41話
「ソフィア、座りなさい。私が説明する」
「いいえ、この話は私がしなければいけないのです。どうかお許しを」
そう言って、ソフィアは語り出した。
スザンヌの方法は過激な方法であった。
5人の勇者は亡くなった後、それぞれ彼らの武器を残し、その遺骨は”楔”となった。
武器は元々この国に存在するものではなく、聖なる武器としてそれぞれその当時存在した5匹の聖竜へと預けた。また、”楔”は多大なる魔力を有していたため国宝とし、宝物殿へ保管されていた。
その”楔”を第一王女に打ち込み、王女を地下へ埋めなければならないと言うのがスザンヌの方法であった。王は激怒し、大反対をした。しかし、王女およびソフィアはスザンヌの意見を取り入れ、5年前の夜間、人目を忍び実行したのだという。
「楔を自ら打ち込むことはできませんでした。泣きながら、母と妹は私に楔を打っていたのを覚えております」
楔は高度の魔道具であり、勇者の聖なる道具ともなる。しかし、そのままでは魔力が足りないため、多量の魔力を持つ人間の生命エネルギーを必要としたのだ。
しかも、”時”も必要とした。
「つまりあなた方は我々の5千年後の子孫となるわけなのです。いえ、”そうなる予定の人々”といえるでしょう。今姿を見せている”私”もあなた方の世界から来ています。この世界の”私”は王城の地下深くで”封印”された状態にあります」
「あー、これからは俺も話をしておこうか。”現代人”である俺からの話の方が分かりやすいかも知れないからな」
「よろしいのですか?ユーマ」
「「「「誰?」」」」
「えっと、ユーマ様です。立花優馬が正式なお名前でしたわね?」
「・・・あー、俺の名前はどうでもいいんだが、藤兵は実は偽名で、立花優馬というんだ。・・・どーでもいーんだが」
彼の名前はユーマというらしい。どぅわはっはっはー、大笑いだぜ。
続いてトーベ改め、ユーマからの話となった。
ガイアの国はこれからいろんな将来がある。僕らが来た時点で、魔王が勝つか、僕らが勝つか、それとも引き分けになるかの少なくとも3パターンが存在する。僕らの世界は引き分けとなった場合をソフィアが”想像した”5千年後の世界だそうだ。僕らはソフィアが想像した世界からやってきており、実はソフィアの生命エネルギーや魔力、魔素を使って作り出された精神体というべき存在らしい。
「つまり、魔王と引き分けないと、僕らの存在は消えてしまうのか?」
「いや、そうはならない。もちろん魔王が勝った場合は全て消えてしまうだろうが、魔王に勝った場合はパラレルワールドとなるだろう」
「結論からいうと、現在既にパラレルワールドといってもいいと思うわ。ただ、まだソフィアとのリンクがつながっているから、多少普通人と異なるところが出てくるということね」
「そうだ。例えばHPMPというものは、ソフィアとのリンクの魔道具である左腕のカウンターがあるから俺たちにもあるんだ。このガイアの人々のHPMPとは状況が違うんだ。言ってみれば、カウンターから発生するHPMPをまとっている状態とも考えられる」
だからHPがなくなっても死ななかったんだな、とジュンイチは思った。
「それで、魔王と戦わなければいけないことは分かったけれど、なぜ勝てないの?」
「勝てる方法はあるかもしれないが、今までの方法だと魔王は悪意を持った魔素に変換されるだけで消滅させることはできなかったんだ。また、スザンヌの予言でもいわゆる封印状態にさせるだけで、消滅させたとは言わなかった」
「私もいろいろ文献を漁ってみたけれど、消滅させる方法は見つからなかったわ。でもいろいろ検討しているうちに、まだ理論を構築できていないけれど、消滅させることはできそうなの」
おー、レーコいつの間に。のんびり遊んでいただけじゃないんだな。
「・・・私から、最後に言わせてほしい」
王が静かに立ち上がり、跪く。
「ソフィアよ、勇者達よ。巻き込んでしまって申し訳ない。私の生命を持って諸君たちに依頼をする。どうか、この国を救って欲しい」
「私たちからもお願いします。どうか、この世界をお救い下さい、ソフィア様、勇者様」
臣下が一斉に跪いた。
「私からもお願いします。私の生命を持って、依頼します。勇者様、この世界もお救い下さい。」
ソフィアも跪いた。どーしよ。ソーマの顔を見る。ソーマは頭を掻いていた。
しょうがない。
「ごほんごほん。あー皆さま、立ち上がりましょう。えーそうしましょう。どうせ魔王と戦わなければいけないのですから」
「そうです、依頼されるまでもありません。これは私たちの戦いでもあります」
「・・・そうです」
「それにここで魔王を倒しても、どうせ元の世界でも倒さなければいけないしね」
「えっ、どうゆうこと?」
「あージュンイチにはあとでねー、えへ」
えへじゃない。
「どうか皆様、お立ち下さい。この依頼、ユーマが引き受けました。安心してください」
ユーマのセリフで一同立ち上がった。
「これから、魔王討伐への作戦会議と勇者一行のパレードの計画を建てましょう」
宰相の締め括りで、僕らは謁見の間を退席することとなったのだ。
魔王討伐の理論構築には、まだまだ時間がかかるようだ。その前に元の世界でも魔王を討伐することになるとはどういうことかと、レーコに確認した。
もちろん元の世界は、この世界で魔王を封印した後の世界である。すなわち魔王は復活するということだ。つまり、この世界で魔王を消滅させても元の世界では復活することは決定しているのである。それがパラレルワールドということらしい。
なるほど、分からん。
とにかく魔王討伐の理論を作り上げなければ、元の世界も危ないということらしい。ということは、元の世界に戻っても魔法が使えるっていうこと?
「そういうことー」
どういうことやねん。
よく分からんが、することは決まっている。レベル上げと6人の連携強化だ。
魔王を少なくとも封印するためには、レベル99まで上げなければならない様だ。
現在僕はレベル70まで上がっている。後30弱レベル上げをしなくてはならないのだが、
「お前らはレベル上げしなくてもいいのか?」
「いいのよー。バーティー組んでるから。ジュンイチ頑張ってー。私忙しいし」
離れていてもパーティーでの経験値は入っていたらしい。レーコ達も69になっているそうだ。ちなみにトーベ改め、ユーマも50レベまで既に上がったそうだ。
「あー、頑張ってくれ」
いや、お前も頑張れよ。
王都で討伐計画や歓迎の祭りが終わったら、またジュンイチはレベル上げをみんなの為にしなければならなくなったのであった・・・




