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夢の世界




 貴志は花畑の中にいた。

「《悪魔浄霊デーモン・プリフィケーション》!」

 何度も呪文を唱えてみたが魔法を使うことはできなかった。

「おかしい。 どうして魔法が使えないの?」

《それは、ここが私の領域テリトリーの中だからよ》

 と、どこからともなくナイトメアが現れた。

「ナイトメア!」

《夢の世界へようこそ》

「ふざけないで! あなたを捕まえてこんな世界から出てみせるわ!」

 貴志はナイトメアに近づこうとするが歩き出そうとした瞬間に足に違和感を覚えた。

「なッ!?」

 見ると、両足に蔓が絡み付いていた。

「な、なにこれ!? 離れて!」

 引き離そうと足を動かすが一向に離れる気配はない。それどころか、動かせば動かすほど複雑に絡まっていく一方だ。

《あらあら、植物さんたちはあなたに行ってほしくないみたいね》

「くッ!」

《それじゃあ夢の世界をお楽しみに、悪魔ハンターさん》

「ま、待ちなさいッ!」

 貴志の叫びも虚しく、ナイトメアは姿を消した。その瞬間、周りの景色が一変した。


「ここは……」

 気が付くと、貴志は遊園地にいた。周りには多くの人がいてとても賑わっている。

「ナ、ナイトメアはどこ!?」

 辺りを見渡すがそれらしき姿はなかった。

「早く見つけて捕まえなきゃ!」

 ナイトメアを探そうとしたそのとき、貴志はある人物の姿が目に留まった。

「あの子は……」

 白いワンピース姿でクマのぬいぐるみを抱えたその少女の姿を貴志は忘れるはずがなかった。初めて魔法少女になったときにいたあの少女だ。

「あ、お兄ちゃんだ!」

 少女は貴志の姿を見つけると手を振った。

「君は確か私が元の姿に戻したはずじゃ……」

「え? なんのこと? 元の姿って、私ずっとこのままだよ? お兄ちゃんの気のせいじゃないの?」

「え?」

 少女に言われて貴志はなんとなく記憶がうろ覚えなことに気付いた。ひょっとしたら自分の思い違いだったか、そんな気さえしていた。

「ごめん、気のせいだった……」

「ねえねえ! それよりもその格好変だよー?」

「ん?」

 見ると、フリルと刺繍がたくさん施された可愛らしいドレスのような服を着ている。手にはステッキ状のアイテムが握られていた。そんな自身の姿を見て貴志は驚いていた。

「な、なんなの、この格好は!?」

「私が別の格好に変えてあげるー!」

「え? でも、周りには服屋なんて──」

「ここはなんでもできるんだよ! 見てて見てて!」

 そう言って少女は手を何度か叩いた。すると、貴志の着ていた服は少女と同じワンピースに、ステッキは風船に変わった。

「すごーい! 本当になんでもできるんだね!」

「へへー! すごいでしょー!」

「ねえ、他にはなにができるの?」

「じゃあ、こっちに来て来て!」

 少女はテーブルのある場所まで貴志を案内した。

「このテーブルいっぱいに料理を出しまーす!」

 少女は再び手を叩いた。言葉通り、たくさんの料理がテーブルを埋め尽くした。

「おおー!」

「ねえねえ! せっかく出したんだし一緒に食べちゃおー!」

「って、こんなに食べたら太っちゃうよー!」

 貴志は不安そうに少女に言った。

「大丈夫だよー! ここはいくら食べても太らないんだー!」

「そ、そうなの? それなら……」

 貴志は少女の提案に乗って食べはじめた。

「おいしい!」

「ところで、お兄ちゃんはなにか探してたの? 急いでたみたいだけど」

「え?」

 少女に言われて貴志はなにかを探そうとしていたのを思い出した。しかし、そのなにかが思い出せなかった。

「あれ、なんだっけ? 思い出せない……」

「思い出せないってことはそんなに大切なことじゃないんじゃないかなー?」

「それも……そうかも……。 きっと大したことじゃないよね」

 そう自分に言い聞かせると心のもやもやがなくなった気がした。

「どんどん食べよ食べよ!」

「うん!」

