届く?届かない?
私の心には物心つく前から別の誰かが住んでいた。
頭に響く男の子の、声。
--さいね、・・・・・・さいね--
優しく、時には厳しく、一緒にいた彼、かずやとひとつの身体を共有し始めてもう10年になる。
--・・・ね、彩音、・・・・・・彩音っっっ!!!--
「!!!」
今日も今日とてかずやの声で起こされる。
「ねー!頭の中で叫ばないでって何度いえばわかるの!?」
--は?俺のせいかよ!!!お前が早く起きねーのが悪ぃんだろ!叫ばれて起こされたくないなら、自分で起きろよ!このお子ちゃま!!!--
「は?誰がお子ちゃまよ!誰が!?」
--お前以外に誰がいんだよ!?妹の彩夏の方がお姉ちゃんっぽいぜwww--
「くーーー!!!ムカつく!!!もー怒った!!!」
--お?やるか!?相撲でもするか!?やってやるぞ???www--
くっそーー!!!これが毎朝のやり取り。
朝からちょームカつく!!!
でもやずやは頭もよく、口も上手い、だから10年間1度もかずやにケンカで勝てたことはない。
それがなおムカつく!!!
「彩音ー!なに朝からバタバタしてるのー?ご近所迷惑でしょー!!!あと、起きてるなら早くごはん食べないさーい!」
あ!ママだ!
「は、はーい!・・・もう!かずやのせいで怒られたじゃん!(小声)」
--いや、自業自得だろ。頭ん中で反論すりゃいいのに、なんでわざわざ声にするんだよ。お前バカか?あ、バカだったな。察してやれなくてごめんなwww--
あーー!!!むーかーつーくー!!!
もう知らないとばかりに着替える私。
かずやは私が拗ねたことを察したようだ。
--はー。悪かったって。だから、機嫌なおせよ、な?--
そんな言葉でやられる私ではないぞ!!!
いつも流されて終わってるけど、今日こそは反省させなきゃ!!!
シカトをきめこむ私にかずやは呆れているみたいだ。
でももとも私を怒らせた、かずやのせいだもん!私悪くないもん!と開き直る。
これがふつーの日常。私とかずやの日常。
そんな、そんななんてない日常が消えるなんて思わなかった。
かずやに出会ったのは5歳くらいの頃。
頭に響くかずやの声に不思議な感情がした。
「おとこのこがさいねのことよんでる。いかなきゃ。」
お父さんにもお母さんにそんな声は聞こえない。
どこいくの?と何度も注意された。
それでも何回も何回も同じ行動をする私をついには精神病院につれていった。
検査結果は特に別状はなし。至って健康。幼い頃に聞こえる幻聴だろうとのことだった。
納得しないお父さんとお母さんに幼い私のでも男の子の声のことはもう聞いてはいけない。
これは彩音だけの内緒なんだ。と空気を読まざる得ないことだとわかった。
気にしないふりをしても聞こえてくる声は。
無視する度、声をかける頻度をあげていくのだった。
ある日、お母さんが誰かと電話で長話をしている時のこと、
--ねぇ、ねぇ!きこえるんでしょ?ぼくとはなそうよ!--
何度も聞こえない聞こえないと念じ続ける私に長年無視され続けたかずやは悲しい声でつぶやいた。
--ごめんね、ぼくのこえきこえるの君が初めてだったんだ。だから、おともだちになりたかったんだ。でも、見えないぼくなんて怖いよね。今までごめんね。ばいばい。--
と、いった。
!!!
大好きな声が聞こえなくなる!
いつも優しく名前をよんでくれた声が消えちゃう!
咄嗟にいやだと思った私は自分の部屋に駆け込み男の子に言う。
「ちがうの!こわくないの!ずっとはなしたかったの!でも、お父さんもお母さんもいやなかおするからがまんしてたの!きえちゃいや!!!」
涙いっぱいに目を潤わせ必死に伝える。
いなくなっちゃや!!!
