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狂気の少女




「なんなのよ、絵理奈ちゃんってば! あんなのは全然ジュリエットじゃないわ! そう思わない?」

 美紀はまたトイレの中でベリアスに話していた。

《ふむ、確かに近藤絵理奈という者はなにも理解しておらぬな》

「でしょ? 私の言ってること間違ってないよね?」

《そなたは正しい、近藤絵理奈が間違っているだけだ》

 美紀はその言葉を聞いて安心した。自分が間違っているわけなどないのだ。間違っているのは絵理奈なのだ。



 * * *



「どう思う?」

「うーん、明るくて普通だと思うけど」

 貴志は美紀をこっそり見ながら言った。

「その明るいのが変なんでしょ? 私が覚えてる限りじゃ、成瀬さんって以前は地味であんなに明るくなかったはずだし」

「心境の変化とかあったんじゃないのか?」

「そんなにすぐに変わる?」

「女心となんとやらって言うし」

「『秋の空』ね。 でも、私にはそんな風には見えないのよね」

 久子はそう直感した。

「女の勘ってやつか」

「女の勘、舐めないでもらいたいわ。 ほら行くわよ」

 美紀が別の場所へ移動したので久子は貴志を促した。


 美紀がやって来たのは再びトイレだった。

「成瀬さん、さっきもトイレに行ってたわ。 絶対おかしい!」

「頻尿じゃねえのか?」

「バカ!」

 久子は貴志を小突いた。

「私、聞き耳を立ててくるから三輪くんはここにいて」

「は、はい……」

 久子はそのままトイレの中に入っていった。貴志は痛む頭を抑えながら待つことになった。


「私、絵理奈ちゃんを正しく変えたい! 私が正しいって分からせてあげたい、絵理奈ちゃんのために!」

《ふむ、確かにそうだな。 我もそなたが傷ついているのを見たくはない》

「だよね?」

《では、これを渡そう》

 と、ベリアスは鏡を通して美紀になにかを渡した。

《これを使えばきっと近藤絵理奈は正しいほうへ変わるだろう》

「本当に?」

《我がそなたに嘘をついているとでも思うのかい?》

「思わない!」

《ならば使うといい》

「──うん、分かったわ!」

《健闘を祈るぞ》

 美紀はそのままトイレから出ていった。

「やっぱり、成瀬さんは悪魔に取り憑かれて──」

 美紀のいた個室の隣で久子は聞いていた。確信を持った久子は貴志にそのことを伝えた。

「本当か?」

「ええ、間違いない! 急いだほうがいいわ! 成瀬さんが近藤さんになにをするか分からない!」

「分かった!」

 貴志と久子は美紀を追いかけた。



 * * *



「絵理奈ちゃん、見ーつけた!」

「み、美紀ちゃん!?」

 絵理奈の姿を見つけた美紀は絵理奈に明るく話しかけた。

「やっぱり絵理奈ちゃんは間違ってる。 私が正しく変えてあげるわ」

「え? な、なに言ってるの、美紀ちゃん?」

 絵理奈はすっかり怯えている。

「だーかーらー、私が絵理奈ちゃんの考えを正しくしてあげるんだって!」

 そう言うと、美紀はベリアスから貰ったものを取り出した。それはナイフであった。

「──!?」

 ナイフを見た瞬間、絵理奈は息を呑んだ。

「私が絵理奈ちゃんの頭をこれで切り開いて正しい考えの人の脳と取り替えてあげるの。 そうすれば正しい考えを持った絵理奈ちゃんの完成!」

「い、いやッ!!」

「絵理奈ちゃんが悪いんだよ? ちゃんとジュリエットになりきらない、正しい私の言葉も聞かない、自業自得でしょ?」

「やめてッ!!」

「大丈夫よ。 ちょっとチクっとするだけで、それが終わったら新しい自分に生まれ変われるんだから」

 美紀は絵理奈に歩み寄った。

「来ないでッ!!」

 絵理奈は手に提げていたスクールバッグを投げつけた。

「痛……、なんで私にそんなことするの? そんなことする資格があるの? そんなことしていいとでも思ってるの? 絵理奈ちゃんのこと、もう友達って呼んであげないよ? それでもいいの?」

