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音速チョコレートに運命の相手はいない。  作者: モノクローマー
音速チョコレート、共闘する
26/50

26 「犯人に食事おごってもらうって発想、ヤバいでしょ」

ハルキもツェルマ官長も知らない、アイセンが女神の間にいた理由。女神だけは何かを知ってる風だったけど、内容はわからないようにぼかしていた。


どうしてあんな夜中に、一度仕事を上がった後にわざわざ出直してまで、女神と話をしに行ったのか。


俺の執拗な視線に堪えかねたように、アイセンは自嘲して話しだす。


「私は運命の人がわかって8年、運命の人と出会ってからもう6年ほどになるんですが、その間ずっと相手とうまくいっていなくて」


「結構長いね」


「はい。私も歩み寄ろうとはしているんですけど、相手は端から私と生きていく気はないみたいで」


「ええ?」


そんなことって、あんの? 女神に教えられた人とは結婚するのが普通だろ? こいつと一生生きていけるのかなって不安に思うことはあっても、はじめから一生一緒にいるつもりはないって思ったりする?


俺の困惑を感じとったのか、アイセンは苦笑した。


「ちょっと驚きますよね。私も初めは、どうして私と対話もしてくれないのか戸惑うばかりで……。私が、思い描いていたような理想の相手じゃなかったから、気持ちの整理がついていないのかもしれないと思って、はじめの数年は待っていたんですよ。多分それがいけなかったんでしょうね。私が気長に構えている間に、相手はどんどん私との間に距離を取っていて」


俺はどんな風に声をかけるのが正解なのかわからなくて、胸に浮かんだありきたりなことを口にした。


「それは、寂しいね」


「ええ、まあ。先日もそれで、話をすることも拒否されてしまって。どうにも話し相手がほしくて、女神のところへ行ったんです」


先日という単語を聞いて、もしかしてと一つの憶測が脳裏をよぎった。だけど、思い直す。誰も彼もが、自分と同じようなことを同じくらい悩んでるわけじゃない。変につついて、昨日女の子を泣かせてしまったばかりだ。下手に深堀りするのはやめよう。


俺は狙って話の方向をずらしていく。


「ハルキとかには相談してないの?」


「職業柄、運命の相手に関しては色んな捉え方をする人たちを見てますから。うちの宮殿内では、本人が自分で話す以外は基本、触れない話題なんです。私はハルキにも同僚にも、話してませんよ」


「そっかあ」


ここにもまた1人、女神にしか心の内を打ち明けられない人間がいた。俺みたいに直訴してやろうとしたり、女の子みたいに泣き喚いたりするのとは違うけど。相談相手のない苦しさは、俺にもわかるよ。


アイセンはさて、と一声かけて立ち止る。つられて足を止めた俺は、辺りに意識を向けた。いつの間にか、広場の端まで横断してきていた。アイセンは俺を見やって、柔和な笑みを浮かべる。


「ついでですから、犯人の侵入経路と思われる裏口の確認もしておきましょうか」


「オッケー、案内するよ」


俺はにやりと笑ってアイセンを促す。案内するも何も、そもそもが何のひねりもない道筋なんだけど。


そのまま宮殿を横目に進む。何の変哲もない外壁に沿って裏へ回るだけだ。アイセンは辺りへ視線を放りながらつぶやいた。


「広場は夜も閉まってますし、この周辺にも明かりはないですよね」


「そうだね。夜になったら暗いと思うよ、この辺」


「特別変わった場所でないとはいえ、あまり暗いと足元もおぼつかなくなりそうですね。身を隠すにはいいでしょうけど、逃走するには辛そうだ」


俺はアイセンの指摘に納得しながら、後ろをついてくる彼を振り返った。


「アイセンさん、さっきから身内を疑うのに容赦がないね」


「そうですか?」


「だって、要は『普段から宮殿周りを歩き慣れている人なら、夜動き回るのも楽そう』って言いたいんでしょ?」


「いやあ、賢い子で助かりますよ、音速チョコレートさん」


「もっと褒めていいよ」


俺が得意げに笑うと、アイセンは楽しそうに笑みをこぼした。


「真面目な話、宮殿関係者や参拝客は情報を得やすいという点において、一番に疑ってかかるべきだと思いますよ」


「広場に頻繁に出入りしてても変に思われないし、手慣れててもおかしくないもんね」


同意を示すと、アイセンはわずかに考えこむようにしてつぶやいた。


「それに、今回の件は未遂です。私が怪我のことを持ち出さなければ、身内のことなら内々に処理できるはずです」


俺はちょっと驚いて、肩越しにアイセンを見やる。


「無罪放免にしてあげんの?」


「情状酌量の余地はあるかも、という話ですよ。もし運命の人のことや、女神のことで追いつめられた誰かが企んだことなら、寄り添ってあげる努力はすべきだと思います」


どこか寂しそうなのに、とんでもなく優しい目をしたアイセンはきっぱりと言い切った。


自分を怪我させた奴なのに。暴力に怯えたわけでも、相手の行動力に屈したわけでもなく、許そうとしているその姿勢に、俺は感嘆した。


「犯人捕まえた後のことは、俺に口出す権利はないから好きにしたらいいけど、アイセンさんは怪我させられた分くらいは請求しなよ?」


「いいですね、食事一回おごってもらうくらいは、請求しましょう」


「いや、犯人に食事おごってもらうって発想、ヤバいでしょ」


普通はパンチ一発か、病院代でしょ。アイセンってちょっとずれてるよね。


呆れ半分に俺がコメントした頃、宮殿の裏手にたどり着いた。


角を曲がろうとした瞬間、人影が見えた気がして、とっさに腕を上げて後退する。足を止めて息を潜めたアイセンの気配を確認して、俺はそうっと先を覗きこんだ。


裏口に、2人。


官長と、見たことのない若い男が1人。あちこち汚れた作業着をまとって、何かを真剣に話し合っている。耳をそばだててみるけど、さすがに会話は聞き取れない。

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