49話
「この理論で魔王は倒せるわ」
王城ではレーコ、爺様が会議室でプレゼンテーションをしていた。
会議場では王様、ソフィア姫、ユーマや、元の世界での仕事を終えたリョウ、ケーゴが傾聴していた。
「もともと、魔王はこの世界に存在していなかった異物じゃ。魔王を構成しているものを仮に王素とでも呼ぼうかの。王素と魔素が結合した悪素が魔王本来の姿じゃ」
「魔王はこの世界に来た時、魔素をほぼ消費してしまったため、力を取り戻すために魔素を必要としたの」
「悪素は魔王にしか作り出すことができんものじゃ」
「そして悪素は動物に吸収されれば魔石となり、モンスターへと変化するの」
「人間には吸収されない代わりに、その影響を受け、多大なる悪意を持つこととなるのじゃ」
「悪素は魔王が来てから、徐々に増えているの。逆に魔素は減少しているわ」
「悪素は今まで分解できないと思われたが、今回漸く理論が完成したのじゃ」
ステレオ放送の様に、左右から理論を説明するレーコと爺様であった。
「ちょちょ、ちょっと待ってくれお嬢さん。早すぎて分からん」
「うん、概要は分かるんだけど、難しすぎて全て理解できないよ」
「とにかく、その悪素というものを分解できれば魔王を倒せるのよ」
「そうじゃ。それで唯一分解できるのがスライムだったのじゃ」
「もうすぐジュンイチがスライムを持って帰って来るから、続きはジュンイチが帰ってきてからにするわ」
複雑な理論の証明を先送りにしたレーコであった・・・
*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*
「と、いうことで、第1回スライム実験大会を始めまーす」
ジュンイチが王城へスライムを連れて帰ったその日の午後、さっそく実験が開始された。ジュンイチには休む間もなかった。
スライムは氷漬けにされていてもすこぶる元気で、溶かした瞬間一斉に触手をジュンイチに飛ばした。もちろんさっと避けたジュンイチである。
「まず、スライムで試す前に、魔石の説明をします。ご存知の様に魔石は魔力を引き出すことができ、蓄えることもできます」
「魔石とは魔王が来る前には存在しない物質じゃった。すなわち魔石とは魔王の一部ともゆうべきものじゃ」
「魔石は魔力を放出された後も消失することはありません。実際に砕いてみましょう」
そういうとレーコは小さめの使用済み魔石を取り出すと、ハンマーで砕きだした。
更に石臼で引いて見せた。
「この様に粉にすることもできますが、完全になくすことはできません。この粉を燃やしても燃えることなく、また火魔法を使えば、再び魔石へと戻ります」
そういうと魔石の粉にリョウの火魔法を使ってもらい、再び魔石へと戻ることを聴衆に見せた。
「ここまでの実験は、わしが王城にいた時には既に解明していたことじゃ」
「続いて、スライムに魔石を与えてみます」
ぼてっと置かれたスライムに魔石を放り込むレーコ。しかし、魔石にはスライムは反応しなかった。
「通常魔石だけではスライムは反応しません」
「この辺でわしは騙されてしもうたのじゃ」
スライムの活動原理は動物の捕食と魔素の取り込みである。
通常は魔素だけで生命活動を行う事が出来るが、現代でいう蛋白質がないと動くことができない。その為、生命の中でも動くことが出来る動物、蛋白質を捕食するのだ。
「続いて、魔石を鳥肉に入れて投げてみます」
鳥肉に魔石を埋め込み、スライムに投げ与えるレーコ。しかし、やはりスライムは反応しなった。
「スライムが反応するのは活動している生命体の体温のようです」
「そのせいで、わしは生きている動物を、実験に使わざる得なかったのじゃ」
爺様の研究に生体実験が必要な背景にはそういう事情があったのだ。魔石の研究の第1人者である爺様は、魔石が何からできているのかを追及しすぎて、誤った方向に向かってしまった様だ。
「生きている人間に魔石を取り込むことはできませんので、ここからはモンスターの実験となります。少し危険を伴いますので、観客席にはシールドを張ります」
