5話
始まりはベッドの中
今日は次の村に行く日だ。
昨日準備したリュックサックの中身を確認する。
「水分よーし、携帯食よーし、毛布よーし、ポーションよーし」
後は竹槍4個を肩に担げば、準備終了だ。
朝食を済ませ、スージーに挨拶をする。
「お世話になりました」
「また、ここに来ることがあればまた安くするから、泊まりなさいな」
「はい、分かりました。お元気で」
数日の間だが少し親しくなった為か、別れがつらい。
涙は出ないけどね。
「それでは」
もう一度振り返って、手を振る。
頑張りなよーと向こうも手を振ってくれた。
ジェームズにも挨拶をして、村を離れた。
東に向かい、次の村に行く。最初の仲間に会うんだ。
季節は夏真っ盛りであった。
道はそこまで悪くはなかったが、日蔭はほとんどなかった。
頭に布切れを巻いて、直射日光を避ける。
額や首筋から汗が湧き出る。こまめに水分を補充しなければ。
HPの回復は宿屋かポーションでなければできない。
現状では戦闘は避けなければいけない。
見る限りに於いてはモンスターの影はないが、野生動物は居そうだった。
充分注意をしたいが、暑さで朦朧とする。大丈夫かな?
レベルが上がっているためか、さほど疲れは感じないが、2時間程度歩いて日蔭があれば休むこととした。
「テンプレでは盗賊が襲ってくるんだよな」
いらんフラグを立てながら、東に向かって歩いて行く。
夕方となり、旅人が休む小屋の様なものがあったので、今日はそこで寝ることとした。
「こんばんはぁ」
そっと扉を開けたが、誰もいない。
明かりはつけず、隅で休むこととした。
毛布を取り出し体に巻き付ける。携帯食を取り出し齧る。水筒から水分をとる。
「今日だけで、水半分くらい使っているよな。暑いしね。持つかなぁ」
空の水筒を取り出し、水魔法で補充することとした。
MPの半分位使うイメージで、水筒を両手で握り、”水が湧く”イメージを送る。体の中心から手に向かう感覚があり、水筒に重さが出現する。
確認すると、1/3程度は水が出来ているようだった。
カウンターでは
MP2/8
かなり減っていた。
「やり過ぎた。はぁぁ。明日は飲み過ぎないようにしよう」
何も考えず、寝ることとした・・・
小さな小屋であったが、夜の寒さはしのげた。充分な睡眠がとれたようだ。
顔を洗うことは止め、トイレをすまし、乾パンを齧る。
乾燥肉も買ったのだが、塩辛いためのどがすこぶる渇きそうなのでやめた。
「さぁ、頑張って歩こうか」
なんか、何のために異世界に来たのか分からなくなってきたジュンイチであった・・・
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始まりは土の上
2日目の夜が過ぎ、水筒の水が乏しくなってきた3日目の朝が来た。
軽く水を飲み、のどが渇くので食事は止めて、東の村に向かうこととした。
馬車か馬なんかで行けばよかった、などと考えながら歩き続け、日が真上に差し掛かる前に村が見えてきた。
「ようやくついたよぉ、ながかったぁ」
異世界とはこんなに困難なものなのか、などとぶつぶついいながら、2番目の村にたどり着いた。初心者の村とは違い、この村は少し大きいようだった。畑が多いのも確認できたが、北の方には2重に柵が作られていた。川が近くを流れ、水車小屋が数軒並んでいた。
「まずは宿屋と、飯屋と、ギルドかな」
仲間探しはふと忘れ、自分の本能に基づき動く。
遠目で宿屋を探し、そこに向かって歩いて行った。
この村の宿屋は、あまり大きくない様だ。せいぜい10人程度が泊まれるのだろうか。
「値段はあがるんだろうなぁ」
初心者の村で蓄えたお金はあるが、そこまで金持ちでもない。
あまり高くなければいいなぁと思いながら、入口に近づいた。
ふと、裏庭を見ると、黒髪長身の男性が薪割をやっていた。
