ショートショート「エリスンの思い出」
黄色い花と赤いバラの咲き誇る、豪華なお屋敷で、
少年は、それらの花の上で行われる、
蝶の交尾を眺めていた。少年は目を見開き、息を荒げ、
その不可思議で美しい絵を食い入るように見つめる。
左右対称の、白と黒とで構成される、1匹の蝶が、
上下に重なり、新たなシンメトリーを形成する、自然の神秘。
少年はそこに、神の意志を見た。
地面には蟻が列をなし、
空には鳥が、獲物を求めて飛び交う。
遠い森で、獣が声を上げている。
いや、獣ではなく人間の声かもしれない。
そしてその何かは、目を光らせ、髭は伸び放題で、
手には猟銃を持っているのかもしれない。
森の中を列車が走り、黒い煙をたなびかせるとき、
何かは線路に立ち、両手を突き上げ絶叫するのだ。
来たるべき世界の崩壊に恐怖しながら。
世界は2つに、そして4つに割れ、
ひらひらとその翼をはためかせ、飛び立とうとする。
少年は、はっと我に返った。
彼があまりに近寄りすぎたために、蝶は飛び去ったのだ。
ふう、と息をついて、重い地面を蹴り立ちあがる。
鳥が騒いでいる。見ると森から、猟銃を持った男が歩いてくる。
男の目は、狂気にぎらぎらとしていた。
<おわり>