 貴志はどんどん食べていった。なにかを食べるたびに大事なことが失われていくような感覚を覚えたが、次第にそれも消えていった。

「あー、幸せー!」

 そして、料理を食べ終わるころには貴志は完全にナイトメアの術中にはまり、夢の世界の虜になっていた。


「起きて、二人とも! 寝てる場合じゃないわ!」

 久子は呼び続けるがナイトメアの術中にはまった二人は目を覚まさない。

《無駄だと言ったはずよ。 あの二人は夢の世界にどっぷりはまっているのよ。 あなたがどんなに叫ぼうと二人には届かないわ》

「イヤよ! 私は絶対に諦めないわ! 届かないとしても呼び続ける!」

《あなたって諦めが悪いのね。 この状況、どう考えたってあなたたちのほうが不利じゃないの》

 ナイトメアは呆れていた。



 * * *



「ねえねえ! なにに乗るー?」

 料理を食べ終えた貴志と少女はアトラクションに乗ろうということになった。少女は意気揚々と訊いてきた。

「んーと、そうだなー。 なにか乗りたいのある?」

「私、メリーゴーラウンドに乗りたーい!」

「メリーゴーラウンドかー、いいかもね!」

「やったー!」

 少女ははしゃいでいた。相当乗りたかったのだろう。

「えーと、高校生一枚と子供……ってあれ? 係員がいない……」

 見ると、そこにいるはずの係員が一人もいなかった。

「ここは係員がいなくても自由にアトラクションに乗れるんだよー! 身長制限とかもないんだー!」

「ほんとに? すごいねー! まさに夢のテーマパークだー!」

「じゃあ乗ろう乗ろう!」

「うん!」

 二人はそれぞれ好きな馬にまたがった。まもなく、メリーゴーラウンドが動き出す。

「わーい! たーのしー!」

 少女はさらにはしゃいでいた。

「本当! 楽しい!」

 貴志も同じくらい楽しんだ。


「次はなにに乗ろうかなー?」

「あ、次は私が乗りたいの言ってもいい?」

「もちろーん!」

「私、あれに乗りたいと思ってたんだー!」

 貴志はジェットコースターを指差した。

「えー……。 私、ジェットコースター苦手だよー……」

 少女は少し怪訝そうな顔を見せた。

「大丈夫! 乗ってみたら案外楽しいよー!」

「うーん……、お兄ちゃんが言うんだったらそうなのかなー……」

「そうこなくっちゃ!」

 貴志は少女を連れてジェットコースター乗り場に向かった。


《うふふ、そろそろ楽しい夢の世界は終わりよ》

 ナイトメアは不敵な笑みを浮かべた。

「な、なにをするつもりなの!?」

 久子は語気を強めた。

《デモンストレーションはもう終わり。 これからは私の真の力を見せてあげる》

 ナイトメアは指を鳴らした。


 貴志と少女がジェットコースターに乗ろうとしたまさにそのときだった。周りの景色が再び一変した。

「な、なに!?」

 貴志は辺りを見渡し違和感を覚えた。自分たち以外誰もいなくなったのだ。遊園地もまるで廃墟のように荒れたものに変わった。

「なに……これ……。 ねえ、これって一体──」

 貴志は少女のほうを見るが、そこに少女はいなかった。気付けば貴志一人だけになっていた。

《ラリホー! 私の作った夢の世界、楽しんでもらえたかしら?》

 その声を聞いた瞬間、貴志はすべてを思い出した。なぜこんな大事なことを忘れていたのだろう。おそらく奴の能力のせいなのだ。

「ナイトメア!」

《うふふ、楽しい夢はもう終わり。 これからは悪夢を楽しんでもらうわ。 果たして耐えられるかしらね?》

「今までのはあなたが見せてたのね! 絶対に許さないわ!」

《そういうことは私を捕まえられたら言うことね。 まあ、所詮無理なのだけど。 言っておくけど、夢の世界では私は最強よ》

「言ってなさい! 絶対に捕まえてみせる! 《封印解放シールド・リベレーション》!」

 貴志は呪文を唱えた。が、なんの変化も起きない。

「な、なんで変身できないの!?」

《うふふ、その格好だから分からないと思うけど実は変身したままだったのよ。 でも、その格好に変わったことでこの世界の支配下に置かれたの。 変身していながらその力を使うことができないってこと》

