ソフィー その2
「そんな、まさか……」
ソフィーの言葉に久子は驚きを隠せないでいた。いや、マリーナとして驚きを隠せなかったのかもしれない。
「レイ王国には悪魔ハンターがいたじゃない!」
「その悪魔ハンターたちが悪魔に取り憑かれてしまったんだ」
「え?」
「しかも、悪魔は巧妙な罠を仕掛けてきた。 悪魔ハンターになりすまして国王様に近づいたんだ。 そして国王様までもが悪魔に取り憑かれて、そのまま王国は悪魔の手に堕ちてしまったってわけさ」
「そんな……」
「私はなんとか逃げてきたが同胞たちは……」
「ひどい……、ひどすぎる……」
久子は目に涙を浮かべていた。
「マリーナ、今は泣いている暇はない。 そうだ、君たちが来るまでにクッキーを焼いておいたんだ。 食べるかい?」
ソフィーはどこかから焼きたてのクッキーを持ってきた。
「ごめんなさい、今は食べる気に──」
「落ち込んでいても仕方ない。 私たちが気に病んでいたらそれこそ悪魔の思う壺さ。 いつか来るその日のために英気を養っておくんだ」
「…………ええ、そうね……」
「君たちもぜひとも食べてくれ、私の自信作なんだ」
ソフィーは貴志と絵理奈に言った。
「じゃ、じゃあ……」
「いただきます……」
二人はクッキーを一枚ずつ貰い食べる。
「うまッ!」
「ほんと! すごくおいしい!」
絶品だった。二人はさらに一枚、もう一枚と頬張っていく。
「気に入ってくれて嬉しいよ。 マリーナ、君も食べてくれ」
「ええ……」
久子もクッキーを食べる。
「おいしい……」
久子も同じように頬張っていった。その表情は少しだが明るくなっていた。
* * *
「さっきの件なんだけどね──」
久子たちがクッキーを食べ終わるのを見計らってソフィーは話しはじめた。
「悪魔に意識を支配されていた者は悪魔の支配が解かれたときに記憶が消されるようだ。 悪魔からすると余計な騒ぎを起こさずに任務を全うしたいだろうからね」
「任務ってなんですか?」
絵理奈が訊いた。
「これはあくまでも私の推察なんだが、おそらく悪魔は人間界そのものを支配しようと考えていると思うんだ」
「え?」
「レイ王国の件もそうだが、次々に人に取り憑いて勢力を拡大しているんだ。 今や悪魔に支配されている国は大多数に及んでいるはずだ」
「そんな……」
「そして、悪魔にとって弊害となるものはなんだと思う?」
「……悪魔ハンター?」
「そう、自分たちを捕らえようとしているハンターたちは邪魔な存在だ。 どんな手を使ってでも君たちを襲ってくるだろう」
この言葉に貴志と絵理奈は息を呑んだ。そうだ、悪魔は悪魔ハンターである自分たちを狙ってくる、そのことを決して忘れてはならないのだ。
「──私が教えられるのはここまでだ。 悪魔についてはまだ謎が多いからね。 また詳しいことが分かったら君たちに報告させてもらうよ」
「ありがとう、ソフィー。 そのときはまたよろしくね」
「ああ」
貴志たちはソフィーに別れを告げた。久子はその後絵理奈の家に着くまでなにも話そうとはしなかった。自分が住んでいた国が悪魔の手によって陥落してしまったのだから仕方はない。絵理奈と別れてから貴志は久子に話しかけた。
「──なんていうか、元気出せよ。 俺がレイ王国の悪魔を倒してやるから」
「うん……、励ましてくれてありがとう」
「いや、まあ、当然のことだからな」
「三輪くんって優しいんだね」
「そ、そんなことねえし!」
久子が笑顔になったのを見て貴志は思わず目を逸らせた。