39話
「3号は殺られた様だ」
定例会議の席に集まった者から発言があった。
「誰に殺られたのだ?作戦はどうなっている?」
「誰に殺られたかは分からない。あのオランの町の陥落が最初の予定であったので、大幅に変更せざるをえまい」
「中央の山町や東の町の状況は?」
「元々中央は時間稼ぎ、東は囮なので状況に変化はない。」
「問題は押すか退くかだが」
「作戦そのものが破綻しているので、退いた方が賢明だろう」
「退いた後の作戦は」
「予定通りセイレーンだろう」
「1号、2号は退却し、次は4・5・6号だな」
「うむ、すぐ出発する」
反対意見もなく、会議は瞬く間に終了する。一斉にそこにいた同じ顔の5人は席を立ち、会議室から出て行くのであった。
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砦の門番の部屋では男がジュンイチからもらった水筒の水を、息も切らずに飲んでいた。
「はあー、生き返った。ついでに何か食べるものはないか?」
「すぐには乾パンがありますけど・・」
「それでいい。申し訳ないが頂けないか?」
ジュンイチはリュックから残っていた乾パンを全て男に渡した。
「それで、なんで干からびていたんですか?」
「・・・もぐもぐ、ごほごほ、ちょっと待ってくれ」
乾いた乾パンを喉に詰まらせながら水を飲み、一心地ついてから男は話し出した。
男は南の領土を守る将軍である様だ。
昔からここより南の地方より、かなり高ランクのモンスターが出没する。それをこの砦で撃退していたらしい。
数年前からモンスターの出現頻度が減少し、ここ4・5年は殆ど見かけなくなった。その為、砦の兵士たちの士気は徐々に下がっていたそうだ。
そこへ、この度の襲撃が起こった。
今まで発生したことのない地域に現れたゴブリンキングの大集団が、東の町を襲撃した。砦から半数の兵士が鎮圧に向かった。
そのすぐ後に、今まで群れたことがないと言われるレッサードラゴンの群れが中央の町に現れた。近衛兵を残し、残りの兵士が鎮圧に向かった。
最後のレッサーデーモンの襲撃が始まったとき、誰かがこの砦に残らなければならなかった。将軍が一人で残ることとなり、全ての兵士がオランの町に向かったのである。
「補給は定期的になされるはずであった。しかし、1週間前に途切れてしまったのだ」
「あー、オランの町の襲撃は収まりましたから、補給部隊がそろそろやってくると思いますよ?」
「おー、そうであったか。助かった」
砦の状況が分かり、ここで待つには物資が足りないため直ぐに町に帰りたかったが、将軍をこのままにしておくのは気が引けた。
食材は麦を中心にしばらくは持つそうだが、水の確保が一人では難しい作りとなっているそうだ。
貯水槽に山ほど水を補給しておくこととした。
「これで補給部隊が来るまでは大丈夫ですか?」
「いや、助かった。オランの町が安定すれば近衛兵が帰って来るであろう。そうすれば水門の調整などができる。もうしばらくはわし一人でも大丈夫だ」
「僕らはパーティーのメンバーと合流しなければいけませんので一旦離れますが、また帰ってきますので、その時にはよろしくお願いします」
「うむ、分かった。わしの名前はショウリュウという。また来た時には訪ねるがいい。その時は礼を返そう」
一晩砦内で過ごし、翌日にはまた飛んで行くジュンイチペアであった・・・
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オランの町に行けばすれ違いになる恐れがあるので、山の町に向かうこととした。
もうレッサードラゴンは討伐されているだろうと話しながら飛んで行く。すると、
「ぎゃー、ぎゃー」
遠くに4・50は居るだろう、群れが町を取り囲んでいるのを発見した。
「・・・なんか全然減っていない様だけど」
「とりあえず、殲滅しちゃう?」
「よろしくー」
「んーー、どーーん!」
リョウがレイピアを抜き、炎竜を呼ぶ。炎竜はレッサードラゴンに向かって行くとその翼をどんどん燃やしていった。翼が焼かれたレッサードラゴンは飛行することが困難となり、どんどん地上へと落ちて行った。