「そんな……」

《今はなにもできないか弱い女の子ってわけ。 これでも私を捕まえられると思ってるのかしら?》

「くッ……!」

《そろそろ出てきていいわよ》

 ナイトメアが言うと、貴志の背後に何者かが現れた。

「こ、近藤!?」

 現れたのは紛れもなく絵理奈であった。が、様子がおかしい。目は虚ろで覇気が感じられない。まるで人形のようだ。

《さあ、やりなさい》

「はい、ナイトメア様……」

 絵理奈はそう言うと、背後から貴志を羽交い締めにした。

「なッ!? ど、どうしたの!?」

 貴志は混乱した。仲間の絵理奈にこんなことをされたのだから無理もない。

《うふふ、彼女はあなたの知っている彼女とは違うわ。 私が作り上げたものよ》

「そ、そんなことって……」

《この世界は私の領域テリトリーの中って言ったでしょ? 私の思い通りにできる世界なのよ。 さあ、もっとやりなさい》

「はい、ナイトメア様……」

 絵理奈は魔法少女に変身した。

「やめて、近藤!」

 貴志は呼びかけた。が、絵理奈はなんの反応も示さなかった。

《聞いてなかったの? 彼女は私が作り上げたって。 どんなに呼びかけても無駄、私の言うことしか聞かないわ》

「そんなことない! 呼びかけ続ければきっと──」

「私はナイトメア様の言うことしか聞きません。 三輪貴志、あなたを倒してみせますわ」

 絵理奈のその言葉を聞いた貴志は、そこにいるのが自分の知っている絵理奈ではないことを思い知った。本当にナイトメアが作り上げた絵理奈なのだ。

《うふふ、夢の中で死になさい》

 ナイトメアが言うと、絵理奈は貴志に向けてステッキを構えた。


「まずい、このままじゃ! 起きて!」

 久子は思いきり貴志の頬を叩いた。

《無駄だって言ったでしょ? どんなに痛みを与えても起きることはないわ》

「このままやられちゃってもいいの!? 夢の中でやられちゃうなんて、最高にカッコ悪いわ!!」

 ナイトメアの言葉を無視して久子は呼び続けた。

《諦めの悪さもここまでくると尊敬するわね》

「起きなさい、三輪貴志!!」

 久子は何度も何度も頬を叩いた。

《何度やっても無駄よ。 その程度で起きるわけ──》

「いったあああああいッ!!」

 と、なんと貴志は目を覚ました。

《なッ!? あ、ありえないわ! 私の領域テリトリーから抜け出すなんて!》

 ナイトメアは驚きを隠せなかった。

「マリーナ! さっきからほっぺた叩きすぎなのよ!」

「ごめんなさい! でも、そうしないとやられそうだったから!」

「うん、それはありがとう! でも──」

《こ、ここは一旦引くしかないわね……。 でも、もう悪夢からは逃れられないわ。 また夢の中で楽しみましょ!》

 その言葉を残しナイトメアは姿を消した。

「って、逃げるなーッ!!」

「ま、まあ……、無事だっただけよしとしましょ」

 久子は貴志をなだめた。

「ん……、んん……」

 そのとき絵理奈が目を覚ました。

「あ、近藤さん。 よかったわ、起きて──」

 と、久子は絵理奈の表情が暗いことに気付いた。

「どうしたの、近藤さん?」

「……な、なんでもない……」

 明らかに絵理奈の様子がおかしかった。

「ナイトメアになにかされたの?」

「……違う、そうじゃない……」

「それじゃあ──」

「……私は大丈夫、だから……。 私、行くね……」

 絵理奈はそのままその場から去った。

「近藤、どうしたんだろう」

「分からない。 でも、夢の中でなにかあったんだわ。 三輪くん、ここは私が聞いてみるわ」

「え? それじゃあ私も──」

「こういうときは女の子同士のほうが話しやすいのよ、覚えておいてね」

「でも……」

「大丈夫、私を信じて」

「……う、うん……」

 男の自分では分からないような女の子ならではの話というものがあるのだろう。貴志は久子の言葉を信じてみることにした。

「じゃあ行ってくるわ」

 久子は絵理奈を追いかけた。




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