ナイトメアの秘策
「くそ! ナイトメアの野郎、今度あったらただじゃおかねえ!」
貴志は元の姿に戻っていた。
「三輪くん、近藤さんを連れてきたわ」
と、久子が戻ってきた。傍らには絵理奈もいる。
「近藤、大丈夫なのか?」
「うん、心配かけてごめんなさい……」
「いや、気にすんなって。 それより、ナイトメアの野郎をぶっ飛ばすのが先だ」
「三輪くん、もうこんな時間よ」
久子は時計を指差した。いつの間にか午後四時をまわっていた。ナイトメアの技の副作用なのか、時間の感覚が麻痺していた。
「これ以上遅くなったら戦うのは危険よ。 それにさっきまで変身してたじゃない。 魔力を酷使するのはオススメできないわ」
「でも──」
「大丈夫、私は魔力が残ってるから夜中は私が見張っておくわ」
「水野……」
「だから、安心して」
「……わ、分かった! あんま無茶すんなよ」
「分かってる。 近藤さんも一人でいるのは危険だから一緒にいましょ!」
「え、ええ!」
三人は一旦貴志の家に行くことになった。
* * *
次の日。結局あの後ナイトメアが襲ってくることはなかった。それが作戦なのかどうなのか分からなかった。
「とにかく、ナイトメアがどんな作戦でまた仕掛けてくるか分からないから、二人とも警戒を怠らないようにね」
「ああ、いつでも来やがれ!」
「うん、大丈夫」
『《封印解放!》』
二人は魔法少女に変身した。
「さあ、いつでも来なさい!」
「三輪くん、とりあえずこっちから探すことを優先しましょ」
「う、うん……」
絵理奈にたしなめられ貴志は力なく答えた。
「あら?」
と、羅針盤を使っていた久子はなにか違和感を覚えた。
「ど、どうしたの?」
すかさず絵理奈は訊いた。
「おかしいわ。 羅針盤が一定の方角を指さない……。 こんなこと初めてだわ」
「どういうこと?」
「まるでナイトメアの数が増えたみたい……」
「ええ? ナイトメアってそんな技も使えるの?」
今度は貴志が訊いた。
「そんなの訊いたことないわ、ありえない」
「でも、悪魔については分からないこともあるんでしょ? ひょっとしたら分身とかもできるのかも──」
と、そのときだった。
《ラリホー!》
三人の前にターゲットが現れた。
『ナイトメア!』
三人は身構えた。考えている暇はない。とにかく今は目の前のナイトメアを倒すことが最優先だ。
《うふふ、三人とも夢の世界へ案内してあげるわ》
「黙りなさい! その前にあなたを倒してみせるわ!」
《いいわよ、倒せるものなら倒してみなさい》
ナイトメアはどこか余裕がある感じだ。
「待って、三輪くん! なにかおかしくない? なにか作戦があるように見えるんだけど」
絵理奈が違和感を覚えた。
「私にはそんな風に見えないわ。 《悪魔浄霊》!」
《うわあああああッ!》
と、貴志の攻撃はあっさりとナイトメアに当たった。
「え? あ、当たった!?」
貴志は拍子抜けした。昨日あれほど苦しめてきた相手にしてはあっさりとしすぎである。
「嘘、でしょ?」
ナイトメアはその場に倒れた。その瞬間、ナイトメアは女子高生の姿に変わった。
「え!?」
貴志はあまりのことに言葉が出なかった。それは絵理奈と久子も同様であった。
「ど、どういうことなの? ナイトメアが人に変わるなんて──」
《違うわ、逆よ。 『ナイトメアが人に変わった』じゃなくて『人がナイトメアに変わった』の》
「──!?」
見ると、そこにはナイトメアが立っていた。
「なんでナイトメアが? 今倒したはずなのに」
貴志は驚いていた。
《うふふ、確かに今あなたはナイトメアを倒したわ。 正確に言えば『人間が変身した』ナイトメアだけどね》
「え? なにを言ってるの!?」
《私の能力には人間に悪夢を見せる以外にもう一つ別の一面があるのよ》
そう言うと、ナイトメアはブレスレットを取り出した。
《このなんの変哲もないただのブレスレット。 これに私が能力を込めれば、このブレスレットを身につけた者にあらゆる変化を及ぼすことができる。 睡眠状態に誘うことができたり、そして──》
ナイトメアは指を鳴らした。すると、どこからともなく大勢のナイトメアが姿を現した。
《人を私そのものに変えることだってできる》
「……!」
あまりのことに三人は言葉を失った。
《ここにはザッと百人の私がいるわ。 あ、さっきあなたが倒したのを除けば九十九人になるわね》
「そんな……」
《まあ、私以外のコピーは所詮ただの人間だからあなたたちなら簡単に倒せるかもね。 今の状態で私を見つけられる確率は九十九分の一、コピーを倒していけばそれだけその確率が上がる。 簡単な話ね》
「そんなこと、できるわけないじゃない!」
貴志は言った。ナイトメアのコピー、つまり一般人に手を出すわけにはいかない。
《相手が人間だから? だから倒せないのかしら?》
「あなたってつくづく卑怯ね」
《うふふ、戦略的と言ってほしいものだわ。 勝負には駆け引きっていうのが必要なのよ》
「こんなの駆け引きでもなんでもない!」
《まあいいわ。 守るべき人間にやられる悪夢を味わいなさい》
と、九十九人ものナイトメアのコピーが迫ってきた。
「くッ! 倒すわけにはいかないわ! 気を失わせるだけにしないと!」
貴志は身構えた。
「でも、これだけの数を相手になんて無理よ! とにかく分散させましょ!」
絵理奈は提案した。
「分かったわ!」
二人は二手に分かれる。
《やはり二手に分かれたわね。 いいわ、その作戦に乗ってあげる》
ナイトメアのコピーも二手に分かれて二人を追った。