46話
その頃リョウはケーゴと共に、飛行機に乗っていた。
魔王出現予想地は、大体絞られていた。その地域は悪意が染み出ているため紛争地域と成りやすい、と予想されたからだ。今はその周囲へ自分達の組織を作るべく、移動している最中なのだ。
「あー、ジュンイチ元気かなぁ」
「・・・」
静かなケーゴの隣で退屈となり、思わずつぶやくリョウであった。
*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*
「魔素とは、クオークの1つである」
「そうね、そして魔王が必要としている悪素と言うべき物は、魔素と他のクオークが結合したものよ」
レーコはジー・サマーと熱い議論を交わしていた。
ジー・サマーは捕らえられた後、レーコの元へ連れて来られ、その悪素の研究に参加することになったのだ。元来研究家であるジー・サマーは喜んで参加した。もちろん首にはレーコ作の隷属の首輪が嵌まっている。
「問題は悪素を分離することが現在できないことじゃが」
「でもモンスターの魔石の様に、集めることはできるのよ」
「しかし、モンスターの魔石は普通の魔素も集めることができるのじゃ」
「そうね、私達はその中から魔素だけを使用することができるのね」
「すなわち使い終わった魔石には、悪素のみ蓄えられていることになるはずじゃ」
「そこから更に魔素だけを絞り出すことができれば、分離できたことになるのよね」
現在粒子物理学ともいうべきところの議論となっている。
「そこに、魔王の呪文が必要となるわけじゃが」
「その呪文の媒体となるものが、魔王の核のようね」
「そして魔王の核も、この魔石と類似しているはずじゃ」
ジュンイチが聞いていたら、さっぱり分からない理論を戦わす2人であった。
*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*
ユーマとソフィアは、彼女の固有武器を取り終え、ゆっくり王城へ帰って来るところであった。
「疲れたかい?」
「少しだけ」
「抱いて行こうか?」
「それも素敵だけど、今はこうしてユーマと歩きたいわ」
「じゃあ、ゆっくりお姫様にお付き合いしよう」
「ソ・フィ・ア・よ」
「ソフィアにね」
「//ふふ、ユーマ」
いい雰囲気で夜道を進む2人であった。
*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*
ジュンイチが砦に来て、2週間がたった。
朝は南の土地へ見回りに、午前中は砦の兵士たちと訓練をし、午後は双剣の指導、夕方から弁当持参で再度南の土地の探索を行っていた。
飛行速度はステータスの上昇とともに増加した為、割と広範囲で遠くの地域まで行って帰ることが出来るようになっていた。しかし、最初にモンスターを発見してから今まで、1匹のモンスターも発見することができなかった。
剛剣とも呼べる砦の剣法は、この2週間であらかた理論と型を覚えることが出来た。基本は8つの型であり、全て体の捻りを剣に伝え威力を増すというものである。先の先を取ることもできるが、相手の攻撃をいなした姿勢から如何に剛剣を打ち出せるかが肝である。
双剣の指導も順調で、ほぼ全ての型を教えることが出来、昨日は模擬戦も行った。ジュンイチが加わることで、見学者には双剣の応用を伝えることが出来たのではないかと思った。
砦でほぼすることが終わった頃、ジュンイチの元に伝令が来た。
「東の王国からの伝達です。レーコ殿からジュンイチ殿に、スライムを捕まえて持って来て欲しいとのことです」
「はあー?何それ?どうゆうこと?自分たちでいけばいいじゃん」
「・・・私に言われても分かりませんが、メモ書きがありましたのでお渡しします」
それには一言、私は忙しいし、ジュンイチなら簡単でしょと書かれていた。
「ふざけんな・・・」
あいかわらずのレーコの指令であったが、砦でほぼすべきことが終わった現状特に断ることもなく、しぶしぶ従うこととした。
「・・・という訳で、お世話になりました。本日ここを離れることと致しました」
「おう、急なことであるが、今まで世話になった。おかげでここの兵士たちの活気が更にあがった。礼を言わせてほしい。また、来ることがあれば遠慮なく声を掛けて欲しい」
ショウリュウ、リューユとの挨拶が終わり、砦を出て行くジュンイチであった。
リュックにこの地方の食材を詰めるだけもらい、見た目では大荷物となった格好で空を飛んで行く。飛行速度が更に早くなった為、途中の海も休む必要がなくなり、1週間という短期間で王城までたどり着いた。一言レーコに文句をいうつもりなのだ。
*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*
「だって、スライムを氷の玉に入れれば生きたまま持ってこれるでしょ?今、研究が大詰めなの。ジュンイチだったら1週間以内にでも行って帰れるじゃない。スライムは盲点だったのよねー。知識は持っていたんだけど、実際見てなかったから思いつかなかったのよ。知ってる?スライムは魔石を分解することができるのよ。これで、魔王殲滅の理論が証明されるわ」
早口でレーコに反撃され、二の句が告げなくなるジュンイチであった。
「・・・だ、だったら、報酬はなんだ。ただじゃあしないぞー」
「うーん、リョウがそろそろ帰って来るから、リョウの抱擁でどう?」
「・・・いや、いい。お前と話したのがまちがいだ・・・」
口では敵わない。
レーコのぱしりをしている不満を抱えながら、気分を変えようと思いつつ王城を離れるジュンイチであった・・・
*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*
一方謎の組織は、円卓の会議室に3人で集まっていた。
「・・・いきなり俺のモンスターが瞬殺されていたんだ。どうなっているんだよー」
「どうせ、ぼけっとして、周りのモンスターか兵士にでもやられたんじゃない?そんなことより、これからどうするのさ?」
「そんなことってなんだよ!お前に俺の気持ちが分かるのか!」
「・・・まあ、とにかくこれからのことなんだが、勇者の情報を集めるためにバンダルをもう3体作り出した。魔王の素をこれ以上使用すれば予定の復活時刻を延期させなければならなくなるので、以後は作成を控えねばなるまい。勇者は5人いるようだから、5体のバンダルにそれぞれ情報を集めてもらう予定だ」
「情報を集めてからどうするのさ?」
「各勇者の行動場所を探り、魔王およびしもべたちの進軍場所を予定する。その上陸場所を決定し、最前線の基地を作成するのだ」
「だいたい基地の場所は決めているんだろう?」
「氷の大地は進軍するのにはあまりに迂遠であり、セイレーンは失敗した。我々の居場所である、西大陸西部はできれば避けたい。予定では初心者の村近辺を狙っている」
「なら、さっさと初心者の村に基地を作ればいいじゃないか。あそこにはゴールドの冒険者も、勇者もいないだろ?」
「慎重を期さねばならぬ」
「じゃあ、俺が行くぞ。あすこに陣を作るんだろ?森の端で陣が作れる場所を確保しとくわ」
「おい、チェリー、待て」
「チェリーと俺を呼ぶな!」
若い男のチェリーは、止める声も聞かず、さっさと会議室を出て行った。
残った2人は、後の作戦を詰めるのであった・・・




