4話
始まりはベッドの中
見慣れない天井だ。
夜は明かりがないため、天井まで見ていなかった。
井戸に行き、顔を洗い、竹槍で素振りをする。
僕はコツコツと何かをすることが好きだ。
体力に恵まれているわけでも、成績がいいわけでもない。学校の成績はよくて中の下、クラブ活動などもやっていない。帰宅部で家に帰れば、パソコンで、インターネット、MMOなどもやっている。ただ、人とコミュニケーションをとるのは苦手で、RPGも結局ソロでやっていた。
弱いモンスターを相手にし、少しずつ経験値とお金を稼ぐ。レベルアップだけを目指す。思考を止めて、同じことを繰り返す。そんな作業の様な時間が、なんとなく気に入っている。
この世界に来たのも、リアルの環境を変えたかったというのがある。
でも性格は変わらないようだ。今日からのことも、恐らくしばらくは同じことの繰り返しをすることだろう。
なんてことを考えながら、素振りを終える。
型なんか知らないから適当だけど、スライム以外のモンスターを相手にしたときに、少しでも役にたてばいいなぁ。
体を拭いて、朝食をもらう。
「はい、ご飯出来たよ。できれば、連泊のお金を収めてね」
「ありがとうございます。がんばります」
未だお姉さんの名前を知らない。
宿のおばちゃっ、お姉さんでいいか。
僕はまた、スライム狩りに出かけた。
数日間同じことの繰り返しだった。
スライムのポップアップは数日かかるようで、同じところにはあまり見かけない。大きさもほぼ一律で、巨大スライムなどは見かけなかった。どうもジェームズが間引いているようだ。
川上に行くと、薬草があった。スコップなどがないため、竹で簡易なスコップを作り薬草刈りをした。根っこから持っていけばいいようだ。
レベルは5になり、スライム相手では経験値が伸びなくなってきた。
お金もある程度たまってきたので、次の村に行く準備を行うこととした。服を数枚とリュックサックもどきを購入。次の村まで徒歩で2・3日みたいなので、途中で野営をしなければならない。
モンスターは次の村の向こう側では強くなるが、それまではスライムばかりの様なので、道中気を付けなくてもいい。ただ、夜は冷え込むので、毛布を購入した。武器は木刀しか売っていなかったので、長さの関係でやめた。その代わり竹槍を合計4本持ってゆくこととした。食事は乾パン・干し肉を買い、念のためHPポーションも1本だけ購入した。高かった。
水が一番困った。多量に持ってゆくのは重くて現実的ではない。
困ってジェームズに相談した。
「水魔法が使えれば一番手っ取り早いよ」
「魔法が使えるかどうか、わからないんです」
「スージーには相談してみたのかい?」
「誰ですか、それ」
「宿の受付嬢だよ」
宿のお姉さんの名前はスージーというそうだ。
早速、聞いてみることとした。
「こんにちは、スージーさん。魔法を使ってみたいのですが」
「おや、初めて名前で呼んでくれたね。魔法かい?まずは使えるかどうか確認しないとね」
宿の奥にいったん引き込むと、水晶を持ってきた。
「まずはここに手を置きな」
「何をするんですか?」
「魔法の種類の確認だよ。どんな魔法が使えるか、この玉で確認できるのさ」
いうとおりに右手を置き、しばらくすると玉が熱くなってきた。
少しずつ色が浮かんで来たようだ。
「手を放してごらん。うっすら青くなっているようだね。お前さんは水魔法が使えるようだね」
何という偶然なのだろうか?ちょうど使いたい魔法が使えるようだ。
「魔法を使うには、イメージが必要なんだが、きっかけは魔法コントロールだね。今度は玉に両手を置きな」
水晶を挟む様に両手で持った。
「水が湧くイメージを持つんだ」
玉の底から中心に向かい、湧水が出てくるイメージをした。
じっと見ていると、自分の体の中心から両手に向かって動く、”感覚”があった。すると、青い色が底から中心に向かって出現した。
「それが魔法のイメージだよ。後は今の感覚を忘れないように、練習するんだ」
「ありがとうございました、やってみます」
そっとカウンターを確認したが、MPは減少していなかった。魔法コントロールだけでは、MP減少はしない様だ。
いつもの様に狩りと採取を行い、夕ご飯を食べてから、宿の部屋で魔法の練習を行う事とした。両手を約10cm位離し、玉をもつイメージをして、水が湧き出るのを想像する。両目を瞑り、魔力が両手に集まる感覚を自覚する。
ふいに、中心から両手に向かう”感覚”がして、その後、「ぽちゃん」という音がした。目を開け確認すると、水がこぼれた様に床が濡れていた。
カウンターを見ると
MP7/8
と僅かに減っていた。
「できたぁ。はぁ。でも少ないな」
3日間の量には全く足りない。魔法で水を作り出すのは諦めた。
練習すれば1日分程度にはなるかもしれないが、やはり3日分の水は背負って持ってゆくこととした。