43話
「おーい、じーさまが来たぞー。なんじゃい、誰も居らんのかい」
広場に降り立った老人は、周囲に向かって声を掛ける。
返事がないと今度は小屋に向かい、中を確認しに行った。
老人は一見してどこにでもいる風体をしており、ジュンイチに殺意は湧かなかった。
「うーん、どうしようかなぁ。もう少し様子を見ようか」
老人は小屋から出てくると、
「誰も居らんのぉ。しゃーない、始めようかのぅ」
ぶつぶつ独り言を言い、広場の隅から陣を作成していった。
「何か、結構大きな陣を作るみたいだな。完成させたら駄目だよな」
かと言って、やはり見た目が一般人の老人の首を刎ねる気にはなれなかった。
そこで、休憩時間に小屋に入った時を狙うこととした。
「ふぅ、疲れた、疲れた。ちょっと休憩するかのぅ」
午前中いっぱい作業した老人は、のら作業後の農家の老人の様に背中をまげ、小屋の中に入って行った。
「ちゃんす!」
ジュンイチは空に浮き、小屋がすっぽり入る水の玉を作り出した。
そのまま「じゃぼん」と小屋を包み込み、「かちかちかち」と凍らせてしまった。
小屋入りのどでかい氷の玉のできあがりである。小屋の中には空気が入っているから、しばらくは持つだろう。
「よいしょ」
念力を使用し、氷の玉を空中に浮かべ、そのままメイプルのギルドに帰った・・・
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「じゃぼん」
「ん?なんじゃこりゃ?」
「かちかちかち」
「急に冷え込んできたのぅ」
「ぐいーん」
「おお、小屋が動く、地震か?」
小屋の中で休んでいたじーさまは、小窓しかない為何が起きているか分からなかった。
「何か少し揺れるのぅ」
まったりとお茶を飲みながら、小屋の中で過ごすのであった。
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広場にゆっくり氷の玉を下ろしたジュンイチは、すぐギルドに向かい、囚人などに使う魔力抑制帯を借りた。ギルマスに小屋の中にいるのが黒幕だと思うことを話し、捕縛を手伝ってもらうことにした。
「それでは、入口だけ溶かします。中には老人一人だけですが、魔族より上位のものの可能性がありますので、僕が抑制帯をつけたら合図します」
一人が入れる穴だけ開けながら、入口に向かう。その周囲のみ氷を溶かし、中に入った。
中では老人が、椅子に座り、こっくりこっくり昼寝をしていた。
そっと近づき、ぐるぐる巻きに抑制帯で縛る。
「ぅん?だれじゃ、お主は?」
「あ、どうもジュンイチといいます。あなたはじーさまですか?」
じーさまだーと言っていたので、名前と思い尋ねてみた。
「いかにもわしは、ジー・サマーである。お前は何でここに居るのじゃ」
「あー、続きはギルドでお話ししましょう」
そう言って、ジュンイチはひょいっと椅子ごと老人を担いだ。
「おお、こりゃこりゃこりゃ、わしをどうする気じゃー」
老人がわめくのを無視しながら、ジュンイチは小屋を出て行き、ギルマスとともにギルドへ向かうのであった。
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その頃広場では、
「あれ、ここだと思ったけど、違ったのかい?」
ワイバーンに乗った女性が、小屋のあった広場の上空で回っていた。
「あそこに書きかけの魔法陣があるから、ここで間違いはないと思うんだけどねぇ」
辺りには小屋もなく、じーさまも居らず、バンダルもいない。
自信がなくなる女性であった。
「一回帰って1号を連れてきた方がいいようだねぇ」
探すのをあきらめ、元の場所に帰ることにした様だ・・・
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「あれは、以前宰相補佐までなったことがある、元この国の公爵ジー・クリストファー・サマーだ」
今はギルマスとギルド長室で、捕らえた老人の説明を受けるジュンイチであった。
「彼は高位の魔導師の1人であり、魔法研究の第1人者であった。使用できる魔法は多岐にわたり、4属性魔法の他、闇魔法、空間魔法も魔法陣として扱うことができたのだ。ただ研究が行き過ぎて魔王の魔素の研究を開始したころからおかしくなり、人体実験を始めてしまったため、爵位剥奪の上、国外追放となった者だ」
恐らくその後、犯罪組織に入って悪だくみをしていたんだろうとギルマスは言った。
「それでは彼をお願いしてもいいですか?」
「ああ、君が言った魔法陣のことや、現在の活動内容などきっちり話を聞かねばならない。セイレーンの森の異変が彼らのせいだと確認できれば、君のクエストを完了とみなし、報酬を支払おう」
お役目ごめんとなった様だ。
なかなかの主要人物を捕まえたと思うので、これで魔王殲滅の手がかりがつかめればいいなぁと思うジュンイチであった。
セイレーンの騒動が終わったので、一旦王城に戻り宰相に報告する。
とりあえず緊急ですることもなくなったので、レベル上げに励むこととした。
「もはや近辺では修練になりませんので、西の大陸の砦に向かおうと思います。何かありましたら、連絡してください」
そう伝え、ショウリュウのいる砦に向かうジュンイチであった・・・
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「ちょっと!どうなっているのよ、じーさまいなかったわよ!」
ワイバーンに乗っていた女性は、出かける前までいた館に帰ってきて、円卓に座っていた男性に怒鳴っていた。
「先ほど1号が報告してきた。4・5・6号と連絡がつかないらしい。恐らくは死んでいると言っていた。ジー・サマーがいなかったのなら、ジー・サマーもやられたかもしれない」
「えー、じーさま結構高位の魔導師だったんじゃなかったの?私が行ったの数時間遅れなのよ。そんなに簡単に負ける実力だったの?」
「あるいは、敵は非常に強力なのかもしれない。根本的な計画の見直しをしなければならないな」
「・・・とりあえず、次の作戦が決まるまで、私は休んでいるわよ」
「好きにすればいい」
女性は足音を高く立てながら、部屋を出て行った。
「・・・この度の勇者は、侮れないな。危険だが、密偵を送る準備をしておくか」
じーさまが油断で捕まったことなど知れぬ、謎の組織であった・・・




