248.王都
おはようございます。
翌朝、例によって寝ているリル様に代わって、エドワールに「昨日は遅くなってしまったがなんの問題もない」と報告する。
きっと、なんか有ったなとは感づいているだろうが、問題なければそれで良いとエドワールも特に突っ込んでくることはなかった。
そこからは特にさしたる問題もなく旅は進む。
一応リル様やエドワールが狙われる可能性があると言う話ではあるが、帰省時にも襲われることは無かったと言うし、街々での問題ごとはその領地の領主にも責任は及ぶ。うちの領地に来たからやっちまえ。と言う話には成らないのかもしれない。
モーザとしては、あの剣聖との戦いの中で、極限集中で俺が吸収した技が気になってしょうが無いようだ。時間が出来るごとに俺に聞いてくる。俺としても体で覚えた感じで、どうやって説明したら良いのか悩んだりもしたが、おそらく槍の使い方にもある程度応用が効きそうな気もする。
そのうち、ミドーやフルリエ達も興味を持ち始めたため、道中実技で教えたり、必死に分かりやすいようにと紙に文章化を試みながら進んでいった。
そしてようやく王都が見えてくる。
王都が作られた龍脈溜りは、やや傾斜のある土地で、山側の高位の場所に王城がある。ゲネブやブントと同じ様に城塞都市の周りは更に外壁で囲まれ人々の居住スペースを広げてあり。その外壁の外には森の中からの川を利用して堀も作られてより安全に暮らせるようにしてある。
魔物からも他国の兵からも攻められることを想定した作りになっているのだろう。特に城壁はおそらくゲネブと変わらない高さを誇り、その街の大きさも、話ではゲネブより大きいと聞く。外から見る分にはゲネブの大きさとの違いはあまり解らないが、そうなのだろう。
「ゲネブの周りは畑とか牧場ばっかりだったけど……王都の城壁周りは大分街になってるなあ」
外壁の高さや周りの門もかなり立派な物が作られており、確かにその中なら龍脈から外れていたとしても魔物に怯えなくても良さそうな気がする。
リル様はハーレーを大きいままにして外周の門を通りたがっていたが、護衛騎士や、エドワールに諭され、ハーレーを降りる。ハーレーはいつものように小さくなって普通の騎獣のフリをして通っていく。
騎獣舎は、ゲネブ公で確保してある場所が有るらしく。ハーレーもそこの一部を借りることにし、いよいよ王都の中に入っていく。とりあえず、城門をくぐるとお役は終了ということらしいが。
「ねえ、ショーゴ。私の友達もハーレーに乗せてあげた――」
「だめです」
「ちょっと。なんでよ!」
「ドラゴンを見栄や遊びで利用しようとすると喰われます」
「へっ?」
「知っていらっしゃいますでしょ? あの山脈の向こうではドラゴン達が巨人と戦っているという神話。ハーレーはまだ子供であの場には出向いてないのですが、神々が作った神獣ドラゴンの子供です。人の欲で利用しようとすることは危険なのです」
「そ……そうね。悪かったわ」
『んあ? おではウメえもの食わせてもらえば幾らでも載せてやるど』
ハーレー……お前は相変わらずだな。リル様の連れてくるのなんてみんな貴族だぞ? 応対する俺たちが面倒マックスなんだよ。
そこで俺は、ハーレーの話をちゃんと聞いている『ふり』をする。
「うんうんなるほど……しかしハーレーはリル様と一緒に旅が出来て楽しかったと言っておりますよ」
「まあ。本当なの???」
「はい。また機会がありましたら一緒に旅をいたしましょう」
適当にハーレーのトークを超訳して伝えると、リル様は乙女のような顔をして、嬉しそうにハーレーを撫でる。モーザが白目を剥いて居るが、まあ。良いじゃないかこのくらいの嘘は。幸せにつながる嘘なんだ。
「そう言えば、モーザは裕也の住まいは解るんだよな?」
「ああ。以前の護衛任務で王都へ来たときに寄らせてもらったからな」
サクラ商事での遠距離の護衛任務は、ハーレーに乗るモーザに任せることが殆どだった。そのため数度だが、王都までの護衛依頼のついでに、モーザには裕也に作ってもらった俺とみつ子の武器や、モーザの槍などを受け取りに行ってもらっている。
それにしても5年以上ぶりか。電話の魔道具のおかげでちょくちょく話はするのだけど、こうして久しぶりに会えると思うと感慨深いな。……エリシアさん。
ゲネブの街では街の一部分に貴族街がありその中に領主の館がある形なのだが、王都では王都の城壁の中の三分の一くらいの場所で区切られてその山側が貴族街、谷側が一般市街と別れている。一般市街の部分の方が傾斜はなだらかで、貴族街の部分の方が傾斜はキツめで意外と暮らしにくそうに感じるのだが、偉い人は上から下を見下ろすことに意味を見出すのかもしれない。城なんて結構上の高い所に建っているため、下からだとよく見える。
それとゲネブは龍脈の街道沿いに北門から入るとそこが中央通りになっているが。王都の場合は、俺達が来た道だと横から王都に入る形になる。中央通りからは、西の海沿いの龍脈に繋がる街道になっていく。例の網の目の様な龍脈の横線みたいなラインだ。
「ユーヤさんの家は王城の反対側の方なんだ。向こうの方に煙が多い感じの区画が分かるか?」
「ん? ……ああ。そうか鍛冶屋とかがまとめられてるのか」
「そうだ。そこに工房と一緒の家がある」
モーザの先導で、俺たちはついていく。
ゾディアックはどうするのかと思ったが「わしゃあ、サクラ商事の社員じゃから」といつの間にか付いてくるつもりらしい。まあ、対剣聖で手伝ってもらった都合上、あまり邪険には出来ないが、すっかりフルリエを手懐けて楽しそうにしてる。
いや、フルリエが手懐けている感じかもしれないが。
みつ子は久しぶりの王都にかなりテンションが上っていた。後で一緒に街を歩く約束はしているが、アルストロメリアのユニオンハウスに行くのはちょっと断っておいた。女性だけのユニオンだしな、女性寮にでも忍び込むような気分になりそうだ。
「ここだ」
モーザに案内された場所は、少し古びて年季の入りまくった工房だった。そう言えば前に引退した鍛冶師の工房を居抜きで入った話を聞いていた。
王都の鍛冶区画は、そこまで広いわけでもなく。希望するものがすべて入れるわけではなく。本格的に鍛冶仕事を志すものは城壁の外の外周部分だったり、周辺の街や村に行くのが普通だということだ。王都内の鍛冶区画には街中の武防具屋から出る武具の修理などに対応したり、日曜の包丁等を作るような鍛冶師が認可制で入っており、そこまでレベルの高い鍛冶師はあまり居ないらしい。
裕也も元々、鍛冶師として王都でやっていくつもりは無かったようだが、裕也は現在の国王の戴冠式に用いる暁天の剣を打った鍛冶師だ。息子のハヤトが王立学院に入学したのと同時に王都入りした裕也に、ピケ伯爵が勿体ないからと空いた工房を抑えてもらったという。
「でも……誰も居ねえな」
工房の入り口には控えめに「裕也」という漢字が書かれており、たしかに裕也の工房だというのは分かるが、鍵もかかり、気配感知を通しても家の中からも人の気配が全くしない。
ううむ。
何処かでかけているのか? こんな広い街で、出会えなかったら色々大変そうじゃないか。
ありがとうございます。
無事に息子が退院してまいりまして、それはそれで元気すぎて大変なのですが。




