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成瀬美紀という少女




「私のことはあんまり詮索しないほうがいいかもだよ!」


 シャイニング・ブルームの言葉が貴志と久子の頭から離れなかった。なぜ同じ魔法少女のはずなのにこのようなことを言うのか、そもそもシャイニング・ブルームとは何者なのか、なに一つ掴めなかった。

「水野、本当に分かんないのか、シャイニング・ブルームのこと」

「ええ、私も初めて会ったわ」

「なんなんだよ、まったく」

 貴志は頭を掻く。あんな言われ方をして腹が立ったのだ。自分としては純粋に訊いただけなのに、なぜあのようにはぐらかされたのかワケが分からなかった。

「──とにかく、彼女も悪魔退治をしてくれてるみたいだから悪い子じゃないと思うんだけど」

「そうだといいけどな」

 久子はそう言ったものの貴志は素直に納得できなかった。



 * * *



 次の日。貴志と久子が学校に行くとクラス全体が慌ただしかった。

「なあ、今日ってなんかあったっけ?」

 貴志が親友の小笠原に訊くと、小笠原はキョトンとした表情を見せる。

「はあ? 今日小テストあるって原田が言ってたじゃねえか」

「小テスト!?」

 完全に聞いていなかった。おまけに悪魔ハンターとしての活動もありそれどころではなかった。

「おいおい、もしかして聞いてなかったのか?」

「やべえ……、勉強なんて全然してねえよ……」

「貴志はいつだって勉強してねえだろ……」

「るっせ! 俺だってたまーに(・・・・)するし!」

「たまにじゃ意味ねえだろ……」

 小笠原は呆れたような表情を見せた。

「どうしよう、三輪くん! 私も勉強してないよ!」

 久子はとても不安そうに言った。

「水野はしてなくても大丈夫そうだけどな……」

 貴志は気力なくツッコんだ。


 小テストはあっという間に終わった。

「終わったあああああッ!」

 貴志は机に突っ伏した。案の定、ほとんど答えが出ずにテスト中ずっと頭を悩ませ続けた。

「お疲れ様」

 久子が貴志のもとに来る。

「水野はどうだったんだ?」

 無駄だとは分かっているが一応訊いてみた。

「最後の一問が解けなかったんだ! あの一問さえ解ければ!」

 やはりそうであった。本人は自覚がないと思うが、貴志からしてみれば完全に嫌味である。

「さすが、学年トップは伊達じゃねえな」

「そんなことないよー!」

 否定すればより嫌味に聞こえるのだが貴志は言わないでおいた。



 * * *



「美紀ちゃんって最近変わったよね!」

 貴志と同じクラスの近藤絵理奈こんどうえりなは中学からの親友の成瀬美紀なるせみきに言った。

「そ、そうかな?」

 美紀は照れくさそうな顔をする。

「だって、先月まであんなに暗めだったのに。 なにかあったの?」

「ちょっと色々とね」

「彼氏でもできたとか?」

「そ、そんなわけないじゃん! な、なに言ってるのよ!」

 美紀は全力で否定した。

「えー? 隠す必要ないのに、なんで隠すのー?」

「だから彼氏なんていないってばー!」

 美紀は最後まで否定し続けた。


 放課後。美紀と絵理奈は体育館にいた。所属する演劇部の稽古のためだ。

「さあ来い、無情な道案内、さあ、味気ない先導役、おまえはやぶれかぶれの舵取りだ。 波に揉まれて疲れた小舟を今こそ岩にぶちあて、打ち砕け。 わが恋人に乾杯!」

 美紀は『ロミオとジュリエット』のロミオ役としてなりきった。

「素晴らしいよ、成瀬さん!」

 部長の高橋先輩が美紀の熱演を賞賛する。

「まさか君がここまで情熱的なお芝居を見せてくれるとは思っていなかったよ! まるで本物のロミオかと思ったくらいだ!」

「ありがとうございます! 私、ずっとロミオ役に憧れてたんです!」

 美紀は生き生きとした顔で言った。

「文化祭に向けて頑張ります!」

 美紀の一言に部長をはじめ部員全員が拍手を送った。



 * * *



 帰宅した美紀はそのままベッドに寝転がった。

「あー、今日も充実した一日だったわ!」

 そして、机の上に置いてある手鏡を取ろうとベッドから手を伸ばす。

「ねえ、聞いて! 今日もみんなに褒められたんだよ!」

 美紀は手鏡に向かって話しかけた。

《ほお、それはよかったな。 そなたの魅力がみなに伝わっているな》

 と、手鏡が喋った。いや、正確には手鏡の向こうにいる者(・・・・・・・・・・)が喋った。

《一ヶ月前のそなたとは見違えたぞ》

「それもこれもベリアスのおかげね、ありがとう!」

《別に、我は感謝されるようなことはしておらぬぞ?》

「ううん、ベリアスがいなかったら地味な私のままだった。 そんな私を変えてくれたんだもの、当然よ」

《そうか。 そなたが満足してくれることが我にとっても満足なことなのだ》

「本当にありがとう、ベリアス」

 美紀は今の自分にとても満足だった。

《このまま我を満足させてくれればもっと面白いことが待っているぞ》

 ベリアスの言葉は今の美紀の耳には完全には届いていないようであった。




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