「朝捕まえてきたグレイウルフじゃ。そのまま戦わせるとグレイウルフが勝ってしまうので、攻撃できないようにしてある。少しえげつないが1回しかしないからよく見ておくがいい」
そういうと爺様は攻撃力を無能化したグレイウルフに小さめの魔石を結わえ、スライムに放り込んだ。スライムはゆっくり捕食して行き、グレイウルフと共に魔石もそのジェリーの中へ取り込んでいった。青色のジェリーの中で消化されるグレイウルフ。あまり見ていて気持ちの良い光景ではなかった。
括られた魔石も徐々に小さくなり、砕かれ、見えなくなった行った。
完全に消化吸収されるまで、時間がかかるので一旦休憩を挟むことになった。
*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*
「リョウ、久しぶりー」
「ジュンイチー、会いたかったー」
ようやくリョウと会えたジュンイチであった。あれから約2か月位の時が立っていたのだ。王城に帰っても、すぐ実験場へ連れてこられたので、会話をすることもできなかったのだ。
「あっちはうまくいったの?」
「うん、無事、いっぱい知り合い作ったよ」
ブレーサーで会話をしており大概の話は知っていたが、顔を見ながら話をするのはまた格別である。他愛もない話を交えながら、リョウとの会話を楽しむジュンイチであった。
「そろそろ時間ね、みんな移動するわよ」
レーコの声で、休憩室から出てゆくみんなであったが、ジュンイチは動かない。
「ジュンイチもリョウもいくわよ!」
レーコは話し込んでいるリョウの首ねっこを引っ張りながら、出てゆく。ジュンイチはしぶしぶついていくこととした。
*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*
スライムは消化・吸収を終えており、ジェリーの内部には既に捕食されたグレイウルフは見当たらなかった。
「スライムを解体致します」
円筒の道具でスライムの核を抜き出す。周囲のジェリーは活動を休止した。抜き去られたジェリーを乾燥させると青い粉となり、燃やすと欠片も残らなった。
核も一般に行われている処理と同様に、液体に一度浸されて、その後乾燥・焼灼すると欠片も残らなった。
「以上の様に、スライムには悪素を分解できる力があることが証明されました」
うーん、なる程、分からん。
「さて次に、分解された王素ですが、恐らく微細な成分であり、何物にも捕らわれることなく魔王の元にもどることになるものと推察されます」
「王素そのものは捕らえることが出来ないが、魔素と切り離された後は力を失い無害となると思われるのじゃ」
「最終的に、どの位悪素が貯まれば魔王となれるのかが今後の課題です」
「魔王となれないくらいの悪素であれば、魔石として貴重な資源ともなれよう」
「現在はどの位悪素が存在すると考えておるのだ?」
「5千年前と現在の魔素の量を比較するに、ほぼ魔素の半分程度が悪素となっていると考えられます。それは我々がいた現在が、ほぼ魔素のない時代にいることからも証明されます」
「魔王は5千年前現れた時には、既に大いなる存在であったのだが、その辺はどうなんです?」
「恐らく転移してから直ぐには活動できなかったものと推察されるのう。ある程度魔素を吸収して、力を蓄えた期間があるはずじゃ」
「悪素を分解することが出来ることは分かったが、悪素を作り出すことはできないと思われるが?」
「多分、魔王出現部位に、魔王の核があると思います。その核のみが悪素を作り出すことが出来るのでしょう」
「スライムの核は悪素からできてはいないのかい?」
「スライム出現時期は、最後の勇者出現時期より更に後です。恐らく、魔王とは違う異世界から現れたのでしょう」
質疑応答は続くが、はっきり言って訳わからん。どうでもいいので、リョウとこそこそしりとり遊びをしているジュンイチであった。
「これからは、スライムの核やスライムそのものを変異させて、悪素分解できる様に実験を進める予定です」
レーコの締めの言葉で、実験大会は終了したのであった・・・




