51話
始まりは、雲の上
ジュンイチは、ご機嫌だった。
王城をリョウと共に出発した後、メイプルで一泊し、初心者の村、ウォーレンの町で宿泊した後、現在夜を徹しリョウを背負いながら、雲の上を飛んでいる最中である。
背中でリョウは眠っている。ぬくもりが座布団を通じ、感じられる。
「ぼかあ幸せだな」
風魔法のアクセサリーをレーコから貰ったお陰で風の抵抗も減り、更に飛行速度が増した。もうそろそろパールの町に着く頃だ。夜明けも近い。
今日はパールで遊び、午後にはハルツールへ行くつもりだ。最終目的地は山町の温泉である。遊び倒すつもりのジュンイチであった。
「がっはっはあ、そうかジュンイチにも彼女が出来たか。母ちゃん今日は宴会だー。山ほど酒を持ってこーい」
「あんたはいつでも宴会だろ?それで、リョウさんだっけ?まあ、ゆっくりしときな。これからごちそう作ってくるから。今日はいい魚が入ったんだ。おいしいものを作って来るさ」
ジュンイチ達は予定通りパールに着き、午後からハルツールに来ていた。
ガッハと女将さんにリョウを紹介して、バードで仕入れた酒を渡すといきなり宴会に突入することとなった。
お酒は辞退したが、ガッハたちがうまそうに飲むのを見て、リョウは飲みたそうにしていた。
「そーれ、のめやうたえや、がっはっはー」
「ポセーイドンはーうみをゆけー」
せがまれて、日本の曲を歌うリョウであった。ジュンイチも合唱し、楽しいひと時を過ごしたのだ。
「また、いつでもおいでな。漁次第だけど、またうまいものでも作るからね」
「お世話になりました。また来ます」
いつもの宿で一泊した後、山町まで飛んで行くジュンイチ達であった。
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「それで、スライムはテイムできないの?」
「なんで俺がそんなことしなきゃあならないんだ!」
チェリーは王城まで連行されていた。
レーコはチェリーが高位のモンスターテイムマスターと知り、話を持ち掛けているのだ。
「この資料によると、あなたはチェリー・ボイスクラブが本名ね?」
「その名前で俺を呼ぶな!」
「名前の由来で幼少時からいじめを受け、青年時にボイスクラブ家から出家、その後の足取りはつかめずといったところだけど。もしよかったら、王家の権限で名前を変更してあげるわよ?」
「・・・どんな名前だ?」
「スター・ライトセイバーなんてどう?」
「・・・かっこいい」
「じゃあ、決まりね!」
こうして、チェリー改めスターは悪の組織から寝返ることになったのである・・・
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「それで、何か変わった情報でもないの?」
「勇者は3人王城にこもっているらしい。2人は出て行ったそうだが、移動が速く足取りがつかめんそうだ」
「・・・そろそろ動かないの?私暇で死にそうなんだけど?」
「動かねばなるまい。近頃魔石の集まりがよく、予定より復活時期が早まりそうだ」
「私はどうすればいいの?」
「軍を動かし東の町を取り込む。挟撃の形にしたいから、東の王国からアンデッドを率いてくれ」
「分かったわ。アンデッドは海の底を移動できるから、サンドラからゴブリンキングを沸かせたヤーツクの町に向かわせばいいわね」
「その方が無難だろう」
物語は最終局面に向かっている様だった・・・
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その後しばらくして、ジュンイチ達は山町で温泉三昧をしていた。ずっと温泉につかっているわけにもいかず、少しずつギルドでのクエストもこなしていた。
最近はモンスターの出現頻度も少なくなり、強いモンスターは見かけなくなった為、薬草採取などのクエストをこなしていた。
朝起きて顔を洗い、近場の森で鍛錬を行う。双剣の練習に加え剛剣の練習も取り入れている。偶然出現したモンスターは氷の礫で瞬殺し、氷漬けにしてギルドへ持ち込んだ。
午前中はリョウとギルドクエストをこなし、午後は町の観光。今のマイブームは山崖から採取できる緑茶とお団子である。ゆったりした午後を過ごし、宿に帰りお風呂につかる。部屋に戻り、リョウとまったりした時間を過ごす。異世界に来て、幸せな毎日を送るジュンイチであった。
「はあー、ばばんばばんばんばんーっと」
「ジュンイチー上がるわよー」
「はいよー」
今日も温泉につかり、ゆっくりとした1日を終えるところであった。
「・・・また、東の町にモンスターが増えてきたそうだ」
「まじか?またゴブリンの集団か?」
「いやそれが、ここらではあまり見かけないアンデッドの集団らしい」
「アンデッドなんて、ここらへんじゃあ見ないよなあ」
「そうそう、しかも高位ランクもいるらしいし、王国側から来てるっていううわさもあるそうだ」
「いやだねぇ」
不吉な会話をする2人がいたがジュンイチは華麗にスルーし、リョウとフルーツ牛乳を飲むのであった。
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ソフィアとユーマはスージーと会うため、初心者の村に向かっていた。
レーコに風魔法の魔道具をもらい、俊敏を使って進んだため、約1週間程度で村に着いた。もちろん、お姫様はお姫様抱っこをされていた。
「スザンヌ、お久しぶり。元気でしたか?」
「お姉さま・・・、どうか許してください」
「もちろん怒ってなどおりません。どうか、立って、顔を見せて?」
跪き土下座をするスージーを立たせ、再開を喜ぶソフィアであった。
「私は今、幸せよ?父様はもうお怒りは冷めておられるから、よかったらお城へ戻らない?」
「いえ、私はもうここの暮らしに慣れましたので、帰ることはできません」
「・・・好きな人でもできたのかしら?」
「//」
ジェームズと、いい関係を持っているスージーであった。
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「という訳で、第2回スライム実験たいかーい」
チェリー改めスターは、ようやくスライムをテイムすることが出来るようになった。スライムはその特性上、他のモンスターと比較し思考が読めないことが原因でテイムできなかった。しかし、テイムの基本は飴と鞭、好物と恐怖である。その基本状況を作り上げることで、ようやくテイムできるようになったのである。
「それでは、この鳥肉を捕食させるのじゃ」
「なんでじじーに仕切られなきゃならねーんだ!」
「わしはじじーではない、このチェリーボーイが!」
「俺の名前はスターだ!この耄碌じじー!」
びびびびっ
「はい、喧嘩をやめなさーい」
隷属の首輪を発動させ、喧嘩を辞めさせるレーコであった。
ちなみに実験はうまくゆき、テイムされたスライムは遺体となったモンスターを捕食することが出来るようになったのである。