宿屋の従業員だろうかと思い、近づく。
「すいませーん、宿に泊まりたいのですがぁ」
「・・・」
薪割の手を止め、こちらに振りむく。布切れで額の汗を落とし、ゆっくりと近づいて来た。
「こんにちは・・・」
少し低めの声で、つぶやく様に話しかけてきた。
「宿の人ですか?」
「・・・居候です」
「宿屋の主人は中ですかね?」
「・・・そうだと思います」
「分かりました。ありがとうございました。」
礼を言って、入口に向かおうとすると
「あの・・・」話しかけられた。「日本人ですか?」
振り返り、まじまじと見る。あぁ、仲間になる人か、と理解する。
「こんちわ、初めまして、佐藤潤一といいます。日本から異世界に来た人ですね」
「そうです・・・」
「仲間になる人だと聞いていますが、そうですか?」
「僕もそうだと聞いています・・・」
何とも暗い印象のやつだった。
僕自身も引きこもりの自覚はあるが、この手の話し方は少しいらいらしそうだ。
ふといじめられっ子だったんだろうなと感じた。
「なんで薪割を?」
「・・・モンスターが倒せなくて」
「ちからはありそうなのに」
「・・・武器がないとスライムは無理のようで・・・」
前後に点がついちゃった。
少しずつ話を聞いてみると、最初は素手で倒そうとしたらしい。HPは最初から少し高く、16位はあったそうだが、1匹も倒せなかったそうだ。
まぁ、相性の問題もあるし、なんでこんなところに送られてきたのか気になったが、問題は次どうするかだ。今は薪割で厩に住まわせてもらっているそうだ。HPは回復したが、もちろんレベルアップはできていない。しかしせっかくの仲間だ。一緒に経験値を稼ぎ、冒険をしようと誘った。
「・・・僕でよかったら・・・お願い・・・します・・・」
いらいらする。がまだ大丈夫だ。無視できる範囲だよな。
とりあえず、宿へ入った。
「こんにちはぁ、誰かいませんかぁ」
「おや、お客さんかい?こんにちは。泊まるのかい?食事かい?」
「ごはんと、一泊いくらかお聞きしたいのですが」
「食事は100ゼニー、一泊500ゼニーだよ」
「たかっ!とりあえず食事だけ下さい」
「あいよー、おーいジェニファー、お客さんだよー」
食堂に2人そろって行き、テーブルに着いた。
500ゼニーは高い。2人分だと1000ゼニーだ。薪割をさせてもらってもいいが、モンスター狩りができないし、そんなに薪もいらない様だ。クエストの種類、値段も確認する必要があるが、この村で初期経験値を積むには若干厳しいようだ。疲れるが、また初心者の村へ帰ろう。
「ということで、初心者の村へ行こうと思いますが、いいですか?」
「・・・いいです」
「ところで名前はなんていうの?」
「・・・金田恵吾です」
「じゃあケーゴって呼ぶな。僕はジュンイチでいいから」
「・・・はい」
あまり会話が弾まない。まあおいおい聞いていけばいいか。
ケーゴは食事は済ませていたようだ。僕1人だけ食事をする。100ゼニーということで期待したが、そんなにおいしくないし、量も多くない。
この村はバード村といい、あまり人は訪れないようだ。宿屋も村の人間の会合に使われることが多いという。
食事を終え、雑貨屋に向かう。この村にも武器・防具屋はないようだ。雑貨屋で武器を確認する。やはり木刀が目立つが、奥の方に鉄の棒や短刀、鉄の剣もあった。手持ちのお金では買えなかった。防具は革製品があった。これも今は買えない。ケーゴの為の服を買い、リュックサックや袋、雨具などを購入した。
帰りは何と馬車があった。ちょうど初心者の村へ物品を下ろすための行商人がいたのだ。頼み込んで2人で2000ゼニーで乗せてもらうこととした。お金がもう心もとない。ケーゴは最後の薪割をしてただで、僕は500ゼニーを払い、さすがに今日は1泊した。
2人部屋だった・・・