42話
「ごめんジュンイチ、また元の世界に戻らなくちゃならなくなったの」
討伐計画の検討および勇者歓迎の祭りが終わり、王城を離れる際リョウが言い出した。現在日本で魔王討伐の為の組織を作っているそうだ。
既に現首相には話を通し、実行部隊の組織づくりも着々と進んでいる。
マインドコントロールができるリョウはその組織で必要な存在であり、度々帰っては下準備を重ねているところだそうだ。今回はケーゴもボディガードとしてついていくらしい。
「今度は少し長くなりそうなの。また帰れるようになったら連絡するね」
リョウとケーゴを見送り、とぼとぼと城外へ向かう。
ちなみにレーコは書庫で魔導士グループと検討会を開いている。なかなか忙しいらしい。
ソーマとソフィアはある程度レベルが上がったので、今度はソフィアの固有武器を取りに行くという。ちなみにソフィアにはレベルの概念がない。その為、現在国を挙げてソフィアの防御装備を開発中である。それまでは城内に待機だそうだ。
「ソフィアの固有武器って何?」
「この国の初代がエターナルドラゴンに預けた、聖なる護剣だ。光の魔力を持つらしい。王族にしか取り扱うことが出来ず、しかもレーコがいうにはその護剣が魔王討伐の切り札になるというので、取りに行くことにしたんだ」
ということで、ジュンイチはまたしばらくボッチ生活に戻ることになったのだ。
もうなれたもん!
城門へ向かっていると、宰相モージェとであった。
「ジュンイチ様、お暇でしたら少し頼まれてはもらえませんでしょうか?」
暇とは失礼な!
「ええ、僕にできることならなんなりと」
「最近セイレーンの森が騒がしいようなのです。モンスターの活動が活発化しており、どうもギルドへの依頼も多くなっているようです。調べて頂けたらありがたいのですが」
「ええ、いいですよ。暇ですから」
どうせ暇人です。ボッチなんですよーと心の中でつぶやきながら、依頼を快く引き受けたジュンイチであった。
*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*
「セイレーンに向かわせたバンダル達はうまくやっているのかい?」
「うまくやっているらしい。この前報告が1号から来たが、ほぼ魔法陣を作成できる場所を確保したらしい。そろそろ来てほしいと言って来た」
「なら、じじーの出番だな。じじー、行って来いよ」
「ほっほっほ、わしはじじーではない。お前に言われるまでもないわ、若造が」
「うるせぇ、じじー、早く行って来いっつてんだ!」
「ほっほっほ、自分のけつも拭けん若造が生意気ゆうんじゃないわい」
「いーから行ってきなよ、爺様。あんたにしかできないんだろう?」
円卓に座っていた老人は憤慨しつつ立ち上がり、そのまま部屋を出て行った。
「それで魔法陣の見張りは誰がするのさ」
「現在勇者一行は城に戻ってきているらしい。魔法陣がつぶされたらやっかいだ。少し腕のあるものが行った方がいいだろう」
「俺は嫌だぜ。じじーといると喧嘩になっちまう」
「じゃあ、私が行くしかないかね。しょうがないね、行ってくるかい」
見た目では20代後半と思われる女性が円卓を離れ、部屋から退室する。
「お前はどうするのだ?」
「ああー、囮役でもやろうかー。数匹連れて砦にむかうわ」
「そうするがいい。俺はもう少しここでしなければいけないことがある」
最後の2人も立ち上がり、部屋を出ていくのであった。
*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*
メイプルのギルドで情報を集めたジュンイチは、セイレーンの森に向かった。
セイレーンの森には世界樹があり、それが集めた魔力により周囲の動物へ視覚混乱の状態異常を引き起こしていた。実際は世界樹に存在した風竜がしていたのだが。
レーコの固有武器を抜き取った後は風竜も杖にその力を預け、現在はセイレーンの森では視覚異常が起きなくなっている。
メイプルの町の冒険者は、この森の浅層から発生するモンスターを狩ることで生計を立てているものが多い。メイプルの町の周囲ではスコーピオン、ワイバーン、オーガといったモンスターが多いのだが、セイレーンの森の浅層では若干弱いランクで食用にもなるマタンゴや、グレイボアー、薬用になるマジックバタフライなどがいる。