「よ、呼んでもらわなくてもいいよ! こんな独りよがりな美紀ちゃんなんて、もう友達じゃないよ!」

 その瞬間、美紀の心は完全に壊れた。それと同時に美紀の姿が変わっていった。そして美紀だった者は、ただ醜くて汚れきった怪物の姿に変わった。

「なに、これ……!? 美紀ちゃん……?」

 変貌を遂げた美紀の姿に絵理奈は驚くことしかできなかった。

《許さない……! 私の厚意を無駄にするなんて絶対に許さない……! 死んじゃえ……!》

 怪物は絵理奈に巨大な拳を振り下ろした。

「え……?」

 絵理奈は動くことができなかった。


「《封印解放シールド・リベレーション》!」


 間一髪のところで貴志は絵理奈を救い出した。怪物の拳はなにもないところを叩いた。

「あ、危なかったー!」

「あ、あなたは……!?」

 震えが止まらない絵理奈は言葉を振り絞って訊いた。

「あとで話すわ! それよりも美紀ちゃんを助けないと!」

 貴志は絵理奈を安全な場所に避難させた。

「み、美紀ちゃんはどうなっちゃったの? 大丈夫なの?」

「はっきり言うわ。 美紀ちゃんは悪魔に唆されてたの」

「あ、悪魔?」

「信じられないかもしれないけど」

「ううん、信じる! 私、信じるよ!」

「ここに隠れてて! 私が絶対に美紀ちゃんを助け出してみせるから!」

「う、うん!」

 絵理奈は頷いた。


《なぜ……、なぜだ……。 私が正しいのに……、なぜだ……》

 怪物は頭を抑えていた。自身の考えを理解してもらえないことに疑問を抱いていたのだ。

「誰しもがあなたと同じ考えじゃないからよ!」

 貴志は怪物に言った。

「人にはそれぞれの考えや価値観があるの! あなた一人と一緒にしないで!」

《うるさい……、黙れ……!》

 怪物は拳を突き出した。貴志は慌てて避ける。

《暗くて地味だった私の気持ちなど……、貴様に分かるか……!》

「明るくなるのは別にいいけど、地味で暗かったあなたもまたあなた自身なの! それを認められないと決して前へは進めないわ!」

《……!》

 少しだけ怪物の動きが鈍った。

「お願い! 飾った自分だけじゃなく素の自分も認めてあげてッ!!」

《う、うるさい……!》

 そう言うと、怪物は口を大きく開けて息を吐き出した。それはかなりの激臭で貴志は怯んでしまい、その隙に怪物の攻撃を受けてしまった。

「うわぁッ!!」

 貴志は壁に激突しそのまま気を失ってしまった。

「三輪くんッ!」

 久子は思わず叫んだ。

「み、水野さん? って、三輪くんって……」

「あ……」

「水野さん、これってどういうこと?」

「え、えと……、これには色々と事情があって……」

「誰にも言わない! だから教えてほしい!」

「……ご、誤魔化しきれないみたいね」

 久子は観念して絵理奈にすべてを話した。


「まさか……! あの子が三輪くんなの?」

 絵理奈は驚いた。

「ええ、そうよ。 私が頼んで悪魔ハンターをしてもらっているの」

「わ、私も戦う! 三輪くん一人に重荷を背負わせたくない!」

「気持ちは分かるわ。 でも、素質がないとできないの」

「素質?」

「ただ戦いたいって気持ちだけじゃ変身できないの」

「でも──」

 と、そのときだった。絵理奈の胸が光を放ったのだ。これを見た久子は驚いた。

「まさか、ありえないわ!」

「ど、どうしたの?」

 不安そうに絵理奈は訊いた。

「近藤さんの中で悪魔ハンターになれる素質が生まれたの! 今なら変身できるかもしれない!」

「ほ、本当に!?」

「でも、こんなこと今まで聞いたこともないわ。 奇跡としか──」

「奇跡でもなんでもいい! 私も戦いたいの!」

「────分かったわ、これを受け取って!」

 久子は絵理奈にブレスレットを渡した。

「これって──」

「それを腕にはめて《封印解放シールド・リベレーション》って叫ぶと変身できるわ、やってみて!」

「う、うん!」

 絵理奈はブレスレットを腕にはめる。そして叫んだ。

「《封印解放シールド・リベレーション》!」

 すると、絵理奈は魔法少女に変身した。

「やったわ、成功よ!」

「これが、私?」

 絵理奈は変身した自身の姿に驚いた。

「さあ、成瀬さんに取り憑いてる悪魔を捕まえて!」

「うん、分かった!」

 絵理奈は怪物のもとへと向かった。

《なんだ……、貴様は……!?》

「今はこの姿だから分からないと思うけど絵理奈だよ、美紀ちゃん!」

《エリ……ナ……?》

「そうだよ!」

《よくも……、私を侮辱しやがって……!》

 怪物は拳を振り下ろした。絵理奈はすかさず避ける。

《なに……!?》

「怖かったんだね、美紀ちゃん。 私、気付いてあげられなくてごめんね」

《やめろ……、謝るな……!》

「大丈夫、元に戻してあげるからね」

 絵理奈は両手を組んだ。

「《悪魔浄霊デーモン・プリフィケーション》!」

 絵理奈が呪文を唱えると、美紀は元の姿に戻った。




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