54話
ジュンイチは空を飛ぶ
じじーを背中に空を飛ぶ。
前回は筋肉の固まり、今回は骨の固まり。背中に当たる感覚は最悪だ。
さっさと終わらせてしまおうと決意を固めるジュンイチであった。
「ほっほっほっほっ、こりゃこりゃこりゃこりゃ」
背中でご機嫌なじじーであった。とってもとってもうざかった。
あっちを向いたりこっちを見たりして危なかしく、一度非常にうざかったので振り落としたことがあったのだが、実はじじーも飛べたので意味はなかった。
「やー、早いのぅ、すごいのぅ」
浮かれ気分のじじーを完全無視して、予定の土地へ進むジュンイチであった・・・
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予定の場所は、帝都より北の港町より少し南西に向かった森の中にした。
帝都より南の方角にも港があったが北より少し遠く、海路も迂回しなければならないので東の王国に着くのが大分時間がかかると思われたからである。
もちろん帝都方面に偵察に行き、どちらへ向かうかは確認するつもりであった。
南西の森の中にもモンスターが存在したが、現在は弱い部類のモンスターが数匹だけであり、投擲でさくさく倒して置いた。
陣は人が移動するだけならば5m程度の広さしか要らないため、数本の木を氷剣で静かに切り倒し、根っこを浮かせて魔法陣が書ける最狭の空き地を作った。
陣が完成してから人を呼び、作業した方が速いと思ったからである。
広場完成までは約1時間程度で終了した。
魔法陣の完成には更に4時間以上かかった。
途中じじーが疲れたので、たびたび休憩が入ったことも時間がかかった理由だが、やはり魔法陣の作成には神経を使わなければならないようで、その間ジュンイチは周囲の索敵、モンスターの排除をしなければならなかった。
「ようやく完成じゃ、ふー」
最終チェックが終わり、じじーが言った。
「それじゃあ、爺様がまずは陣に乗るか」
「そうじゃのぅ。まずはわしが移動して見せねばなるまいのぅ」
「じゃあリョウに連絡するから。もしもしリョウー?聞こえる?」
『聞こえるよー』
「陣が出来たから、そっちにじじーが行くから」
『分かったー』
「今わしの事なんといったのじゃ?」
「えっ?爺様がそっちにいくからって」
「聞き間違いかのぅ?」
ぶつぶつ言いながら、じじーは陣に乗って王城へ戻って行った。
しばらくして再び陣が光り、勇者4人、ソフィア、じじーが帰ってきた。
皆で周囲の木を伐採し、陣や人が入る小屋を作ったり、テイムスライムを入れて置く小屋を作ったりした。準備が整ってからみんなで小屋に入り、簡単な食事をして、今日のところは休んだ。小屋周辺にはレーコの結界を張ったので、野営は必要なかったのである。
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「ようやく準備が整った。明日には出発する。もはや余裕がない」
円卓にはアルフレッドと5体のバンダル、アンデが座っていた。
「バンダルを全員呼び戻していいの?」
「これまでのところ空を飛ぶ勇者以外は全員王城から離れていないらしい。空を飛ぶ奴は移動速度が速すぎて、結局位置がつかめないので、バンダルを密偵にする意味がなくなったのだ。それに、これは最終局面だ。かならず成功させなければならない。兵士も使うことはできないため、人手が必要なのだ」
「予定のコースで行くのね?」
「・・・予定のコースだ、時刻は明朝、朝日が昇った時に出発だ」
いよいよ、魔王を運ぶことになったのである。
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「ということで、ジュンイチは帝都で監視ね」
「ちょっと待てーい!なんで僕なんだ。ユーマの方が速いじゃないか。納得できん!」
「いやだって、空が飛べて、リョウと遠距離で話せて、何かあっても対処がしやすいのはジュンイチしかいないじゃない?」
「ジュンイチだけじゃかわいそうだよ、私も・・」
「だから、リョウはジュンイチとの情報交換の為にここに残らなきゃダメだって」
「・・・いーですよー、いってきますよー」
ふてくされながらジュンイチは空を飛ぶのであーるー・・・




