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美しい幽霊は幽霊が苦手なようです3

作者: 卯月/Sion

前回の後書きで告知した通り、過去編という事で、方向性の全く違う作品にしてみました。

思った以上に出来には自信があります、どうぞ楽しんでください

美しい幽霊は悲しい過去を持つ


金色の麦が風に揺られ、脇道に野草が茂った、平穏で長閑な村で童女は育った。

真面目で、素直な、和服の似合う黒髪が長く伸びた童女は、村の誰よりも美しく、聡明で少女らしくなく、大人びていた。

自分の辿る人生の末路を既知しているかの如く、美しい蒼眼の瞳はどこか遠くの空を儚げに見つめる。

されど映る空は童女の心の悲しみを和らげる空には成りえない、寧ろ童女は癒されるばかりか傷付いた。童女の瞳よりも澄み切って、純粋な青色をしていたからだ。


「今日も稲が良く育ちそうじゃのぅ」

童女は表向きは稲のようにまっすぐ純粋で立派な、美しい女性へと成長した。

翁は老体を思わせぬ程に堂々として大地に根を張る様に仁王立つと、美女は驚く。

予てから女は己を育ててくれた翁を敬愛し、忠義を示し、己の出来うる最大の感謝を込めた御礼を常日頃から考えていた。

そして翁の出来ない事を手伝うつもりでいた美女は、翁の出来ない事がない事を悟ると再び悩んだ。


「どうしたらお爺様の喜ぶ顔が見れるのでしょうか......」

「もう十分だよ、これからは側に居てくれるだけで十分じゃ」

と言って翁は微笑みかけるものだから、美女は夕食を取りに村へ渡ると言い残し、亭を後にした。


翁の笑顔を想像しながら日向から伸びる影を踏み、頭を抱える美女の髪を何処からか吹く風が優しく撫でた。

途端に辺りは暗くなり、先程昇ったばかりと思われた日は漆黒に染まり日輪の淵だけが白く輝いていた。

天には鴉の影か、バサバサと騒ぎ立てて、空中を鳥たちが暗黒に染める。


「深淵の刻来る時、現世と常世の国が結ばれ、生け贄を捧げる」


女は村長の元へと急いだ。己の全身全霊を両の脚に集中し、風の如く村へ駆け出した。

そして––––

聡明な美女は知っていた、生け贄に選ばれる者は特別な人間だと......

健気な美女は知っていた、生け贄はお爺様へ己ができる唯一の事だと......

儚げな瞳の美女は知っていた、生け贄はお爺様にはできない事だと......

美女は知っていた、己の内で悲鳴をあげている、恐怖の叫びを......

怖い.......怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い、怖い!!

死にたくなかった、こんな恩返しは嫌だった、しかし、美女がやらなくてはいけない事というのは他でもない美女自身がよく知っていた。

だから、怖くても美女はここで村の為に死のうと、そう、決心は既に決めていた、何年も前からずっと......そのつもりだった......

なのに、恐怖で震えが止まらない、村まではもう目と鼻の先だというのに、あと一歩がもう踏み出せなくなっていた......

動け......動け......動け......


「......」

生贄が捧げられなければ、冥界の扉が開き、あの世とこの世の隔たりは消え、この世の全てを混沌の渦に沈む伝承を現実にしない為に古来から、日輪が闇に沈む時生贄を捧げるのだ。


「幽霊のせいで幽霊になるのか、私は.......」

「お前らは何処かで見てるのに、結末を知っていながら誰も助けようとしなくて気に食わない」

「神様も、幽霊も、みんな、外側で傍観しているだけで何もしない」

「それでも村長さん達はそんなあなた達を祈れだなんて、正直私は、あなた達が苦手だ」

「それ以上に務めを果たせない今の私は、私自信が大っ嫌いだ」

「こんな事なら結末を知らなくてもいい、こんな事なら聡明で大人びてなくていい、私はもっと......

誰かを愛し、幸せな人生を得る、普通の平和な世界に生まれたかった」


願う童女の瞳から溢れる雫は大地を潤わせる。

悲しみは天に伝わり、雨を齎した。


しばらくして、その場で俯く童女は村人達に発見され、即座に祭壇が建てられた。

童女は希望の焔に焼かれ灰と化して天高く旅立ったのだ。



翁に童女の死を知らされたのは翌朝の事だったとか......

その日は濁流がひどく、橋は半壊、村のはずれに住む翁への連絡は遅れた。

翁は悲しみと激怒に狂い生涯、神と人間を呪った......



次回は彩榎と藍の高校生時代から大学生活まで(未定)

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