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音速チョコレートに運命の相手はいない。  作者: モノクローマー
音速チョコレート、共闘する
25/50

25 「ポジティブにという意味じゃありませんよ」

「え?」


共同戦線?


意図するところを計りかねて首をかしげると、アイセンは上品に口の端を持ち上げてみせた。


「私も、同僚や部下たちが私のように病院送りにされるのは心苦しいところです。早期解決が望ましいという君の意見には、全面的に賛成します。


幸い、私は今怪我を理由に通常業務を免除されているので、時間だけはありますから」


アイセンが長ったらしく回りくどい口上を述べてる間に、俺の口角も上がってくる。


「時間外手当、出してあげらんないよ?」


「言ったじゃないですか。若い子と喋るのは、いい休憩なんですよ」


俺につられて上がったアイセンの手に、自分の手を叩きつける。いい音が響いて、アイセンが満足そうに笑った。


俺はじんわり手の平から広がる温度を感じながら、改めて口を開く。


「じゃあ早速、遠慮なく訊くけど、犯人ってどんな奴らだった?」


「男が2人に、女性が1人だったと思いますよ。男性の1人は中年くらいでしたが、あとの2人は若い感じがしました。さっきも言いましたが、顔見知りではないですね。少なくとも、宮殿の官吏ではないです」


「他に気付いたことってあった?」


「正直な話をすると、女神を盗もうとする動きが、手慣れていたんですよ」


アイセンは冷静に指摘した。俺は女神の状況説明を思い出す。


「そういえば、女神もそんなこと言ってた」


「機密事項なので詳細は省きますが、女神の間には台座と壁の2ヶ所でロックがかかっています。これについては、女神を盗んだり移動させたりする以外には必要のない情報なので、宮殿の官吏が酒の肴に話すにはつまらないネタでしょう。うっかり他人に喋る情報ではないはずです」


「それを、犯人たちは正確に把握してた?」


アイセンの言わんとするところを察して訊けば、アイセンはひとつ頷いた。


「恐らく、宮殿の官吏に、意図的に情報を流した人間がいます」


そこまで検討がついてるなら、と俺は眉をひそめる。


「アイセンさん、同僚告発することにならない? 大丈夫?」


「背景がわかりませんから、一概に私の立場が悪くなるとは言えませんよ」


「例えば?」


「犯人一味に弱みを握られて脅されている同僚を、助けられるかもしれないってことです」


「超前向き」


「物事をいい方へ解釈する姿勢は、ハルキに習いました」


「マジ?」


俺の知る限り、あいつ後ろ向きなことしか言わねーんだけど。俺の無言の抗議を察したのか、アイセンはゆるゆると首を振った。


「ポジティブにという意味じゃありませんよ。自分に都合のいい方へ解釈するって意味です」


「ああ、納得!」


わかりすぎて首がもげそうなほど頷いた。


俺はアイセンを見上げて、続けて質問する。


「で、当てはあるの?」


「さすがにそこまでは」


「夜の定期チェックって、全員知ってるの? 何時にするとか」


「時間は定時ですから。夜勤の担当も全員確認できますし……」


途中で言葉を止めたアイセンと俺は、同時に同じことに思い至った。


「宮殿内に犯人の一味がいるなら、犯人たちの決行時にも手引きできるよな?」


「直接手引きをしないにしても、トラブル時の保険として、時間稼ぎや人払いはしやすいですよね」


「昨日の夜勤当番は?」


俺の質問に、アイセンはぎゅっと眉根を寄せて答えた。


「テセルという後輩です。ツェルマ官長の信頼の厚い、真面目な奴ですが……」


その名前には聞き覚えがあった。官長に指示されて走っていく姿。泣き崩れた女の子を支える後ろ姿を思い出す。


でも、昨晩は結局犯人と接触したのはアイセンで、テセルの工作はなかったのか。俺ははたりと思考を止めて、アイセンに尋ねる。


「アイセンは昨日、テセルとは会わなかったの?」


「会いませんでした。時間外に私を仕事場に入れたことがバレたら、彼の責任になりますから。そう思って、声はかけなかったんですよ」


それで、誰も気付いてないうちに宮殿の中にいて、犯人たちと遭遇したわけね。この機会を逃さず、俺は続けて質問した。


「何であんな時間に女神の間にいたの?」


アイセンは途端に口をつぐんだ。

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