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音速チョコレートに運命の相手はいない。  作者: モノクローマー
音速チョコレート、共闘する
34/50

34 「俺が連れ回してやるから」

「はあ? 怪しいって何が?」


突拍子もないハルキの話に、俺は素っ頓狂な声を上げた。ハルキはその俺の反応に、眉間のしわを深くする。


「例の女神の事件だよ。何かの形で関与してるか、何か気付いて黙ってるのか……とにかく、そういう怪しさがあるから」


俺はぽかんと口を開いていたと思う。


アイセンが? さっきまであんなに積極的に、犯人探しをしていたのに?


ありえないだろ、とは思うものの、ハルキの心配を笑い飛ばすのもはばかられて、俺は窺うように訊く。


「ちなみに、そう思った根拠は?」


「女神は犯人がやけに手慣れてたって言ってただろ。十中八九、宮殿内に内通者がいる。俺も官長もアイセンも含めて、官吏は疑いをかけられる状況だ。そのタイミングで、あの怪我。そもそもあの時間に宮殿内にいたってだけでも怪しいんだ。狂言の可能性は十分にある」


「狂言!? あの怪我が?!」


思わず声を跳ねさせると、ハルキは平然と頷いた。


「あの怪我と、裏口から出入りした犯人が陽動かもしれないだろ。警備や宮殿の目をそっちに向けておけば、アイセンは動きやすくなる。実際、今日もおまえを連れてうろついてたみたいだし」


「うがちすぎじゃない?」


俺が半眼で呻くように言うと、ハルキは必死に言い募る。


「おまえ、本当に危機感ないな……! アイセンが主犯だったら、おまえ今日何されてたか、わかったもんじゃ……!」


「だってアイセンさん、官長を怪しいと思ってたみたいだよ」


「何だって?」


意外そうな顔をして訊き返してくるハルキに、俺は説明する。


「官長怪しいかもって話になったとき、アイセンさん覚悟してたような顔してたもん。予想してたの、って訊いたら、明言はしなかったけどそれらしい反応だったし。たぶん、官長が何か企んでるなら止めたいと思ってたんじゃないかな」


「名言しなかったんだろ? 官長を怪しんでるフリかもしれないだろ」


「ええ……? 何でそんなにアイセンさんを疑うんだよ?」


どうあっても、同期の中でも一番仲のいい同僚を犯人にしたいのか。俺がぼやくように言うと、ハルキはちょっと難しい顔をした。


「変に抱えこみやすいのは知ってるし、追いつめられると爆発したときが酷いのも知ってる。運命の相手のことで長年悩んでんのは知ってたから、実際女神に何かしてもおかしくないんじゃないかって」


ハルキが何とも居心地の悪そうな声で言うのを聞いて、俺は小さく吹き出した。


「何だ、ハルキはハルキでアイセンさんが心配なんじゃん」


「心配とか、そんなぬるい感じじゃないんだって。危ない奴なのはわかってるから、今回のことで警戒してんだよ」


まあ、仕事繋がりって言っても仲いいんだろうし。俺が姉ちゃんや友達を心配するのと同じような感じだろう。


ハルキはひとつため息をついて、俺に言った。


「とにかく、これ以上女神の件について嗅ぎまわるなら」


あ、アイセンと一緒にいるなよ、って話だったな。俺がどうやって穏便に済ませようかと思考を巡らせた瞬間、ハルキから予想外の言葉が降ってきた。


「俺が連れ回してやるから」


「――……え?」


全く想定していなかった提案に、間の抜けた顔をさらす。ハルキはいたずらが成功した子供のように笑って、ふふんと得意げに鼻を鳴らす。


「1人で放っておくと、危なっかしいことばっかりするからな。俺の目の届くところで危ないことされてた方が、いくらかマシだ」


俺はハルキが語るのを聞きながら、ぎゅっと拳を握る。そうでもしないと、天下の公道でこの男に抱きつきそうだった。


ハルキは機嫌よさそうに笑う。


「それにしても、おまえの驚いた顔見るのは気分がいいな。いつも俺の方が驚かされっぱなしだし」


「よく言う!」


予想外の反応を返してくるのは、お互い様だ。でも、それが新鮮に映るのかも。


俺はハルキを見上げて、挑むように言う。


「じゃあ早速、頼みたいことがあるんだけど、相棒」


「俺が嫌にならない範囲のことで頼むぜ、相棒」


やけっぱちのようにも聞こえる言い草を無視して、俺はにっこり笑ってみせた。


「女神にもう1回話を聞きにいきたいから、宮殿に入れてよ」


「んん……ッ」


ハルキは呻いて、言葉を詰まらせた。この反応は、「自分が付き合う代わりにアイセンとつるむなと言った手前、露骨に嫌がれないけど、ぶっちゃけ断りたいお願いがきてしまった」ってとこだろう。


俺はにやける頬はそのままに、ぼそりとつぶやく。


「俺、ハルキのそういうわかりやすいとこ好きだよ」


「馬鹿にしてんだろ」


「してない、してない」


胸中の葛藤が見て取れる表情のハルキに、俺はダメ押しすることにした。


「アイセンは一緒に行こうって言ってくれたんだけどなあ」


「絶対に見つかるようなヘマすんなよ……」


「わあい、ハルキ大好き~!」


くそ、と苦々しげにこぼすハルキにぴとりとくっついて、俺は陽気な声を出した。


「じゃあ、行きますか!」


「仕方ねえな……」


アイセンとの約束より早く乗りこんでしまう形になるんだろうけど、仕方ない。ハルキは俺とアイセンが一緒にいてほしくないんだし、夕方にアイセンと約束してると言ったって承服してはくれないだろう。それなら、先にハルキと一緒に女神の間で用事を済ませて、夕方にアイセンに結果報告だけした方が、まだ穏便に済むはずだ。


俺にまんまと乗せられて不満げなハルキの腕を引いて、俺は宮殿の方へ足を向けた。

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