--・・・そーだったんだね、ぼくとはなしたかったの?--
こくり。
--どーして?--
「だって・・・、さいねのおなまえいっぱいよんでくれたからうれしかったの。いっぱいいっぱいよんでほしかったからうれしかったの。」
--そっか。じゃあ、ぼくとともだちになってくれる?--
こくり。
--ほんと!?--
「うん!だってずっといっしょにいてほしーもん!だから、ともだちになる!お父さんとお母さんがいない時にいっぱいお話しよ?」
--!!!・・・ありがとう!!--
--ぼくのなまえはかずや、きみのなまえは?--
「!!!さいねはね!きうらさいねです!ごさいです!」
--さいねちゃん。これからよろしくね!--
「うん!」
それからかずやとはいろいろなことがあった。
幼稚園から小学校までは兄弟のように接した。
ひとつ年上だというかずやには勉強や、遊びなどいろいろ教えてもらった。
中学校に入ると思春期や、反抗期などたくさん生意気も言ったし、反抗した。
それでもかずやはそばにいてくれた。
いっしょに笑って、いっしょに泣いて、時にはケンカして、叱られもした。
いろいろあったらこの半生で私は・・・
私は・・・彼に恋をした。
見えない彼。優しい彼。泣きすする彼。いろいろな彼に恋に落ちた。
でも伝えてはならない。
伝えたら、かずやはどこか行っちゃいそうだから。
1度聞いた。
たまたまラブストーリーの映画を部屋で見てる時、エンディングロールで和気あいあいと感想を述べているとき、ふと、かずやならどうする?と聞いてみた。
このころから私はかずやに惚れていたのだ。
自信過剰なかずやのことだから、姿が見えなくても惚れさせる!とかいうんだろうなー。と
いつかそんな言葉を私にかけてくれないかなと。
幸せな気持ちになっていた。
でも、返ってきた言葉は違うものだった。
--俺は、俺は恋なんてしない。だって、姿ないんだぜ?誰が愛してくれるんだよ。それにずっと前から好きなやつがいて、そいつが幸せになれたら俺は消える。姿が見えなくても、声が届かなくても、そいつが幸せになるまで見守るのが、俺の役目!--
幸せだった気持ちが冷めていった。
それと同時に失恋も確定した。
私の気持ちは伝えることすら、出来ないものになってしまった。
かずやに迷惑はかけられない。
そんな気持ちから私はこの想いに蓋をした。
かずやの好きな人も気になった。けど、その人がもし結婚したらかずやは消えちゃう。だから、探す気にもおきなかった。
だってカウントダウンしちゃいそう。
いつかかずやが消えちゃうのをカウントしたくない。
だから私はずっとかずやに甘えたままでいた。
しかたねーなって、そーいってずっといてくれるように、私はずっと駄々をこねてる。
数年が経ち、専門学校を卒業した私は金融機関に就職した。
高校卒業を機に一人暮らしも始めた。
もちろんかずやもいっしょだ。
幸せだった。
かずやに起こされて、気兼ねなくおしゃべりして、小言を言い合って、こんなことがいつまでも続くと信じてた。
かずやがあんなこと言うと思っていなかった。
いつも通りに職場から帰って、着替えて、ご飯を用意して、かずやとテレビを見ながらおしゃべり。
いつも通りだった。ここまでは。
ふと、かずやがおもむろに声をかけた。
--なあ、彩音?--
どうしたのだろう?元気ない?病気!?
いつもより元気のない私はテンパって
「ど、どうしたの?び、病気?つらい?」
と心配して、声をかける
--ううん。元気だよ。あのさ、彩音にひとつ聞いてもいい?--
「え、うん!どーしたの???」
--なんで彩音は彼氏作んないの?--
え?何を言った?
--彩音が彼氏作んないの俺のせい?だからずっと彼氏作んねーの?俺邪魔?消える?--
!!!き、きえる?
「だめ!!!消えちゃだめ!!!いや!いっしょにいて!!!」
かずやの消えるの言葉に慌てる私。
--じゃあ、じゃあなんで彼氏作んないの?--
私を落ち着けなせながら静かに問うかずや。
「だって・・・」
--だって何?--
い、いえない。好きなんていえない。
あふれる涙を止めようともせず泣き続ける私。
--ねぇ、彩音?俺はね、誰よりもお前を近くで見てきた。誰よりもお前が幸せであって欲しいと願ってる。だから、それに俺が邪魔をしてるなら俺はもう彩音のそばにはいられない。お前には、結婚して、子ども産んで、平凡でもいいから、そんな幸せを過ごして欲しい。よぼよぼになっても笑い続けて欲しい。--
そういったかずやの声は震えていた。
でも、でも!私は今のままが一番幸せなの!
