人力車の引き語り
人力車に乗るのが夢だった。
ずっと人力車に乗りたいと思ってきた。
そしてついに今日、乗ることが出来る。
胸をバタつかせて、街を見つめる。
すると、あの車体と、あの衣裳に身を包んだ男性がいた。
私は迷うことなく人力車との契約を交わした。
ヤバイ、座席が意外に高すぎる。
ヤバイ、上目遣いでずっとコチラを見てる。
ヤバイ、通行人の目線が全部こっちに向いてる。
ヤバイ、揺れが乗り物酔いの域に達してる。
ヤバイ、思ったよりスピードがはやい。
ヤバイ、静かに優雅に乗れると思っていたのに語りがスゴい。
ヤバイ、早口言葉を延々と喋っているような感じで、異様な空間がここにはある。
ヤバイ、語りの内容が観光案内に絡めた武勇伝ばかりだ。
私は我慢して、平然と乗っていた。
だから、人力車の男性は、私が引いていると気付いていないだろう。
人力車の引き語りに対してのリアクションとして、少し引きが足りなかったかもしれない。