大好き北海道!
よろしくお願いします。
遅い夏休み……既に10月なのだが……を四季と春川は取った。二人は同じ会社の同僚同期カップルだが部署が違うため、休みを合わせるのは容易かった。
二人が向かったのは……北海道!
「秋に北海道行かないなんて、ありえないからー!」
四季のその食いしん坊な一言に、春川はホッとした。誰か会いたい男がいるとかいう理由なら仮病でも何でも使って潰しただろう。
新千歳空港は北海道の海の幸や、有名なお菓子の匂いで溢れかえっていた。
「春ちゃん!空港は帰りに見るの。今日は予定詰まってるんだから、レンタカー屋さんに行くよ!」
今回の旅の企画は札幌勤務歴があり、土地勘のある四季だ。
「ねえ、たった二人なのに何でこんなおっきい車借りたの?それも四駆?」
「だって、結構走るよ。今日は400キロは走るつもり。広いんだよ!北海道は。乗り心地よくないとドライブ楽しくないよ?あ、北海道はどんな軽自動車でも四駆。雪道仕様だから」
「へー。で、四季ちゃんが運転手?」
「うん!全力で接待するし!」
空港横の店舗で手際よくレンタカーを借り、千歳の街を走る。空は澄み渡り、窓を開けると涼しい風が入ってくる。
「やっぱ涼しいなあ!東京と大違い!、あ、日の丸のジャンボ機!デカッ!」
「政府専用機、普段は千歳にいるんだよ!春ちゃん見れてラッキー!あ、あそこ、あの有名なお菓子の本店だよ!でも今日は別のとこ行くー!」
着いた先は手作りのアイスクリーム屋。牧場の脇に素朴な木のベンチが並び、牛を眺めながら、数人の客が食べていた。
「春ちゃん、しっかり食べといて!これが今日の昼ご飯だから」
「はあ?味噌ラーメンじゃないの?」
「味噌ラーメンは札幌の最終日でーす!今日はちまちま寄り道しながら食べたいの!アイスどれにする?私のオススメはトウモロコシとワイン」
「四季ちゃん……スパルタだな……じゃ、それで」
四季はジャガイモとチョコのアイスを食べる。
「春ちゃん、ストップ!はい半分こで交換!トウモロコシ美味しー!あ、こっちではトウキビって言うんだよ」
春川は美味しそうに自分の食べていたアイスをかじる四季に湧き出す幸せを感じたが、同時に半分こなんて、いつもしてたのかとイラっとした。
「四季ちゃん、ここ友達と来てたの?」
「ううん、ここは一人で来てた。地元の人ってこの美味しさに慣れてて感動してくれないんだよ。美味しいよねえ?」
「うん!めっちゃうまい!」
春川はほっと胸をなで下ろす。
小腹が膨れるとドライブに戻る。
「ここねえ、ウトナイ湖!冬は白鳥がいっぱいなの。私こっちに来て初めて見た。あともうすぐ渡り鳥が綺麗に並んで飛ぶんだよ!あんなの日本むかしばなしでしか見たことなかった!」
「ふーん。じゃあ冬も来なきゃな?で、そろそろどこに向かってるか教えてよ?」
四季はニヤリと笑って、ガイドブックを春川に手渡した。
「今日の目的地はー、南の海岸線をずーっと東に向かってーー!襟裳岬経由のぉ!トマムです!」
「はああ?めっちゃ遠いじゃん!」
「ダイジョブダイジョブ!雪ないもん!」
ちょうど苫小牧の市街地を抜けた。
「よーーーし!いっくぞーーー!」
四季が一気にアクセルを踏み込む!
