9話
始まりは潮騒の音の中で
海が近いのか、遠くに波の音と、かもめの様な鳴き声が聞こえる。
薄暗い中で起床し、洗面所で顔を洗い、体を拭いた。
訓練ができるところを探し、投擲の練習をする。
せっかく盾を買ったのだが、右手でも左手でもスキルが使えるようだった。
熟練度が上がると命中率、速度が上がり、試していないが連射ができる様だった。自分の適性は水魔法とナイフやダガーの投擲の様だ。使えるような、使えないような。
立ち回りを考えるに、ウォーターカッターの様なことができれば強くなれそうだ。ただ、今は水を投げることはできない様だ。できるようになるまで、たくさんのナイフを購入しないといけないのだろうか?お金がかかり過ぎるので現実的ではない。可能ならばもうしばらくひも生活をさせてもらおう。
などと考えながら、訓練を終わった。
宿に帰り、ケーゴを起こし、宿をチェックアウトした。
今日の宿は未定だ。
朝食は飯屋を探して食べてもいいが、朝っぱらから並んでる屋台が目についた。
海が近いので、魚関係があるかも知れない。ふと見ると、イカ焼きがあった。
「うまそー」
2人分購入し、実食!。味付けは塩だけであったが、塩だれだったようで、うまい!するするっと1本食べ終え、もう1本ずつ購入し、食べながらギルドに向かった。
ウォーレンの町は朝から活気があり、ギルドも賑わっていた。クエスト依頼表の前に並ぶ人々でごった返していた。この町は商業が中心となっているようで、討伐クエストよりは、護衛クエストの方が多いようだ。僕らのギルドカードはまだ見習のブロンズであり、シルバープレートを持った冒険者から護衛クエストは受けれる様だ。
はっきり言って、ギルドプレートのレベルを上げる気は今のところ僕にはない。
異世界を楽しむ為にやってきたのだ。(今のところあまり楽しんだ記憶はないが)人生楽あれば苦あり、レベル上げに苦しめば、上げ切ったとき楽しいことが起こるのであろう。
などと夢想しながら、人が減るのを待っていた。
徐々に少なくなってきたロビーを抜け、受付へ向かう。
受付嬢に(ごつい男だった)黒髪の女性のことを尋ねた。
「おはようございます。少し聞きたいことがあるのですが」
「おはよう。まずはギルドプレートを見せてくれ。ああよろしい。それで、聞きたいことってなんだ」
「ギルド職員で、この間はいった黒髪の女性がいるそうなんですけれど、面会できますでしょうか」
「ああ、キャサリンのことかな?ちょっと向こうのテーブルで待っててくれ」
キャサリン?外人さんだろうか。異世界仲間じゃない可能性を考えながら、食堂のテーブルに向かった。
「いらっしゃいませ。お食事ですか?」
「待ち合わせで使わせてください。何か軽い飲み物でもあればお願いします」
「はい、では紅茶を持ってきますね」
紅茶って、いくらするのだろうか?あまりお金使いたくなかったが、はい、と返事をしてキャサリンを待った。紅茶を飲みながら、小一時間待っていると、中背黒髪爆乳の女性が近づいて来た。
「こんにちは」
「こんにちは、キャサリンさんですか?」
「//キャサリンは偽名よ。本名は柳楽玲子というの。レーコって呼んで。18歳高校生だったの。君たち名前は?」
「佐藤潤一です、17歳です」
「・・・金田恵吾、17歳」
「そう、宜しくね。早速だけど、私お金がないの。無給で働いて、宿と食事だけは手配してもらっているの。ここの周囲のモンスターは結構強くて、考えた結果しばらく町の人に交じって待つことにしたの。後から立花が来るって言ってたからね。後、数人仲間ができることも聞いてたから、レベル上げをあきらめて、情報を得ることにしたの。ギルド職員をしていて、ある程度の情報が手に入ったわ。後で必要な情報を教えてあげるわ。」
無茶苦茶早口の人であった。ケーゴと正反対なようだ。
「あっあぁ、宜しくお願いします」
「早速だけど、私の装備を買いに行って、レベル上げをさせて。ギルドには加入してないので、加入料も貸してもらえるかしら。この町は宿がすぐ埋まっちゃうから、今日の宿も押さえておかないといけないわ。パーティー登録をしたら、出発ね」
どんどん仕切られていっている。
口を挟む暇もない。
キャサリン、改めレーコについていきながら、ギルド登録、宿の手配(中ランクで勘弁してもらった)、武器屋、防具屋、雑貨屋と回っていった。パーティー登録をすれば、誰かが討伐すれば経験値が手に入る。レーコの武器、防具は要らないと言っても過言ではない。ただ、狙われたりした場合、自分の身を守らなければならない。数匹出現したり、敏捷性の高いモンスターの場合は守ってもらってばかりではいられないのだ。
レーコの装備は重さの関係で、最初は杖と僕が使っていた盾を渡した。
金属鎧は全く動けなくなるため、重要な部分だけ革鎧とした。最初は盾で防ぐのみだ。前衛にケーゴが立ち、真ん中にレーコ、後ろに僕が遊撃として立つ。ちなみに投擲のため、両手にダガーと数本の投げナイフを購入した。
この町の周囲はグレイウルフ、ゴブリン、ブラックボアーの他に、少し西へ向かうとスケルトンがいる。最初はゴブリンでレベル上げとしたい。
しかし、ケーゴは強かった。
接敵の瞬間、ほぼ一撃で倒していく。
ゴブリン数匹、グレイウルフ数匹、ブラックボアーも問題ない。
叩き洩らしがあっても、
「シールド」
土魔法のレベルが上がり、目指すところへ土の壁ができ、レーコへ近づけさせない。壁の向こうへ、びゅんと鉄棒を振り、一撃で倒してゆく。
相変わらず僕の出番がない。粛々と討伐部位を集めて行く。
ブラックボアー3匹目を討伐した後、流石に重量オーバーとなり、一旦町に帰ることとした。
「いやあ、すごいなぁ。レベルがもう3になったよ。パーティープレイって素晴らしいわね。ケーゴと2人だったらもっと儲かるかもしれないわ」
軽くディスられた。
いやはっきり言って、ケーゴとレーコの2人パーティーの方が効率がいいと思う。僕は僕で自分を鍛えた方がいいし、この近辺では3人パーティーの意味がない。今日をもってしばらく僕だけはパーティーを離れよう。
町に帰って、そのことを提案した。
「・・・まだ、早いと思うが」
「いや、今からそうした方がいいと思うわよ。これからのことだけど、それぞれの固有武器を手に入れないといけないの。その際、私とケーゴのパーティーでケーゴの武器をまず取りに行くの。ジュンイチは次の町に行って、もう一人の仲間と合流しないといけないの」
「どうして、みんなで行かないの?」
「理由は、2人パーティーに慣れるため。私とケーゴはスキルの相性がいいので、しばらくは2人で組む必要があるの。ジュンイチはもう一人とパーティーを組んで、慣れなければいけないわ。それぞれの武器を探しに行くのに、一番合理的だと思うの」
なんとなく、ひも生活に嫌気がさしていたこともあり、提案を受け入れることとした。はっきり言ってケーゴとのパーティーでは、僕の役目がない。今は別れた方がいいんだろう。
ボッチの気分に浸りながら、それでもパーティーから外れることとした。
さみしくなんかないやい。
レーコは女性なので中ランク以上の宿でなければ納得できず、宿も別々にとることとした。僕は最低ランクで充分だ(食事以外w)
そして、また、ボッチの冒険が始まるのだった・・・