろそろとか、適当な話だな。放っておけばまだまだ生きれたんじゃねえか?
「最期まで看取らなくてよかったの?」
「まあ、良いだろう。そういうのは家族の仕事だ。それにしてもエルフでもなんでも無いのに130歳とか……あいつも生き過ぎなんだ」
「ふふふ。祝福とレベル補正なのかしらね。過去の勇者だって100歳を超えていたっていうじゃない」
「まあ、そうだけどな……」
リビングに行くと、ハヤトの嫁さんが俺たちにお茶を出してくれる。若いのに気が利く良い子だ。仕事のせいかハヤトは晩婚でやっと少し前に結婚した。彼女はクオーターエルフだとかで、ハーフエルフのハヤトはこのくらいの年齢差がちょうど良いんだなんて言っていた。
「そろそろ行ってあげて、ほら、孫の顔を最後に見せてあげなよ」そう言うと、彼女は頷き、まだ乳飲み子の子供をベッドから抱き上げ裕也の部屋へ向かう。
俺はため息交じりに裕也の部屋を振り返る。この世界に転生してきて裕也に出会えたからこそ生き残れてきたし。楽しくやってこれた。
この転生しての生は、女神が言うには「魂をこの世界の輪廻の中に入れるための慣らし」だという。地球の魂とこの世界の魂では若干質が違うとかで、そのままでは輪廻の中に入れない。そのためにこの世界に魂をなじませる作業が、この転生後の一発目の人生なのだが。
どうやら、ようやく裕也も輪廻の渦に入れる。
これは、喜ばしい事じゃないのかな。
……きっとまた新しい人生で俺と交わるかもしれないしな。
リビングの椅子に腰掛け、俺の目は未だ裕也の寝室の方を向いていた。
みつ子が後ろからそっと俺の首に腕を回す。
「……もっと思いっきり泣いて良いのに……」
「泣いてなんて……」
「私はアナタとずっと一緒にいるから……ね?」
「……ああ」
俺はそっとみつ子の腕に触れる。
そう。みつ子は俺と一緒に。まだまだ生きていかないといけないんだ。
良くわからないが、そう神様に約束したらしいしな。
やがて、寝室から裕也の家族のすすり泣く声が聞こえてきた。
ありがとうございます。
長い話で。ここまでたどり着いた方には感謝しか無いです。
一年半掛けて、書き続けて。嫌になったり。また書いて。
処女作としては満足しております。
1つの神話を元に、なんとなくの展開の構築だけでよくここまで書けたなあとは思いますが。
とりあえずひとまずこの話は締めくくろうかと思います。
正直次章を書くとしたら、このエピローグ。裕也との別れから始めようかななんて考えも有ったのですが。裕也と出会って、裕也と別れる。物語の始まりと終わりにはいい感じなのかもしれないなと。
個人的に小説の外伝とかあまり好きじゃないので。
セカンドストーリー的なものは考えていませんが。いつかそんな機会があれば。
自分としてはこれからは、あまり人から読まれないような、ストレスフルなストーリーも書きたいなとか思っておりまして。なにか機会がありましたらよろしくお願いいします。
最後の思い出に、気に入ってもらえたら評価やレビューなどいただけたら嬉しいです。
現在は、カクヨムをメインに活動しております。
ご興味がありましたらそちらも一度目を通していただけましたら。