他にキラービーの巣が手に入れば、濃密な蜂蜜が手に入り割と大きな収入となるのだ。
しかし、ここ最近中層にしかいなかったモンスターが出現するようになってきた。ハイオーガ、ハイオーク、メイジスケルトンなどだ。
今まで浅層でしか狩りのできない冒険者が傷ついたり、死亡する例が増えてきているのだ。ゴールドプレートは現在この町では少ないため黒薔薇騎士団を派遣したが、中層のモンスターに手こずり理由の究明に至っていないのが現状であった。
ジュンイチはセイレーンの森の上空を飛んで行った。
森の上空からはあまり異常がないようだった。
とりあえず世界樹のところまで行ってみた。
「ここまでは特に気になるところはなさそうだな。もう少し奥までいってみるか。ん?」
目の端に女騎士の姿が写った。
どうもハイオークに追われているらしい。
転倒し、今にも切り付けられそうになっている。
時間がない、苦無を投げつけ氷剣を作り、一直線に飛んで行く。
「たあー!」
掛け声と共に切りかかる。
ハイオークは、苦無に気付きこちらを向く。
苦無は弾くが、そのままジュンイチの剣に切り裂かれた。
「ざしゅっ」
残心し、事切れたことを確認して女騎士に声をかける。
「怪我はないですか?」
「あっ、ありがとうございました」
「どうしたんですか?」
「少し奥まで来すぎまして、みんなとはぐれてしまいました。」
女騎士は今年黒薔薇騎士団に入ったばかりだという。
黒薔薇騎士団は、昨年まで男ばかりであったが、ソフィア王女の帰還と共に今年から女騎士も採用することにしたらしい。
彼女は最初の1人目だと、立派な胸を突き出し、どや顔した。
ゆくゆくは白百合騎士団ができるそうだが、まだ人数が少ない為男性に混じって任務を行っているところだそうだ。
「ところで、何か変わったこと、気づいたことなんかありますか?」
「ええ、1つだけ気づいたことがあります。ある方角からのモンスターが異様に多い見たいです」
その方角を教えて貰い、彼女を町へ送って行く事とした。
「あなたはとっても強いんですけど、高ランクの冒険者なのですか?」
「まあ、一応ゴールドです」
「お名前を聞いてもいいですか?」
「ジュンイチと言います」
「ジュンイチ、様ですね。覚えて置きます。私の名前はレシカです、覚えて頂ければ嬉しいです」
その日はレシカと町に帰った。
次の日朝早くに、レシカに教えてもらった方角に行ってみることとした。
確かに上空から確認しただけでも、その方向に沿ってモンスターが多い様だ。そのまま更に奥へ進む。すると、人手によって伐採された様な広場が遠くから見つかった。
そこには、以前西の大陸で見かけた作りで、3倍程度大きくなった、もはや家といっていい程度の丸太小屋が存在した。
ジュンイチは木に隠れながら、周囲を伺った。
すると以前見かけたのと同じ顔の魔族が3人小屋から出てきた。
3人は広場の中央に行くと、それぞれ召還魔法を開始し、1体ずつレッサーデーモンを呼び出し始めた。
「レッサーデーモンが周囲のモンスターを圧迫したから、セイレーンの森が騒がしくなったんだな」
この騒動の真相が分かったので、魔族を殲滅することにした。
「3人まとめて凍らせればいいよな」
召還が終わり、3人ともポーションを飲み、再び召還詠唱を開始した時点で氷の魔法を使うことにした。
「ブリザードっ」
言う必要もないが、想像しやすいように小声でつぶやき、両手から3倍増しの氷魔法を魔族にぶつける。
「うっ」
詠唱開始していたため、目を瞑っていたようで、魔法に対する対応が遅れる。
3人プラス3匹のモンスターがまとめて足から凍って行った。
氷像が6体出来上がる。両手に氷の片手剣を作り駆け出す。
「かんかんかん・・・」
全ての敵の頭を刎ねる。
残心し、動きのないことを確認する。
念のため、魔族のみ頭と心臓に止めを刺しておいた。
「・・・とりあえず埋めておくか」
広場の端の土を念力で掘り、6体の死骸を埋めておいた。
埋め終わってからギルドに報告しに行こうとした時、南の空に動くものを感じた。
直ぐ木の裏に隠れ見ていると、老人が杖を持ち飛んで来るのが確認された。
この場所を知っているということは、黒幕かもしれない。
戦う予感がするジュンイチであった・・・