飛べない小竜など脅威ではない。最初は炎竜にびっくりしていた町の防壁の上にいた衛兵達であったが、炎竜が去っていくとレッサードラゴンへ向かって魔法や矢で止めを刺していった。
炎竜に丸焦げにされ、既に息をしていない個体も多く、後は衛兵の攻撃でみるみる動くレッサードラゴンは居なくなっていった。
目立つつもりもなかったので、落ち着くまで少し離れたところで休憩することとした。周辺の森を探索すると、オランの町に在ったような広場と小屋が見つかった。そこへ降りたち小屋を確認したが、もはや誰もいなかった。
広場で夕ご飯を作り、日が落ちてからそっと町壁を乗り越え、町の中へ入った。
「レーコ達は何をしてるんだろう?」
「多分、高級宿にいると思うよ」
「ありえる・・・」
ギルドでこの町の高級な宿を聞くと、1軒だけ存在するという。
早速向かってみた。
「あー、ジュンイチ達、遅かったねー」
「遅かったじゃねぇ!何してんだ!」
「えっ?何ってリゾート?」
「いや、レッサードラゴンの討伐は?」
「どうせジュンイチ達がすると思って、面倒だから待ってたのよ?それよりこの宿すごいのよ?食事は豪勢だし、天然の温泉もあるし、温水プールもあるのー」
・・・まあ、どうでもいいです。
「とりあえず、リョウはここに泊まってのんびりしなさいよ。トーベはゴールドランクになるのにまだかかるそうだから、ジュンイチはついでに東の町のも討伐してきて」
「えー、なんでそんなことになるんだ」
「だって、リョウも行く必要ないでしょ。ジュンイチ一人でできるはずだし、飛んでいけばすぐじゃん」
・・・おっしゃる通りです、おっしゃる通りですが、納得できません。
「ジュンイチだけなんてかわいそうだから、私も行くわ」
「いや、リョウはここに居て。大丈夫大丈夫、一人で行ってくるから」
リョウにそういわれると、やはり見栄を張るジュンイチであった。
流石に一泊だけ泊まらせてもらって、次の日携帯食を補充したジュンイチは、ショートカットで東の町に飛んで行くのだった。
「なんで僕だけなんだ。ぶつぶつ」
ぶつぶつ言いながら、東の町に着く。遠くからでも分かる範囲で緑の集団が見える。観察すると、後方に偉そうなゴブリンがいる様だ。
その真上まで行き、偉そうなゴブリンの集団を一気に凍らせてゆく。
ほぼ凍死したと思われたが、ゴブリンキングだけは氷剣で勝ち割っておいた。
「あとはほっとけばいいか?」
ゴブリンキングを瞬殺したジュンイチは夜空へ飛んで行くのであった。
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計画をつぶされた謎の集団は、その頃セイレーンの森にやってきていた。
「ここからは迷いの森だ」
「この手前に小屋を建てよう」
「ここから召還陣でモンスターを放ち、我々の根拠地を作るのだ」
計画を確認するよう話をし、周囲の木々を伐採していく3人の魔族がいたのであった。
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「固有武器がおいてあった場所は、もうその力はないわよ。例えばセイレーンの森なんかは以前迷いの森と言われていたけど、私が杖を取った後は多分迷う人は出てこないわ」
ジュンイチがゴブリンキングを倒して帰ってきてから、4人で雑談をしていた時レーコが話し出した。
「そういえば、僕のブレーサーがあった場所も潮の流れがなくなっていたよな」
「私のレイピアがあった火山はもう火山じゃなくなっているもんね」
「・・・」
「結局あの場所は、以前竜の場所だったの。そこに勇者の武器を預けてから、人を近づけないようになっていったそうよ」
「ケーゴの武器の場所は?」
「・・・洞窟の中。取ったら埋まった」
「よく無事だったね」
「体を固くして、身を守った。後は武器が伸びて、外に出してもらった」
「へー」
「ところでこれからどうする?」
「んー、私はまだここでのんびりしたいなー」
「そうだね、僕も少しのんびりしたいな」
「えージュンイチもー?」
「駄目なんかい!」
ということで、暫らくこの町で身を休めることにしたジュンイチ達であった・・・




