第3話【逡巡】
此処に来た目的はハッキリとしている。
私は立ち直りたい。
未だ頭が意味も無く痛み、
意識がまた朦朧としがちになり、
心はあの日から只管、暗鬱の虜囚だ。
それでも。
私は立ち直りたい。
だから私は知りたくなったのだ。
この心の淀む理由を。
何が私を黒い粘液の池から出られなくしているのかを。
苦痛さえも鈍らせる、絶望の正体を。
私は何を考えている?
私はどう有ろうとしている?
私は何を求めている?
私は、
どう死にたい?
嫌だ。
私は永遠の命が欲しい。
そして宇宙の誕生から死迄の全てをネタに小説を書き続けたい。
何故?
私はモノ書きだからだ。
然れば、何故私はモノ書きなのだ?
私が文章を書く事に、如何様な意味が存在する?
此れを誰が読んでいると謂うのだ?
読んでくれ! 一目見てくれ!
そう頼んで此の方10年は経っただろうが、
今や家族さえ逃げゆく始末だ。
誰が人間の出来損ないの小説ごっこなど好き好んで読もうと謂うのだろう。
当然の結果か。
こうでなければ今頃は、
きっと新潮新人賞の端にも棒にも掛からない事等でなく、
芥川賞にノミネートされても受賞出来ない事辺りで悩んでいたのだから。
才能も無く、
誰も読まず、
読んだ全ての人間が後悔する様な言葉の闇鍋を作り続けて早10年。
今迄に出来た僅かな理解者の全てに見捨てられ続けてきたこの10年。
私は売り物になる文章を書くのに向いていない事は確かだ。
そして、
私は人に見せる文章を書くのにも向いていないのだろう。
こんなもの誰が読む?
自問自答してみたが、答えは見えない。
では、何故こんなものしか書けない?
それはきっと、才能が無かったから。
才能が無いにしても、もう少しマシな……、
人様が読む気になるモノを何故書けない?
……分からない。
だが自分で読んでいても分かる。
読む気になれる文章と謂うのは、
読んでいる内に我に返らされる事や、
読んでいるのが鬱陶しくなる事、
読み返す気の起きなくなる事が、
そもそも無い。
私の文章はその全てに当て填る。
文章に魅力が無いのだ。
読み進めたいと思わせられないのだ。
才能の無く、
努力で補って、
其れを手にする人々もいると謂うのに……。
私の言葉は、全てが空虚。
虚無の言葉の雪達磨だ。
こうして今、死にかけても尚、
生きたいと心から願っても尚、
その叫びに感情が入っていない。
意思が零れ落ちてしまう。
何を言葉にしても、
言葉になったその時既に、
全ての意味を失っている。
独り善がりな、
雑踏で破け散る古チラシ。
何を言葉にしても伝わらない。
私の叫びは豚の鳴き声。
藝術に成り得ない、
死産の未成熟児達。
私の生み出してきたものは全て、
無意味な蛆虫の餌。
……否。
虫も食わない産業廃棄物と謂っても、
誉め言葉になる様な汚泥だ。
才能が無く、
人の心も無く……。
そんな様なバケモノの書き散らしているコレは、
何だ?




