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音速チョコレートに運命の相手はいない。  作者: モノクローマー
音速チョコレート、共闘する
31/50

31 「最初から、そうかもって思ってた?」

うまく言葉にできないまま、見開いた目でゆるゆるとアイセンを見る。アイセンは喉を鳴らしてレモン水を飲み干して、俺を見据えた。


その深い瞳に宿るものが垣間見えて、俺は訊いた。


「もしかして、最初から、そうかもって思ってた?」


自分の上司が、女神の誘拐を考えた犯人の一味かもって。


俺の質問を受けて、アイセンはわずかに目を伏せた。その沈黙が肯定を意味することくらい、俺にだってわかった。


アイセンはゆったりと口を開いて、静かに言う。


「薄々は、そうじゃないかと。できれば、内々に話を終わらせたいとも」


俺が何とも言えずに顔をしかめると、アイセンは口元を引き締めた。


「だとすれば、リク君が忍びこんだ後、急いで鍵を変えなかったことにも説明がつきます。女神盗難を企んでいるんですから、わざわざ今警備を複雑化する必要はないでしょう。ご丁寧に、一番信頼している部下を当直にしていたようですし」


「……もしかして、テセルも官長に指示されて動いてる?」


それなら、官長の周りにいる奴らが官長を慕ってる理由もわかる。逆だ。官長が、狙って自分に信頼を向けさせて、周りをそういう奴で固めてるんだ。


あの官長の振る舞いは、計画的なものなんだろう。俺もすっかりだまされたけど。


俺は唇を軽くかんで、アイセンに言う。


「もし、本当に官長が主犯なら、確実な証拠を押さえないと、止められないよ。今動いてる奴らを捕まえても、官長はしらを切ればいいだけだもん」


「そうですね。現行犯か、あの犯人たちとつながってる証拠を手に入れる必要がありますね。女神盗難には直接関わらなさそうですから、盗んだ後まで追いかければ、現行犯で抑えられそうなんですけど……」


言いながらアイセンは、俺の視線に気付いたらしかった。微苦笑をこぼして、申し訳なさそうな顔を作る。


「身内に対して容赦がないですか?」


「まあね」


やっぱり、知り合いが大変なことをしでかしたってなったら、フォローのひとつやふたつ、入れたくなるもんじゃん? 何か事情があったんだろうとか、普段はそんなことする奴じゃないとか。


情状酌量の余地はあるかも、なんて言いながら、その実アイセンはものすごく冷静に周りを疑ってる。平等で公平かつ、ひいきも肩入れもしない立ち位置で。


「正義感強い方?」


ルール破りや、超えてはいけない一線を越えた奴が許せないタイプなんだろうか? 尋ねると、アイセンは首を横に振った。


「正義という言葉はあまり好きではないんです。立場が変われば、その人にとって正しいことは変わるものですから。強いて言うなら、そうですね……」


アイセンは水滴のついたコップの縁をなぞりながら、口にした。


「信念は強い方、でしょうか。大事な人であればこそ、きちんと現実を直視してほしくて」


ああ、そういうのは、案外大事かも。


アイセンの人となりがやっと腑に落ちて、俺は鷹揚に頷いた。


「女神に官長について訊いてみる?」


「それはいいかもしれませんね。彼女は訊いたことしか答えてくれませんから、犯人の話以外の心当たりを尋ねてみれば、何か知っていることを教えてくれるかも」


レモン水を一口含んだアイセンは、わずかに固い声で言った。


「夕方に出直して、女神の間へ行きましょうか」


そのとき、からんと店の扉の開いた音が響く。店員さんが声をかける間もなく、その人影は大股で店内に踏み入ってきた。普通の雰囲気じゃないその客が気になって入口へ目をやると、そこには見知った顔があった。


目が合った瞬間、そいつは険しい顔つきでこちらへ近寄ってくる。俺の目が釘付けになっていることに気付いたアイセンが、肩越しにそいつを見やる。


俺とアイセンの席まで来たそいつは、地を這うような低い声を出した。


「早退した怪我人が、何だってこいつを連れ回してるんだ、アイセン?」


「やあ、ハルキ」

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