なんで伝わらないんだろう。
--ねぇ、なんで彼氏作んないの?--
もう、言うしかない。
「だって・・・」
--ん?--
「だって!今が一番幸せだもん!私はかずやが誰よりも好きだから、だからほかの人なんていらない!!!姿がなくても、私の幸せを声を震わせて願ってくれるかずやがそばにいてくれるだけでいいの!それ以外なんていらない!!!」
言ってしまった。
蓋が空いた花瓶から溢れ出す涙。
呆れたかな?軽蔑ひたかな?
でも、そばにいたいの。
--・・・そっか。彩音は俺のこと好きでいてくれてたんだ。--
あの頃と変わらない優しい彼の声。
受け入れてくれたんだ!!!
顔をあげて、笑顔になる、その時、
--でも、多分俺にはもう時間がない。--
え?
--少しずつ彩音と一緒にいる時間が消えてる。多分俺はもう永くない。だから、俺は彩音に好きになって欲しくなかった。でも、好きだって言ってくれて何よりもうれしかった。矛盾してるよな。--
うそだ。うそだ。
--なぁ、彩音?--
--誰よりもお前を--
--愛してる--
何よりも誰からよりも
聞きたかった言葉。
でも、もう多分聞けない言葉。
--なあ、俺、生まれ変わったら、お前に会いに行く。どこにいても見つけ出す。だから、また、その時に、自己紹介から初めてくれないか?--
涙で霞んだ先に少し涙目なかずやの顔が見えた。
あ、やっぱり、すごくかっこいい。
そして、すごく愛おしい。
最後に伝えるのはこれが精いっぱいだった。
「かずや、私も愛してる。だから、早く見つけてね。」
「かずやが一番最初に見つけ出してくれたように、声をかけてくれたように。」
「まってるから。」
--まってろよ。大好きだ、彩音。--
この言葉を最後にかずやの声は聞こえなくなった。
数年が経った。
あいも変わらず、私は平凡な生活をきてる25を過ぎると周りから結婚だのお見合いだのの声が後を絶たない。
でも、私はかずやをずっと待ってる。
今世では会えないのかもしれない。
でも、いつか来てくれることを待って、ずっとずっと1人で待ってる。
でも、そろそろ寂しいなー。
今まで一人の時なんてなきにしもあらずだったし。
はー。お一人様はつらいぜ(><)
なんて心の中でつぶやいた。
心ここにあらずだったせいか、前を見てなかった。
人にぶつかってしまった!
やば!
「す、すみません!!!」
ぺこりと頭を下げる。
「何年経ってもお前はおっちょこちょいのままだな。」
ん?
この声、知ってる。
勢いよく頭を上げると、そこには、あまり見知らないでも、最後に見た、愛おしい彼の顔だった。
え?え?え?
頭がパニックだよぉぉぉ!!!
ポカーンとしてる私を見て、
「ははっ!あほ面は直ってねーなwww」
とからかう彼。
「!!!だれがあほ面よ!
どこのどなたか知りませんが、失礼じゃない!?」
と反撃する私。
そんな私に焦ったのか。
「わ、悪かったって!・・・なあ、俺のこと覚えてる?」
心配そうに聞く彼。
「さあ、どこの誰かしら?」
いつもの仕返しとばかりにいたずらする私。
もっと焦る彼をみて、かわいそうに思い、
「あー、でもどっかの誰かさんは会うとき自己紹介から始めようって言ってくれたなー。誰だったっけー?」
わざとらしく言う私に。
「!!!くそ!覚えてんじゃねーか!!!」
「なんのことかしら?」
あくまでも自己紹介しないと素知らぬふりをし続ける私に呆れながら彼は言う。
「はじめまして。四嶋加寿耶です。」
「はじめまして。木浦彩音です。」
「ずっと」
「「探した/待ってた」」
重なる声が愛おしい。
触れる体温が愛おしい。
この溢れる想いを抱きしめて、
さあ、君との人生を一から始めよう。
人生はまだ始まったばかりなのだから。
なんか、頑張って書いても5000文字。。。
50000文字には足元にも及びません。
頑張ってカキコカキコしたいです。
連載となってますが、加寿耶と彩音のケンカや子どもが出来たときの小話をつらつらとかきたいですね。
最後まで読んでくださった方はありがとうございます。
次は何に挑戦するか。うぬ。