「お、おーう………」
春川はそっと、助手席上の握り手を掴んだ。
四季の北海道あるあるを聞きながら、青い海を眺める。四季の運転は初めてだったが、迷いのない走りっぷりにいつしか緊張も解け、景色を楽しむ余裕ができた。
「はーい、到着!」
「ここどこ?」
「ここはシシャモの街、むかわ!さあ、シシャモ食べにレッツゴー!」
「シシャモ?わざわざ?」
「春ちゃん!期待通りのリアクションありがとう!あのね、春ちゃんの野球のお弁当に入れてるシシャモは実はシシャモではないのだよ!いわゆるカラフトシシャモ、輸入品!」
「な、なんだってえ!四季ー!騙してたのかー!」
「で、ここが本物のシシャモの産地、狙って来たわよシーズンに!春ちゃん、ここのシシャモはオスも美味しいから」
「そっか……そう言われればメスしか食べたことないわ……」
四季のオススメの店でシシャモ料理を堪能。味は思ったより濃くて美味しかったが所詮小さいので、満腹にはならない。
「四季、腹にたまんない……おかわり……」
「北海道でいちいち満腹になってたら先に進めないって!はい!車に戻りまーす!」
「はーい、ガイドさん。」
車に戻り、しばらく走ると、森がひらけ、手入れされた牧場が広がり、美しい馬が走っていた。
「まさか、サラブレッド?」
「そう、すっごい美しいよねえ。芸術品みたい。ちょっと休憩でよろうか?」
四季は見学可という看板のある牧場に車を入れた。観光客慣れしたその牧場は無人ながらも、人参スティックが100円で売ってあり、春川は迷わず貯金箱にお金を入れる。
人参を握った手を振ると、ゆっくりゆっくり柵の向こうの茶色の馬がやってくる。
「ヤバイ!デカイじゃん!口も!手、食べられそう!」
賢い馬は人参しか食べない。
「見て見て、ツヤッツヤ……全力で走ってるとこみたいなあ。」
「じゃあ今度、競馬場行ってみる?」
「そーだね。楽しみ!」
途中途中の道の駅で休憩を挟みながらドライブは進む。
「四季ちゃん、道の駅のスタンプ帳、ほぼ制覇してるじゃん!」
「んー、毎週どっか行ってたしねー。東京と違って電車が網羅してるわけでもないし」
春川は四季の行動力を忘れていた。四季はあの時もさっさと北海道に行ってしまったのだ。
「四季ちゃん、東京でも車買おうか?そして、遠出してみよう?」
「でも駐車場つきの部屋ってあんまりないよね。」
ますます賃貸じゃダメだ、駐車場つきの分譲マンションをさっさと探そうと春川は誓った。
「着いたー!」
襟裳岬!
「じゃあ、どっちが先に先端に着くか?よーいドン!」
四季が笑顔で駆け出した。段差や階段がそこそこあり、四季が躓きやしないかとヒヤヒヤしながら、春川も後ろから走る。
ああ、何をしてもかわいい。こんなのんびりとした(ある意味スパルタだが)健康的な旅が楽しいなんて……結局好きな女と一緒なら何をしても楽しいんだな、と春川は改めて気付く。と言いつつも、一番のお楽しみは今夜のホテルだ!四季との初めての旅行、旅先での一夜は特別なのだ!
「ちょっとお、ゼイゼイ、何で春ちゃん余裕なのお?ゼイゼイ……」
「鍛え方が違う」
石碑のある撮影スポットには誰もいなかった。二人で仲良く写真を撮る。
北の海が水しぶきをあげて勢いよく岬にぶつかっては砕ける。
その様子を四季と二人で覗き込んでいると、四季がギュッと手を握ってきた。
「じゃあ、歌おうか?」
「マジか?」
二人は襟裳岬の代名詞と言われる歌を、歌碑を見ながら大海原に向けて熱唱した!
「ねえねえ、この歌とっても失礼だって、当時襟裳の皆さん怒ったんだって。何もないって何だって!今ではすっかり愛されご当地ソング。」
「四季ちゃんの北海道あるある、死角ないな……」
帰りはのんびりと、二人は手を繋ぎ、駐車場に戻る。
「さあ、これからは一路ホテルへGO!温泉入って、夕ご飯!きっと鮭出るよ!もちろんイクラも!楽しみー!ジャガイモはねえ、インカの目覚めってのが美味しいんだよ!栗みたいなの!蒸したのあるかなあ?それに朝、雲海が見られるの!早起きして行こうね!明日は富良野とか旭川とか道央を攻めるよー!」
「え、明日早起きなの?今朝飛行機早かったからゆっくりしようよー!」
「せっかく天気いいのになーに言ってんの!じゃあしゅっぱーつ!」
◇◇◇
「嘘だろ……」
春川がホテルの温泉から戻ると、愛する四季はかわいい備え付けの寝巻きを着て、ベッドにうつ伏せになりスヤスヤと寝ていた。
「四季、四季ちゃん!起きて!」
「んん……無理……疲れちゃった……おやすみ……」
「マジかよ……うわーあ!」
明日は……無理矢理にでも自分が運転しよう。明日の夜こそイチャイチャする!春川は固く誓った!
お読みいただきありがとうございます!
皆様、地震が落ち着いたら北海道に行きましょう!観光でお金を落とすことこそ地震後の復興につながります!
9/10 歌詞掲載禁止でした。すいません。削除訂正しました。